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狂乱の王

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ヴェルトール王国はダンブルの反乱を契機に
乱世の様相を呈していた。
王国に与する者、ダンブルの元に馳せ参じる者、
世の趨勢を日和見する者、機と見て独立する者、様々であった。

そんな中で王を僭称する一人の男が突然、
倒れてベッドに臥せっていた。
近臣たちは王を囲み、固唾を飲んで見守った。
純粋に王の回復を望むのばかりではなかったが、
どの臣下も表面上は深刻そうに表情を繕っていた。

呻き声は次第に小さくなり、王が寝息を立てはじめると
侍従と侍女に任せて、近臣たちは下がった。

翌日、王は目覚めると、朦朧とした中で玉座に座った。
王の無事を喜ぶ臣下たちは、様々な表情と言葉で祝った。

「王ヨ、よくぞご無事」

「おおっ、王の帰還だ」

「我が王は、不死身だ」

王は手渡された銀色のコップを見つめたままだった。
臣下は王の言葉を待ち、静まった。
王は一口、液体を口に含むと、立ち上がり
侍従に伴われて寝室に戻った。

王は寝室で一人になると、自分の手で身体中を触り、
鏡の前で裸になった。

「見知らぬ身体だ。これはどういうことだ」

素っ裸でベッドに転がると、
脳に浮かび上がる記録を読み上げた。

この王と呼ばれる男の人生の記憶以外に
クラスSR、残虐・拷問行使・舞踊・礼儀作法・
剣士・鈍足・精力絶倫・騎乗・貴族の矜持・享楽主義といった称号や
能力値が浮かび上がって来た。

「なんだ一体、なんなんだ、これは。
くそっ佐藤の野郎、何をしでかしやがった」
喚きたてていると、ドアをノックする音が聞えた。

「なんだ、何のようだ」

「お食事を用意いたしました」

言われて、腹が妙に減っていることに気が付いた。
入るように促すと、若い侍女が入室した。
侍女を眺めると、ごくりと唾を飲んだ。
佐藤程ではないが、男好きする女であった。
それはつまり、自分の好みの女であった。
記録によれば、俺は王でこの城で
やりたい放題できるはずであった。

テーブルに食事を配膳する侍女に近づくと、
腕を掴み、ベッドに引きずり込んだ。

侍女は少し抵抗する素振りを見せた。
「お戯れを。病み上がりにございます」

嫌がる侍女に己の欲望の赴くままに振舞った。
一通り欲望を満たすと王は薄笑いを浮かべた。

「くっくっ。記録によれば、王か。
うざったい上司もいなければ、
へつらうための会長や社長もいない。
生意気な部下にはやりたい放題だな。
悪くないな、コレも」

島崎の脳に何かが流れ込んできた。
称号『狂乱の王』を所得しました。

島崎は唸り声をあげて、嫌がる女をもう一度、
ベッドに引き込んだ。

ここに『狂乱の王』が誕生した。
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