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620.閑話 とある夜の会社の情景2

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 千晴の翌朝の寝覚めがあまり良くなかった。
気だるい身体を押して、出社した。
毎日、変わらない各管理職へのコーヒーの準備、
謎の朝礼の段取り等々が一段落すると、
千晴はほっと一息ついた。
管理職がぽつぽつと出社し始め、千晴と同僚は彼らに
コーヒーを配膳し、内心とは裏腹のにこやかな挨拶をした。
社員も続々と出社しており、先ほどまで静かだった事務所は、
朝の喧噪で騒がしくなり始めていた。
作業を終えて、千晴が自分のデスクに戻ろうとした時、
莉々子と通路ですれ違った。

「ひっ」

思わず千晴は小さく叫んでしまった。

コンシーラ―で隠し切れない程の黒い隈。
目の周りは窪み、黒目は異常にぎらついてた。
その眼が千晴を認識したのかどうか定かではないが、
一瞬、大きく見開いたように千晴には思えた。
千晴は背中に変な汗をかいた。

「佐藤さん、そろそろ朝礼が始まるよ」
清涼から声をかけられて、千晴は我に返り、
朝礼の行われる広間に小走りで向かった。

別段、特別な事も起こらず、千晴は昼食時間を迎えた。
食堂で食事を取りながら、今朝の莉々子の件を思い返していた。
何かあったことは容易に想像ついた。
莉々子が昨晩、『ヴェルトール王国戦記』を
プレイしていたことは間違いなかった。
ゲームごときでまさかあそこまで憔悴するとは
千晴には思えなかった。
なるべく近づかないようにすべきと心がけて、
足早に自分のデスクに戻った。

 何事もなく週末を迎えられたことに千晴は感謝した。
タイムカードを押せば、これで花金からの土日の休日だと
思うと千晴は自然と笑みが浮かんでしまった。
変わらず莉々子は酷い顔つきなのが気になったが、
千晴にはどうすることもできないため、気にすることを止めた。

「うーん、帰ろう!」

最寄りのスーパーで買い物をしてマンションに戻ると、
丁度、会社から連絡が来た。

「もしもし、佐藤さん?施工部の壁山だけど、今、いいですか?」

「おつかれさまです。
はい、大丈夫ですけど、どうされましたか?」
業務時間外な上に大して親交もない壁山からの電話であったが、
千晴は丁寧に対応した。

「いや、本当に申し訳ない。
何点か経理処理を至急、して欲しいんだけど。
申請処理された請求書のコピーというか
証明になる写真でもいいから施工現場に
持っていかないならないんだ。
他の経理メンバーは連絡が付かないし、お願いできませんか?」

壁際の昼行灯壁山と揶揄される男のことだ、
何かやらかしたのだろうと千晴は想像した。
「処理と言いましても明日の朝一でもいいでしょうか?
それと清涼課長代理に確認しますね」

千晴は、流石に今から出社する気にならない上に
上長の許可を得るというしごく当たり前の事を
壁山に伝えた。
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