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614.鍛冶師17

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「ところでシエンナは何故ここに?」

誠一の言葉でシエンナがむくれた表情をした。

「どうしてって!どこにもいないからでしょ。
まったくもう、冒険者ギルドにも商業ギルドにも
宿にもいないし。
先生が鍛冶屋に酔っぱらいながら向かってなければ、
街を彷徨ってたわよ」

プンスカするシエンナに何かを察したラッセルが
直立不動の態で声をかけた。
「これはお初お目にかかります。モリス商会のお嬢様。
普段から御贔屓にして頂き、真にありがとうございます」

「あっ、すみません。そう言えば、始めてお会いしますね。
アルからお話は伺っています。
ボーリス・モリスの娘のシエンナです。
ここにはスターリッジが何度かお邪魔しているようで。
こちらこそ良い品を卸して頂いて助かっています」

如才なく応対するシエンナに誠一もヴェルの素直に
感心の目を向けていた。

「なっ何よ、2人とも」
普段と違う二人の尊敬の眼差しにシエンナは
動揺して、素が出てしまった。

「うーん、残念。
まあでもシエンナ、挨拶は済んだし、
普段通りで大丈夫だよ」

「おう、そうだぞ。不覚にも感心しちまった。
まあ、でもあれだ。直ぐに馬脚を露したけどな」
相変わらず一言余計なことを付け加えるヴェルだった。

流石に初対面のラッセルのいる前では
シエンナの強烈な一撃が放たれることは無かった。

代わりに申し訳程度にアミラが突っ込みを入れていた。
「ヴェル、その言葉は台無しなのです」

流石にアミラに言われて、ヴェルは言葉に詰まった。
「ぐっ。シエンナ、言い過ぎたわ。すまない」

ヴェルの態度に満足そうなアミラであった。
誠一とシエンナは二人のやり取りを見て、
同じような想像をした。

将来、ヴェルは確実にアミラの尻に敷かれるなと。

「ふむふむ、それでは本題にはいりましょうかな。
ラッセル殿、これをアルフレート様、ヴェル、
シエンナの武器にはめ込むでござる」

ラッセルは剣豪がテーブルに置いた魔石をまじまじと見つめた。
それはカーリーも同様であった。

 透き通るような透明の魔石、
青白く赤白くゆっくりと変色する魔石、
見た者の瞳を捉えて吸い込む様な深青の魔石。

ただの魔石でないことは、その色と輝きから
素人でも感じられるほどであった。

「ふっ、そういうことか。
何か目的があるとは思っていたが、こういうことだったか」
ロジェが納得したように深くため息をついた。

「まったく素直じゃない男ね。それより私たちの分がないじゃない」
キャロリーヌが不満げにため息をついた。

「ふむ、マリアンヌではないが、圧倒的な実力差の者と本気で戦う。
それは途方もなく貴重なことでござる。
それに闇の勢力圏や大森林へ赴いた時、
これらの魔石はゲットできたでござる。たまたでござる。
ロジェやキャロリーヌ、サリナに合うような魔石は
屑石しか得られなかったので、なしでござる」

剣豪はぽりぽりと頭を掻いた。
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