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607.鍛冶師10
しおりを挟む「はっはあ」
ラッセルは終わる事の無さそうなアミラのヴェルへの
賛美に困り始めいた。
ヴェルが遠慮気味に何度か止めようとするも無駄であった。
他のメンバーは微笑ましく見守っていた。
「そっそう、そうなんですね。
ヴェルさんは、あなたにとって、素晴らしい男性なんですね」
ラッセルが何とか言葉を挟むと、
ようやく我が意を得たとばかりにアミラが
すぐさま合いの手を打った。
「その通りです。私のフィアンセは素晴らしです」
「そうでしたか!アミラさんは男性を見る目がありますね」
納得の表情でアミラが続けた。
「ヴェル!ラッセルさんって素晴らし方です。
わたしもここで何か武具を買いたいです」
「そうか、アミラも何か探すか!
なら工房へ先に戻って武具を一緒に見ようか」
ヴェルがアミラに悟られないようにラッセルに視線を送った。
ラッセルもその視線を見逃さずに上手く纏めた。
「ありがとうございます。
ではヴェルさんとアミラさんは
先に戻って武具を選んでください」
上機嫌のアミラはヴェルの腕を引っ張りながら、
工房の方へ向かった。
「ラッセルさん、すみません」
誠一が長話に付き合わせたことを謝った。
「いえいえ、武具も売れそうですし、
こちらがお礼を言いたいくらいです。
しかし恐ろしく強くなったものですね。
想像以上の強さに全く歯が立たなかったです。
それにアミラさんは、竜人ですよね」
「あれでもまだ、ヴェルは補助魔術を展開してないですから。
アミラは、竜公国に仕える武人グロウさんの一人娘です」
ラッセルは長い腕を組みながら、誠一を見つめた。
「君の周りには優秀で有望な人物が集まりますね。
羨ましい限りです」
「そういう意味ではラッセルさんも
優秀で有望ということになりますね」
冗談めかした言葉とは裏腹に誠一の表情は
真剣そのものであった。
ラッセルは笑った。心の底から笑った。
「これは一本、取られました。
参った参った、これからも精進しましょう。
本当は師匠と共にそう言って貰いたかったですけどね」
ラッセルの笑いに涙が混じっていた。
「いつかまた、分かり合える時が来ますよ」
「そうかそうですね。僕ら人とは師匠は違います。
長い生涯の中でまた、鍛冶への情熱を
思い出すかもしれませんね。
ふうっ調子に乗って腕試しなんて、言ってしまって、
恥ずかしい限りです。
武具の調整の打ち合わせと欲しい武具が
あれば言ってください。調整します」
ラッセルがそう言って、工房へ戻ろうとした時、
マリアンヌが細剣をラッセルから借り受けた。
「ふむ、良い剣だ。
さて、先ほどの技は戦場では中々、難しいな」
ラッセルと同様、否、それ以上に細剣と腕が揺らいでいた。
ラッセルは唖然としてマリアンヌを凝視していた。
それはこの技を良く理解する誠一も同様であった。
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