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565.閑話 とある料理店での情景3
しおりを挟む清涼は訝し気な表情で千晴に尋ねた。
「ちょっと聞くけど、千晴は誰かに尾行されているとか
監視されているとか気になったことない?」
千晴は胡散臭げな表情で清涼に答えた。
「清涼さん、何を言いだすかと思えば、全くそんなことないですよ」
清涼は額に手を当ててわざとらしく椅子にもたれ掛かった。
「千晴といるとたまに変な視線を感じるけど。まあ、気のせいだったかな」
「やだなー清涼さん、驚かせないでくださいよ」
清涼が何か言おうとした時、丁度、メインの肉料理が配膳された。
そのため、会話は一時中断された。
料理の簡単な説明を受けたが、千晴にはさっぱりであった。
一方で清涼は分っている様な雰囲気で相槌をうって聞いていた。
千晴は清涼に感心してしまった。
千晴の視線に気づいた清涼はウェイターが去ると
すかさず千晴に言った。
「千晴、一応、言っておくけど、良く分かっていないから、
この料理について聞かないでね」
「美味しいことは分かるから、それで十分ですよ」
千晴の言葉に清涼はほっとしたのか、料理から話題を
『ヴェルトール王国戦記』の方へ再び転じた。
「アパートの件は誠一君に暫く伝えない方がいいな。
近々、大きなイベントがあるって告知されているから。
来週の水曜の祭日に開催されるらしい」
そんな告知あったっけと頭の中の記憶を掘り返す千晴であった。
「その顔は知らないな。
まあ、誠一君は何を指示しても思い通りに動かないから、
チェックの必要ないか。
運営の掲示板で千晴に重要になるのは
特別チケットで引ける排出率アップイベくらいかな。
それも近々、あるからさ。
その時に課金用のチケット使ってみればいいよ。
それよりもダンブル皇帝派とヴェルトール王国の
一大決戦の方が今は重要か。
誠一君はまあ、あの状況だから、ヴェルトール王国側だろうね」
千晴には理解の及ばない話ばかりだったので、
適当に相槌をうちつつ、貯まった特別チケットで
運試しでもしてみるかとぼんやりと思った。
ふと千晴は、掲示板に公開されていた
Title:ヴェルトール『王国 アルフレート・フォン・
エスターライヒ狩猟祭開催中』のことを思い出した。
「そういえば、清涼さん。
あのアルフレート狩猟祭はどうなったんですかね」
デザートを堪能しながら、千晴は莉々子の開催したイベントに
ついて考えていた。
「あれか!あんなくだらないイベントは長続きしないよ。
プレイヤーキルのイベントは余程の事がない限り忌避されるしね。
一部の馬鹿が騒いだだけだよ。
ほんとあんなことを開催するなんて馬鹿な女だよ」
心底軽蔑しているのか吐き捨てるように清涼は続けた。
「一応、忠告をしておいたから、反省はしていると思う。
誠一君にちょっかい出して来たら、僕に言ってくれよ」
「その時はよろしくお願いします」
清涼は千晴の言葉に満足したのか、配膳されたコーヒーを飲みながら
上機嫌に雑談というかゲームの話に興じていた。無論、左手は常に
パッドを操作していた。
清涼のブレないその姿勢には千晴は妙に感心してしまった。
2人は食事を終えて会計に向かった。
千晴の心臓はバクバクと高鳴っていた。
一体、いくらなんだ。どうか法外な値段でないことを
祈るばかりであった。
当たり前のように清涼が支払う素振りを見せた。
奢られる訳にはいかないと千晴は、清涼に払う旨を伝えた。
清涼の表情が若干、曇ったが、ささっと清涼は払った。
一瞬であるが千晴の目に金額が入った。
いやいやいやないわー。一食で一か月分の食費×2が飛んだ。
その事実に千晴は悪酔いしたような気分になってしまった。
「千晴、行くよ。
それとここは僕がもつから、ぐだぐだ言わないでね」
有無を言わさない力強さを清涼に感じて、
千晴は素直にお礼を伝えた。
清涼は千晴のお礼の言葉を聞くと嬉しそうに笑った。
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