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555.大会戦27

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「おっおい、アル!しっかりしろよ。ここは戦場だぞ。
ぼんやりするなよ、敵はあれだけじゃねえぞ」
ヴェルが誠一を叱咤した。

「あっああ、悪い。確かに周りの貴族たちの護衛たちは
逃げ出してないね」

ファウスティノとエヴァニアに戦いを挑む者もまれにいたが、
相手になっていなかった。
レア度もHR以上であり、冒険者ランクも高く
経験を積んだ者たちであったが、2人を前にして
大半の者たちは逃げ出していた。

「命あっての物種だ。彼らの実力や経験なら
二人の絶対的な強さを肌で感じられるだろう」
ロジェの嘆息に誠一が答えた。

「あれを見れば、強さを感じられなくとも逃げ出しますよ」
目の前で広がる光景に誠一の脳裏には虐殺という言葉が
脳裏に過った。無論、ここは戦場であり殺し合いの場であった。
虐殺とは違うと思いながらも二人の力による一方的な殺戮に
誠一は目を背けていた。

「明日は我が身。もっと成長しないと
この世界では生きていくことは難しい」
誠一はぽつりと呟いていた。

圧倒的な強者による容易な命の搾取を目の前にして、
誠一は杖を強く握しめていた。

 陽は陰り周囲は暗くなり始めていた。
遠くからも近くからも怒号や叫び声が
あまり聞こえなくなっていた。
誠一たちの周りも敵の姿は地に転がる死体だけであった。
死にきれず呻き声が聞えることもあったが、
応じる者は皆無であった。
いつの間にかガズンスやシャービスは姿を消していた。
暗がりのためにダンブルの最有力の協力者であるバリーの死体も
確認をすることができなかった。
高級そうな鎧に身を包んだ死体が
いくつも転がっているところを見ると、
ダンブルに与した地位の高い貴族や将軍が
幾人も亡くなったことが誠一にも窺い知ることが出来た。
幾人かは頭が潰されており、その鎧から後々に誰であったか
確認がされるであろう。

ふと誠一は後方に凄まじい熱波を感じた。
目を向けると、地上に陽を灯す星が現れたと
錯覚するような巨大な炎がこちらに向かって来ていた。

「あれは、ヴェルのフレイムチャージのような技だね」
誠一の言葉にヴェルは吹き上がる炎を見て、悔しそうに呻った。
「ぐっ、アル!あれはもう別もんだろうよ。
魔術でなく精霊の力を借りてんだろ。
フレイムチャージのような貫通力はないって。
あれは炎がデカいだけで見かけ倒しだ」

その炎の主はもぬけの殻となった本陣に居る誠一たちの方へ
向かって来ているようだった。

疲労困憊の誠一たちであったが、武器を各々構えた。
ファウスティノとエヴァニアは気にした風もなく、
撲殺した敵将たちの遺体を確認していた。
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