上 下
542 / 825

533.大会戦5

しおりを挟む
「カルザティぃぃー」

「レドリアン導師か。随分とやつれたものだな」

「貴様も栄えあるヴェルトール王国魔術学院の出身だろう。
ファウスティノの魔術院など師事しやがって。この恥さらしが」

カルザティはため息をついていた。
「いつまでも古きものに価値を求めるも良し。
しかし、まあ人にそれを押し付けるのはいかかがなものかな」

魔術防御陣を張りつつ、攻撃魔術を駆使するレドリアンの姿は
正に魔術を極める者たちの理想、手本であった。
しかし、それはファウスティノの魔術スタイルが
台頭してくるまでのものであった。

「ほう、流石、導師。お見事。
しかし、それで通用するのは三席まで。
それより先はまともな魔術師や賢者では辿り得ぬ境地」

炎に風、襲いかかる魔術に向けてカルザティが
杖を一振りさせると、全て消失した。

「レドリアン導師、戻って来なさい。
反省して城の地下牢で暫く過ごせば、私が取りなしましょう。
それは猿でもできることですし、あなたでも出来るでしょう。
貴公は魔術師としては3流でも組織運営などには見るべきものがあるので。
まったく早く本読みたい」

レドリアンの蒼白い顔は、真っ青になっていた。
その表情を見たカルザティは顔面蒼白とはこう言うことを
いうのだなと物珍し気にレドリアンを眺めた。
レドリアンの後方では、味方同士の凄惨な殺し合いが続いていた。
二人は気にも止めずに魔術戦を継続していた。

「きっ貴様とて、無限に魔力がある訳ではないだろう。
こんな大魔術を行使すれば、残りの魔力は高が知れている」

 レドリアンは杖を握り直して、心を落ち着けると再び魔術を唱えた。
対してカルザティは全く変わらずの雰囲気でそれに応じた。

 中央を邁進していたダンブルの軍は攻守反転して押され気味となった。

 ダンブル皇帝軍本陣では、戦局の変化に対して
部下に前線での指揮を任せている諸将・諸貴族が一喜一憂していた。
中央の軍が押され気味であり、彼等の表情は優れなかった。
その上、時節、風によって運ばれてくる血の臭いと
戦場の叫び声が彼らを不快にさせた。

「ナサレノでは鬼谷は抑えきれぬか」
ダンブルは抑揚のない声で呟いた。

宮廷魔術師シャービスは、ダンブルの言葉に応じた。

「同じS級ですが、ナサレノにとっては相性がよろしくありません。
賊軍に与する傭兵団に右翼のジェイコブが崩壊するのは計画通りですが、
中央を突破されるのは頂けません。左翼は何とか戦線を維持しております」

「ふむ、仕方あるまいな。誰かおらぬか!
鬼谷を倒して名を上げたき者は」

本陣の諸将は俯き誰もダンブルと視線を
合わせようとする者はいなかった。

無論、名乗りを上げる者は皆無であった。

その状況にダンブルの口元がにやりと吊り上がった。
「まあよい。戦場であっても命を惜しむのは世の常。
ガズンス、行け。ナサレノを助けるだけでなく、倒してもいいぞ」
ダンブルの筆頭護衛騎士のガズンスは、一礼すると
すぐさま本陣を出て行った。

「シャービスよ。中央に陣取る『王宮書庫のアーカイブ』殿はどう見る」
今度は魔術戦を展開する二人の将について問うダンブルに
シャービスは答えた。

「放置しておいても良いかと。
あれ程の大魔術を行使した上でレドリアン導師を
相手取るのは流石に厳しいかと。
導師がカルザティの話術に振り回されなければ、
魔力が尽きてそのうち退くでしょう。
魔術師団の再編のためにそこで
俯いている5席と6席の宮廷魔術師を
派遣させては如何がと」

ダンブルは楽しそうであった。
「はっはははっ。
俯いていても命令が下れば向かわざるを得ないな。
5席、6席の宮廷魔術師殿は魔術師団を再編すべく急行せよ」

戦場の最前線で戦うことを厭う諸貴族たちは
能面の様な表情でダンブルの笑いに唱和することはなかった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

鬼神の刃──かつて世を震撼させた殺人鬼は、スキルが全ての世界で『無能者』へと転生させられるが、前世の記憶を使ってスキル無しで無双する──

ノリオ
ファンタジー
かつて、刀技だけで世界を破滅寸前まで追い込んだ、史上最悪にして最強の殺人鬼がいた。 魔法も特異体質も数多く存在したその世界で、彼は刀1つで数多の強敵たちと渡り合い、何百何千…………何万何十万と屍の山を築いてきた。 その凶悪で残虐な所業は、正に『鬼』。 その超絶で無双の強さは、正に『神』。 だからこそ、後に人々は彼を『鬼神』と呼び、恐怖に支配されながら生きてきた。 しかし、 そんな彼でも、当時の英雄と呼ばれる人間たちに殺され、この世を去ることになる。 ………………コレは、そんな男が、前世の記憶を持ったまま、異世界へと転生した物語。 当初は『無能者』として不遇な毎日を送るも、死に間際に前世の記憶を思い出した男が、神と世界に向けて、革命と戦乱を巻き起こす復讐譚────。 いずれ男が『魔王』として魔物たちの王に君臨する────『人類殲滅記』である。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。 この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。 ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。 少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。 更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。 そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。 少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。 どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。 少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。 冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。 すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く… 果たして、その可能性とは⁉ HOTランキングは、最高は2位でした。 皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°. でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )

異世界召喚された回復術士のおっさんは勇者パーティから追い出されたので子どもの姿で旅をするそうです

かものはし
ファンタジー
この力は危険だからあまり使わないようにしよう――。 そんな風に考えていたら役立たずのポンコツ扱いされて勇者パーティから追い出された保井武・32歳。 とりあえず腹が減ったので近くの町にいくことにしたがあの勇者パーティにいた自分の顔は割れてたりする? パーティから追い出されたなんて噂されると恥ずかしいし……。そうだ別人になろう。 そんなこんなで始まるキュートな少年の姿をしたおっさんの冒険譚。 目指すは復讐? スローライフ? ……それは誰にも分かりません。 とにかく書きたいことを思いつきで進めるちょっとえっちな珍道中、はじめました。

冒険者をやめて田舎で隠居します

チャチャ
ファンタジー
世界には4つの大陸に国がある。 東の大陸に魔神族、西の大陸に人族、北の大陸に獣人族やドワーフ、南の大陸にエルフ、妖精族が住んでいる。 唯一のSSランクで英雄と言われているジークは、ある日を境に冒険者を引退して田舎で隠居するといい姿を消した。 ジークは、田舎でのんびりするはずが、知らず知らずに最強の村が出来上がっていた。 えっ?この街は何なんだ? ドラゴン、リザードマン、フェンリル、魔神族、エルフ、獣人族、ドワーフ、妖精? ただの村ですよ? ジークの周りには、たくさんの種族が集まり最強の村?へとなっていく。

虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ
ファンタジー
【虐殺者《スレイヤー》】の汚名を着せられた王国戦士エリクと、 【才姫《プリンセス》】と帝国内で謳われる公爵令嬢アリア。 互いに理由は違いながらも国から追われた先で出会い、 戦士エリクはアリアの護衛として雇われる事となった。 そして安寧の地を求めて二人で旅を繰り広げる。 暴走気味の前向き美少女アリアに振り回される戦士エリクと、 不器用で愚直なエリクに呆れながらも付き合う元公爵令嬢アリア。 凸凹コンビが織り成し紡ぐ異世界を巡るファンタジー作品です。

処理中です...