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533.大会戦5

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「カルザティぃぃー」

「レドリアン導師か。随分とやつれたものだな」

「貴様も栄えあるヴェルトール王国魔術学院の出身だろう。
ファウスティノの魔術院など師事しやがって。この恥さらしが」

カルザティはため息をついていた。
「いつまでも古きものに価値を求めるも良し。
しかし、まあ人にそれを押し付けるのはいかかがなものかな」

魔術防御陣を張りつつ、攻撃魔術を駆使するレドリアンの姿は
正に魔術を極める者たちの理想、手本であった。
しかし、それはファウスティノの魔術スタイルが
台頭してくるまでのものであった。

「ほう、流石、導師。お見事。
しかし、それで通用するのは三席まで。
それより先はまともな魔術師や賢者では辿り得ぬ境地」

炎に風、襲いかかる魔術に向けてカルザティが
杖を一振りさせると、全て消失した。

「レドリアン導師、戻って来なさい。
反省して城の地下牢で暫く過ごせば、私が取りなしましょう。
それは猿でもできることですし、あなたでも出来るでしょう。
貴公は魔術師としては3流でも組織運営などには見るべきものがあるので。
まったく早く本読みたい」

レドリアンの蒼白い顔は、真っ青になっていた。
その表情を見たカルザティは顔面蒼白とはこう言うことを
いうのだなと物珍し気にレドリアンを眺めた。
レドリアンの後方では、味方同士の凄惨な殺し合いが続いていた。
二人は気にも止めずに魔術戦を継続していた。

「きっ貴様とて、無限に魔力がある訳ではないだろう。
こんな大魔術を行使すれば、残りの魔力は高が知れている」

 レドリアンは杖を握り直して、心を落ち着けると再び魔術を唱えた。
対してカルザティは全く変わらずの雰囲気でそれに応じた。

 中央を邁進していたダンブルの軍は攻守反転して押され気味となった。

 ダンブル皇帝軍本陣では、戦局の変化に対して
部下に前線での指揮を任せている諸将・諸貴族が一喜一憂していた。
中央の軍が押され気味であり、彼等の表情は優れなかった。
その上、時節、風によって運ばれてくる血の臭いと
戦場の叫び声が彼らを不快にさせた。

「ナサレノでは鬼谷は抑えきれぬか」
ダンブルは抑揚のない声で呟いた。

宮廷魔術師シャービスは、ダンブルの言葉に応じた。

「同じS級ですが、ナサレノにとっては相性がよろしくありません。
賊軍に与する傭兵団に右翼のジェイコブが崩壊するのは計画通りですが、
中央を突破されるのは頂けません。左翼は何とか戦線を維持しております」

「ふむ、仕方あるまいな。誰かおらぬか!
鬼谷を倒して名を上げたき者は」

本陣の諸将は俯き誰もダンブルと視線を
合わせようとする者はいなかった。

無論、名乗りを上げる者は皆無であった。

その状況にダンブルの口元がにやりと吊り上がった。
「まあよい。戦場であっても命を惜しむのは世の常。
ガズンス、行け。ナサレノを助けるだけでなく、倒してもいいぞ」
ダンブルの筆頭護衛騎士のガズンスは、一礼すると
すぐさま本陣を出て行った。

「シャービスよ。中央に陣取る『王宮書庫のアーカイブ』殿はどう見る」
今度は魔術戦を展開する二人の将について問うダンブルに
シャービスは答えた。

「放置しておいても良いかと。
あれ程の大魔術を行使した上でレドリアン導師を
相手取るのは流石に厳しいかと。
導師がカルザティの話術に振り回されなければ、
魔力が尽きてそのうち退くでしょう。
魔術師団の再編のためにそこで
俯いている5席と6席の宮廷魔術師を
派遣させては如何がと」

ダンブルは楽しそうであった。
「はっはははっ。
俯いていても命令が下れば向かわざるを得ないな。
5席、6席の宮廷魔術師殿は魔術師団を再編すべく急行せよ」

戦場の最前線で戦うことを厭う諸貴族たちは
能面の様な表情でダンブルの笑いに唱和することはなかった。

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