538 / 851
529.大会戦1
しおりを挟む
女王自らの出征で大いに士気の上がるヴェルトール王国軍。
常に一抹の不安は戦につきまとうものであるが、
市中も大いに盛り上がっていた。
正門を通過する軍を王国民の盛大な歓声が送り出していた。
「これは壮観だな」
誠一は仲間と傭兵部隊に所属し、戦場に向かって移動を開始した。
「魔王討伐軍男出征ですら、流石にこれほどの歓声と
賑わいではなかったな」
近くを行軍する別の年配冒険者グループが
仲間内で興奮気味に話していた。
「そうだな。確かにこれほどまではなかった。
これほどの大戦も久々だろう」
ヴェルトール王国軍は主城に比較的近い街道沿いの
広大な平原を会戦の場と捉えており、
行軍速度は非常にゆっくりであった。
お互いの斥候は既に両軍を捉えており、
会敵するのは時間の問題であった。
「随分と主城に近い場所へ野戦を仕掛けるんですね」
誠一の言葉にロジェが答えた。
「恐らく魔物襲来の時の故事に倣うつもりなのだろうな。
あの大平原はその時の場所だ」
それは昔の英雄譚であった。
魔物の大軍が王都に向かって襲来した時、
王都は恐慌状態に陥った。
その時、王都を背にして魔物の大軍へ向かった一軍がいた。
王都を背に決死の覚悟を決めて進軍し、魔物を撃破した。
その時の大将は時の魔王を撃破した勇者より評されて国の礎を築いた。
「背城の陣ですか」
「そうだな、言葉にすればそうだな」
そのまま、ロジェは続けた。
「兵の疲労、輜重の距離、予備兵の補充。
ここを抜かれない限り優位な点は多い。ただ」
「ただ?」
「強いて言うならば、街道沿いの街々は反乱軍に落とされるだろう。
それを世情がどう捉えるかだな」
誠一はただ頷くのみだった。所詮は一軍に属する一兵卒。
軍の中枢部の意向に従うのみであった。
晴天の時、両軍は激突した。地が暗闇に覆わるほどの矢玉と魔術が
両軍から放たれた。
魔術よる防壁、盾の隙間を矢玉や魔術が兵士たちに襲いかかった。
あっけなく命を落とす者、傷を負い、戦線離脱を
余儀なくされる者たちがいた。
誠一たちはどうにかこの矢戦をやり過ごした。
そして、敵軍と会敵した。
一兵卒である誠一たちは全体の戦況など分かる筈もなく、
指揮官の指示に従って正面の敵兵を倒すことで精一杯であった。
誠一たちのいる戦線は、若干、押され気味であった。
時折、凄まじい爆音が戦場に響き渡っていた。
そこかしこで怒号と悲鳴が上がっていた。
誠一にとって初めての大きな戦である。
いつの間にかロジェたちと離れてしまっていた。
そしてひっきりなしに敵兵と刃を交えた。
今、誠一の目の前で短槍を振るっているのは、
正規兵でなく雇われの兵であることは
身に付けている粗末な鎧から容易に想像できた。
常に一抹の不安は戦につきまとうものであるが、
市中も大いに盛り上がっていた。
正門を通過する軍を王国民の盛大な歓声が送り出していた。
「これは壮観だな」
誠一は仲間と傭兵部隊に所属し、戦場に向かって移動を開始した。
「魔王討伐軍男出征ですら、流石にこれほどの歓声と
賑わいではなかったな」
近くを行軍する別の年配冒険者グループが
仲間内で興奮気味に話していた。
「そうだな。確かにこれほどまではなかった。
これほどの大戦も久々だろう」
ヴェルトール王国軍は主城に比較的近い街道沿いの
広大な平原を会戦の場と捉えており、
行軍速度は非常にゆっくりであった。
お互いの斥候は既に両軍を捉えており、
会敵するのは時間の問題であった。
「随分と主城に近い場所へ野戦を仕掛けるんですね」
誠一の言葉にロジェが答えた。
「恐らく魔物襲来の時の故事に倣うつもりなのだろうな。
あの大平原はその時の場所だ」
それは昔の英雄譚であった。
魔物の大軍が王都に向かって襲来した時、
王都は恐慌状態に陥った。
その時、王都を背にして魔物の大軍へ向かった一軍がいた。
王都を背に決死の覚悟を決めて進軍し、魔物を撃破した。
その時の大将は時の魔王を撃破した勇者より評されて国の礎を築いた。
「背城の陣ですか」
「そうだな、言葉にすればそうだな」
そのまま、ロジェは続けた。
「兵の疲労、輜重の距離、予備兵の補充。
ここを抜かれない限り優位な点は多い。ただ」
「ただ?」
「強いて言うならば、街道沿いの街々は反乱軍に落とされるだろう。
それを世情がどう捉えるかだな」
誠一はただ頷くのみだった。所詮は一軍に属する一兵卒。
軍の中枢部の意向に従うのみであった。
晴天の時、両軍は激突した。地が暗闇に覆わるほどの矢玉と魔術が
両軍から放たれた。
魔術よる防壁、盾の隙間を矢玉や魔術が兵士たちに襲いかかった。
あっけなく命を落とす者、傷を負い、戦線離脱を
余儀なくされる者たちがいた。
誠一たちはどうにかこの矢戦をやり過ごした。
そして、敵軍と会敵した。
一兵卒である誠一たちは全体の戦況など分かる筈もなく、
指揮官の指示に従って正面の敵兵を倒すことで精一杯であった。
誠一たちのいる戦線は、若干、押され気味であった。
時折、凄まじい爆音が戦場に響き渡っていた。
そこかしこで怒号と悲鳴が上がっていた。
誠一にとって初めての大きな戦である。
いつの間にかロジェたちと離れてしまっていた。
そしてひっきりなしに敵兵と刃を交えた。
今、誠一の目の前で短槍を振るっているのは、
正規兵でなく雇われの兵であることは
身に付けている粗末な鎧から容易に想像できた。
0
お気に入りに追加
117
あなたにおすすめの小説
目覚めた世界は異世界化? ~目が覚めたら十年後でした~
白い彗星
ファンタジー
十年という年月が、彼の中から奪われた。
目覚めた少年、達志が目にしたのは、自分が今までに見たことのない世界。見知らぬ景色、人ならざる者……まるで、ファンタジーの中の異世界のような世界が、あった。
今流行りの『異世界召喚』!? そう予想するが、衝撃の真実が明かされる!
なんと達志は十年もの間眠り続け、その間に世界は魔法ありきのファンタジー世界になっていた!?
非日常が日常となった世界で、現実を生きていくことに。
大人になった幼なじみ、新しい仲間、そして……
十年もの時間が流れた世界で、世界に取り残された達志。しかし彼は、それでも動き出した時間を手に、己の足を進めていく。
エブリスタで投稿していたものを、中身を手直しして投稿しなおしていきます!
エブリスタ、小説家になろう、ノベルピア、カクヨムでも、投稿してます!
俺と幼女とエクスカリバー
鏡紫郎
ファンタジー
憧れた世界で人をやめ、彼女と出会い、そして俺は初めてあたりまえの恋におちた。
見知らぬ少女を助け死んだ俺こと明石徹(アカシトオル)は、中二病をこじらせ意気揚々と異世界転生を果たしたものの、目覚めるとなんと一本の「剣」になっていた。
最初の持ち主に使いものにならないという理由であっさりと捨てられ、途方に暮れる俺の目の前に現れたのは……なんと幼女!?
しかもこの幼女俺を復讐のために使うとか言ってるし、でもでも意思疎通ができるのは彼女だけで……一体この先どうなっちゃうの!?
剣になった少年と無口な幼女の冒険譚、ここに開幕
前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります
京衛武百十
ファンタジー
俺の名前は阿久津安斗仁王(あくつあんとにお)。いわゆるキラキラした名前のおかげで散々苦労もしたが、それでも人並みに幸せな家庭を築こうと仕事に精を出して精を出して精を出して頑張ってまあそんなに経済的に困るようなことはなかったはずだった。なのに、女房も娘も俺のことなんかちっとも敬ってくれなくて、俺が出張中に娘は結婚式を上げるわ、定年を迎えたら離婚を切り出されれるわで、一人寂しく老後を過ごし、2086年4月、俺は施設で職員だけに看取られながら人生を終えた。本当に空しい人生だった。
なのに俺は、気付いたら五歳の子供になっていた。いや、正確に言うと、五歳の時に危うく死に掛けて、その弾みで思い出したんだ。<前世の記憶>ってやつを。
今世の名前も<アントニオ>だったものの、幸い、そこは中世ヨーロッパ風の世界だったこともあって、アントニオという名もそんなに突拍子もないものじゃなかったことで、俺は今度こそ<普通の幸せ>を掴もうと心に決めたんだ。
しかし、二週目の人生も取り敢えず平穏無事に二十歳になるまで過ごせたものの、何の因果か俺の暮らしていた村が戦争に巻き込まれて家族とは離れ離れ。俺は難民として流浪の身に。しかも、俺と同じ難民として戦火を逃れてきた八歳の女の子<リーネ>と行動を共にすることに。
今世では結婚はまだだったものの、一応、前世では結婚もして子供もいたから何とかなるかと思ったら、俺は育児を女房に任せっきりでほとんど何も知らなかったことに愕然とする。
とは言え、前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に、何とかしようと思ったのだった。
オタクな母娘が異世界転生しちゃいました
yanako
ファンタジー
中学生のオタクな娘とアラフィフオタク母が異世界転生しちゃいました。
二人合わせて読んだ異世界転生小説は一体何冊なのか!転生しちゃった世界は一体どの話なのか!
ごく普通の一般日本人が転生したら、どうなる?どうする?
魔力無し転生者の最強異世界物語 ~なぜ、こうなる!!~
月見酒
ファンタジー
俺の名前は鬼瓦仁(おにがわらじん)。どこにでもある普通の家庭で育ち、漫画、アニメ、ゲームが大好きな会社員。今年で32歳の俺は交通事故で死んだ。
そして気がつくと白い空間に居た。そこで創造の女神と名乗る女を怒らせてしまうが、どうにか幾つかのスキルを貰う事に成功した。
しかし転生した場所は高原でも野原でも森の中でもなく、なにも無い荒野のど真ん中に異世界転生していた。
「ここはどこだよ!」
夢であった異世界転生。無双してハーレム作って大富豪になって一生遊んで暮らせる!って思っていたのに荒野にとばされる始末。
あげくにステータスを見ると魔力は皆無。
仕方なくアイテムボックスを探ると入っていたのは何故か石ころだけ。
「え、なに、俺の所持品石ころだけなの? てか、なんで石ころ?」
それどころか、創造の女神ののせいで武器すら持てない始末。もうこれ詰んでね?最初からゲームオーバーじゃね?
それから五年後。
どうにか化物たちが群雄割拠する無人島から脱出することに成功した俺だったが、空腹で倒れてしまったところを一人の少女に助けてもらう。
魔力無し、チート能力無し、武器も使えない、だけど最強!!!
見た目は青年、中身はおっさんの自由気ままな物語が今、始まる!
「いや、俺はあの最低女神に直で文句を言いたいだけなんだが……」
================================
月見酒です。
正直、タイトルがこれだ!ってのが思い付きません。なにか良いのがあれば感想に下さい。
第三王子に転生したけど、その国は滅亡直後だった
秋空碧
ファンタジー
人格の九割は、脳によって形作られているという。だが、裏を返せば、残りの一割は肉体とは別に存在することになる
この世界に輪廻転生があるとして、人が前世の記憶を持っていないのは――
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
筋トレ民が魔法だらけの異世界に転移した結果
kuron
ファンタジー
いつもの様にジムでトレーニングに励む主人公。
自身の記録を更新した直後に目の前が真っ白になる、そして気づいた時には異世界転移していた。
魔法の世界で魔力無しチート無し?己の身体(筋肉)を駆使して異世界を生き残れ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる