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491.使節団4
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ヴェルトール王国の動きは早く、誠一が使節団に
顔を出した数日後には、王宮にて現女王バリーシャの言葉を
賜っていた。
多分に儀礼的なことであり、既に宰相以下の宮廷官僚たちが
反乱軍との交渉に関する具体案は纏めていた。
現女王バリーシャを誠一は初めて見た。
生気に満ちた勝気な顔立ちが印象的であった。
誠一は、一瞬、視線を感じた気がした。
使節団出立の式典は、バリーシャの言葉をもって終わりとなった。
使節団に退出を促す宰相がぎょっとした顔でバリーシャの方を向いていた。
女王は玉座より立ち上がり、二度三度と手を叩いた。
「待て待て、ここまでは形式に則った式典だ。
これ以後は、ざっくばらんに話そうではないか」
バリーシャの吊り上がった目は明らかに
使節団の片隅にいる誠一を補足していた。
居並ぶ武官、文官は誰しもが諦めてように事の成り行きを
見守っていた。
宰相の顔が一回りやつれた様に誠一には見えた。
誰も諫めないところを見ると、女王の猪突猛進ぶりは
一同の知るところであり、あまり実害のない時だけに起こることなの
だろうと誠一は思うことにした。
「そうそう、今回の使節団には、世に高名なる吟遊詩人ファーリに
謳わる英雄がいると聞いた。宰相、違いないな」
念押しされた宰相は目を背けていた。
「御意」
「そうかそうか、それは真に重畳。
その英雄殿は、反逆者ダンブルを前にして、
己の白き鎧を真紅に染め上げると大言壮語したそうだな。
宰相、違いないな」
念押しされた宰相は俯いていた。
「御意」
誠一は嫌な予感しかしなかった。
「アルフレート・フォン・エスターライヒ。
魔術師と聞いている。ならば、白く塗り上げた皮の鎧を贈る。
それを着て、反乱軍との交渉に臨むが良かろう」
シエンナに促されて、始めて誠一はお礼の言上を
述べなければならないことに気づいた。
「ありがたき幸せ。戦になれば、反乱軍の血にて
白き鎧を真紅に染め上げてご覧にいれましょう」
誠一は一礼した。
バリーシャは満足気な顔つきで笑った。
「その言上、気に入った。
まずは、反乱軍どもを十分に激昂させてくるがよい。
それとだ、貴様自身の血で紅く染まらぬようにしろ」
バリーシャは上機嫌のままで広間より退室した。
宰相は解散を宣言すると急ぎ、女王の後を追った。
居並ぶ武官、文官は誠一の方を盗み見しながら、
ひそひそと話していた。
他の使節団員は真っ青な顔つきで誠一の方をなじる様に見ていた。
それもそうだろうなと誠一は思った。
交渉など始まる前に激昂した反乱軍に血祭りに
あげられるかもしれなかった。
要は時間稼ぎと交渉もまともにできぬ蛮族と
世間に印象を付けさせるための捨て駒の公算が非常に高かった。
将来に絶望して生気を感じさせない程、
ふらふらと左右に振れながら使節団員たちは王宮を後にした。
顔を出した数日後には、王宮にて現女王バリーシャの言葉を
賜っていた。
多分に儀礼的なことであり、既に宰相以下の宮廷官僚たちが
反乱軍との交渉に関する具体案は纏めていた。
現女王バリーシャを誠一は初めて見た。
生気に満ちた勝気な顔立ちが印象的であった。
誠一は、一瞬、視線を感じた気がした。
使節団出立の式典は、バリーシャの言葉をもって終わりとなった。
使節団に退出を促す宰相がぎょっとした顔でバリーシャの方を向いていた。
女王は玉座より立ち上がり、二度三度と手を叩いた。
「待て待て、ここまでは形式に則った式典だ。
これ以後は、ざっくばらんに話そうではないか」
バリーシャの吊り上がった目は明らかに
使節団の片隅にいる誠一を補足していた。
居並ぶ武官、文官は誰しもが諦めてように事の成り行きを
見守っていた。
宰相の顔が一回りやつれた様に誠一には見えた。
誰も諫めないところを見ると、女王の猪突猛進ぶりは
一同の知るところであり、あまり実害のない時だけに起こることなの
だろうと誠一は思うことにした。
「そうそう、今回の使節団には、世に高名なる吟遊詩人ファーリに
謳わる英雄がいると聞いた。宰相、違いないな」
念押しされた宰相は目を背けていた。
「御意」
「そうかそうか、それは真に重畳。
その英雄殿は、反逆者ダンブルを前にして、
己の白き鎧を真紅に染め上げると大言壮語したそうだな。
宰相、違いないな」
念押しされた宰相は俯いていた。
「御意」
誠一は嫌な予感しかしなかった。
「アルフレート・フォン・エスターライヒ。
魔術師と聞いている。ならば、白く塗り上げた皮の鎧を贈る。
それを着て、反乱軍との交渉に臨むが良かろう」
シエンナに促されて、始めて誠一はお礼の言上を
述べなければならないことに気づいた。
「ありがたき幸せ。戦になれば、反乱軍の血にて
白き鎧を真紅に染め上げてご覧にいれましょう」
誠一は一礼した。
バリーシャは満足気な顔つきで笑った。
「その言上、気に入った。
まずは、反乱軍どもを十分に激昂させてくるがよい。
それとだ、貴様自身の血で紅く染まらぬようにしろ」
バリーシャは上機嫌のままで広間より退室した。
宰相は解散を宣言すると急ぎ、女王の後を追った。
居並ぶ武官、文官は誠一の方を盗み見しながら、
ひそひそと話していた。
他の使節団員は真っ青な顔つきで誠一の方をなじる様に見ていた。
それもそうだろうなと誠一は思った。
交渉など始まる前に激昂した反乱軍に血祭りに
あげられるかもしれなかった。
要は時間稼ぎと交渉もまともにできぬ蛮族と
世間に印象を付けさせるための捨て駒の公算が非常に高かった。
将来に絶望して生気を感じさせない程、
ふらふらと左右に振れながら使節団員たちは王宮を後にした。
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