471 / 851
464.護衛2
しおりを挟む
「ふう、暑い」
照り付ける日の光を左腕で遮りながら、誠一は歩いた。
「おう、アルフレート君か。どうした?」
守備隊長は、誠一を見ると気さくな態度で接してきた。
人の良さそうな雰囲気の男であった。
「隊長、少し遠い場所ですが、黒煙が上がっています。
念のために偵察に向かいたいのですが」
誠一の言葉に守備隊長は、微笑みを絶やすことはなかったが、
若干、表情が曇っていた。
「アルフレート君、きみぃ、職務を理解しているかね。
我々の職務は、荷車や人足を主城まで護衛することだよ。
まずは目の前の業務に集中しないと。
そもそも君はまだ、学生だ。
色々なことに首を突っ込むような能力はないだろう」
誠一は隊長の意見も分からなくは無かった。
しかし、どうにも誠一は隊長の意見に頷けなかった。
誠一は食い下がった。
守備隊長の顔から笑顔が消えた。守備隊長は目を閉じた。
日の光が眩しい訳でないことは、誠一にも分かった。
「噂には聞いていたがな。あながち噂と言うのは
馬鹿にできないものだな。
独断専行、勝手気まま、君には困ったものだな」
腕を組み無口になる守備隊長。
重苦しい雰囲気が二人の間を支配した。守備隊長は重い口を開けた。
「アルフレート君、君のチームと数人の兵を連れて、
そこへ向かいなさい」
誠一が大きな声で返事をした。
守備隊長は、もう行けとばかりに身振りで示した。
誠一は戻ると、仲間に経緯を話し、
ヴェルに先頭で案内するように頼んだ。
「承った!守備隊長も話が分かるっ!中々な男だな」
馬に跨るとヴェルが誠一に向かって叫んだ。
誠一はあいまいな笑みを浮かべて、その叫びに応じた。
「ヴェルにも困ったものだな。
もう少し世間の事情を読み取ることを覚えて貰いたいものだな」
ロジェが嘆息したが、それに誠一が応じた。
「まあ、確かにですが、ヴェルのあれはあれで
今はいいのかもしれせん。あの勢いは必要ですよ。
歳を重ねて、経験を重ねれば、少し落ち着きますって」
ロジェは笑った。
「少しね。まあ、少しは落ち着けば、いいだろう。
しかし、アルフレート君、きみは、まあ、言うまい。
守備隊長の思惑と打算も分かっているだろうしね」
ヴェルの先導によって誠一たちは、黒煙の上がる村の付近に到着した。
黒煙はいくつも上がっていた。
誠一たちに同行した兵士たちは、それ以上、近づくことに及び腰であり、
本隊に戻り報告することを主張した。
村からは人々の様々な叫び声は聞こえてこなかった。
彼らの瞳に映る黒煙のみが唯一の情報であった。
「みんな、行くよ」
誠一は兵士たちの主張を無視して、サリナを先行させた。
シエンナの探知魔術が幾人か残っていることを示した。
サリナの手振りにより誠一たちも音を発てないように
気を付けて村に近づいた。
村の中心では、綺麗な鎧に身を包んだ騎士数人と上質ではあるが、
薄汚れた鎧に身を包んだ者たちが談笑を交わしていた。
誠一たちの身を顰める場所からは微かにしか彼らの声が聞えなかった。
照り付ける日の光を左腕で遮りながら、誠一は歩いた。
「おう、アルフレート君か。どうした?」
守備隊長は、誠一を見ると気さくな態度で接してきた。
人の良さそうな雰囲気の男であった。
「隊長、少し遠い場所ですが、黒煙が上がっています。
念のために偵察に向かいたいのですが」
誠一の言葉に守備隊長は、微笑みを絶やすことはなかったが、
若干、表情が曇っていた。
「アルフレート君、きみぃ、職務を理解しているかね。
我々の職務は、荷車や人足を主城まで護衛することだよ。
まずは目の前の業務に集中しないと。
そもそも君はまだ、学生だ。
色々なことに首を突っ込むような能力はないだろう」
誠一は隊長の意見も分からなくは無かった。
しかし、どうにも誠一は隊長の意見に頷けなかった。
誠一は食い下がった。
守備隊長の顔から笑顔が消えた。守備隊長は目を閉じた。
日の光が眩しい訳でないことは、誠一にも分かった。
「噂には聞いていたがな。あながち噂と言うのは
馬鹿にできないものだな。
独断専行、勝手気まま、君には困ったものだな」
腕を組み無口になる守備隊長。
重苦しい雰囲気が二人の間を支配した。守備隊長は重い口を開けた。
「アルフレート君、君のチームと数人の兵を連れて、
そこへ向かいなさい」
誠一が大きな声で返事をした。
守備隊長は、もう行けとばかりに身振りで示した。
誠一は戻ると、仲間に経緯を話し、
ヴェルに先頭で案内するように頼んだ。
「承った!守備隊長も話が分かるっ!中々な男だな」
馬に跨るとヴェルが誠一に向かって叫んだ。
誠一はあいまいな笑みを浮かべて、その叫びに応じた。
「ヴェルにも困ったものだな。
もう少し世間の事情を読み取ることを覚えて貰いたいものだな」
ロジェが嘆息したが、それに誠一が応じた。
「まあ、確かにですが、ヴェルのあれはあれで
今はいいのかもしれせん。あの勢いは必要ですよ。
歳を重ねて、経験を重ねれば、少し落ち着きますって」
ロジェは笑った。
「少しね。まあ、少しは落ち着けば、いいだろう。
しかし、アルフレート君、きみは、まあ、言うまい。
守備隊長の思惑と打算も分かっているだろうしね」
ヴェルの先導によって誠一たちは、黒煙の上がる村の付近に到着した。
黒煙はいくつも上がっていた。
誠一たちに同行した兵士たちは、それ以上、近づくことに及び腰であり、
本隊に戻り報告することを主張した。
村からは人々の様々な叫び声は聞こえてこなかった。
彼らの瞳に映る黒煙のみが唯一の情報であった。
「みんな、行くよ」
誠一は兵士たちの主張を無視して、サリナを先行させた。
シエンナの探知魔術が幾人か残っていることを示した。
サリナの手振りにより誠一たちも音を発てないように
気を付けて村に近づいた。
村の中心では、綺麗な鎧に身を包んだ騎士数人と上質ではあるが、
薄汚れた鎧に身を包んだ者たちが談笑を交わしていた。
誠一たちの身を顰める場所からは微かにしか彼らの声が聞えなかった。
0
お気に入りに追加
117
あなたにおすすめの小説
アレキサンドライトの憂鬱。
雪月海桜
ファンタジー
桜木愛、二十五歳。王道のトラック事故により転生した先は、剣と魔法のこれまた王道の異世界だった。
アレキサンドライト帝国の公爵令嬢ミア・モルガナイトとして生まれたわたしは、五歳にして自身の属性が限りなく悪役令嬢に近いことを悟ってしまう。
どうせ生まれ変わったなら、悪役令嬢にありがちな処刑や追放バッドエンドは回避したい!
更正生活を送る中、ただひとつ、王道から異なるのが……『悪役令嬢』のライバルポジション『光の聖女』は、わたしの前世のお母さんだった……!?
これは双子の皇子や聖女と共に、皇帝陛下の憂鬱を晴らすべく、各地の異変を解決しに向かうことになったわたしたちの、いろんな形の家族や愛の物語。
★表紙イラスト……rin.rin様より。
目覚めた世界は異世界化? ~目が覚めたら十年後でした~
白い彗星
ファンタジー
十年という年月が、彼の中から奪われた。
目覚めた少年、達志が目にしたのは、自分が今までに見たことのない世界。見知らぬ景色、人ならざる者……まるで、ファンタジーの中の異世界のような世界が、あった。
今流行りの『異世界召喚』!? そう予想するが、衝撃の真実が明かされる!
なんと達志は十年もの間眠り続け、その間に世界は魔法ありきのファンタジー世界になっていた!?
非日常が日常となった世界で、現実を生きていくことに。
大人になった幼なじみ、新しい仲間、そして……
十年もの時間が流れた世界で、世界に取り残された達志。しかし彼は、それでも動き出した時間を手に、己の足を進めていく。
エブリスタで投稿していたものを、中身を手直しして投稿しなおしていきます!
エブリスタ、小説家になろう、ノベルピア、カクヨムでも、投稿してます!
俺と幼女とエクスカリバー
鏡紫郎
ファンタジー
憧れた世界で人をやめ、彼女と出会い、そして俺は初めてあたりまえの恋におちた。
見知らぬ少女を助け死んだ俺こと明石徹(アカシトオル)は、中二病をこじらせ意気揚々と異世界転生を果たしたものの、目覚めるとなんと一本の「剣」になっていた。
最初の持ち主に使いものにならないという理由であっさりと捨てられ、途方に暮れる俺の目の前に現れたのは……なんと幼女!?
しかもこの幼女俺を復讐のために使うとか言ってるし、でもでも意思疎通ができるのは彼女だけで……一体この先どうなっちゃうの!?
剣になった少年と無口な幼女の冒険譚、ここに開幕
前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります
京衛武百十
ファンタジー
俺の名前は阿久津安斗仁王(あくつあんとにお)。いわゆるキラキラした名前のおかげで散々苦労もしたが、それでも人並みに幸せな家庭を築こうと仕事に精を出して精を出して精を出して頑張ってまあそんなに経済的に困るようなことはなかったはずだった。なのに、女房も娘も俺のことなんかちっとも敬ってくれなくて、俺が出張中に娘は結婚式を上げるわ、定年を迎えたら離婚を切り出されれるわで、一人寂しく老後を過ごし、2086年4月、俺は施設で職員だけに看取られながら人生を終えた。本当に空しい人生だった。
なのに俺は、気付いたら五歳の子供になっていた。いや、正確に言うと、五歳の時に危うく死に掛けて、その弾みで思い出したんだ。<前世の記憶>ってやつを。
今世の名前も<アントニオ>だったものの、幸い、そこは中世ヨーロッパ風の世界だったこともあって、アントニオという名もそんなに突拍子もないものじゃなかったことで、俺は今度こそ<普通の幸せ>を掴もうと心に決めたんだ。
しかし、二週目の人生も取り敢えず平穏無事に二十歳になるまで過ごせたものの、何の因果か俺の暮らしていた村が戦争に巻き込まれて家族とは離れ離れ。俺は難民として流浪の身に。しかも、俺と同じ難民として戦火を逃れてきた八歳の女の子<リーネ>と行動を共にすることに。
今世では結婚はまだだったものの、一応、前世では結婚もして子供もいたから何とかなるかと思ったら、俺は育児を女房に任せっきりでほとんど何も知らなかったことに愕然とする。
とは言え、前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に、何とかしようと思ったのだった。
オタクな母娘が異世界転生しちゃいました
yanako
ファンタジー
中学生のオタクな娘とアラフィフオタク母が異世界転生しちゃいました。
二人合わせて読んだ異世界転生小説は一体何冊なのか!転生しちゃった世界は一体どの話なのか!
ごく普通の一般日本人が転生したら、どうなる?どうする?
42歳メジャーリーガー、異世界に転生。チートは無いけど、魔法と元日本最高級の豪速球で無双したいと思います。
町島航太
ファンタジー
かつて日本最強投手と持て囃され、MLBでも大活躍した佐久間隼人。
しかし、老化による衰えと3度の靭帯損傷により、引退を余儀なくされてしまう。
失意の中、歩いていると球団の熱狂的ファンからポストシーズンに行けなかった理由と決めつけられ、刺し殺されてしまう。
だが、目を再び開くと、魔法が存在する世界『異世界』に転生していた。
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
筋トレ民が魔法だらけの異世界に転移した結果
kuron
ファンタジー
いつもの様にジムでトレーニングに励む主人公。
自身の記録を更新した直後に目の前が真っ白になる、そして気づいた時には異世界転移していた。
魔法の世界で魔力無しチート無し?己の身体(筋肉)を駆使して異世界を生き残れ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる