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458.ジェイコブ

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 闇の勢力圏に侵入して以来、ジェイコブ遊撃軍は
その数を日に日に減らしていった。
野盗や魔物に襲われて、軍より落伍する者や
側近や取り巻きを引き連れて離脱する者が
連日の様に現れていた。
300名ほどに減った軍の兵士や指揮官は最早、
何の展望も野望も潰え、単なる惰性で進軍していた。
一部、 少数精鋭を詠い、士気を鼓舞しようと
躍起になっているが、その姿は滑稽と捉えられて、
嘲笑の的となっていた。

「ジェイコブ様、兵糧の貯えが底を尽きそうです」

「ジェイコブ様、行軍のルートのご確認を」

「ジェイコブ様、兵がまた、逃亡しました」

ジェイコブ様、ジェイコブ様、ジェイコブ様、
連日の様に馬車の片隅に隠れているジェイコブへ
陳情と報告が上がってきていた。
だがしかし、ジェイコブは地位に伴う責任を
完全に放棄し、適当に答えるのみであった。
取り巻きもこのような事態に対処できる者は皆無であり、
いたずらに怒鳴り散らすだけであった。

 ジェイコブに報告が上がるあたり、
まだ、ギリギリ軍の体裁を保っているようでもあった。
しかし、実情は、離脱するのも恐ろしく、
さりとて不満は溜まる一方であったため、
憂さ晴らしにジェイコブに嫌がらせを
しているだけだった。

 最早、行軍ルートが正しいかどうかですら、
誰にも分からなかった。
整備された街道をやみくもにだらだと進んでいるだけであった。

「ジェイコブ様、このままではバリー様の率いる本軍と
合流した際に彼らが不満不平分子何を言いだすやら、
心配でございます」

「そうだが、何か策があるのか?
くそ、アルフレートの餓鬼が逃げ出さねば
こんなことにならなかったものを」
ジェイコブが覇気のない声でぼそぼそと呟いた。

「ここより5㎞ほど先に小さな村があります。
どうやら我らを悩ませた野盗の一味の拠点のようです。
景気づけに一発、壊滅させましょう」

「野盗の村か。なら、どう扱ってもいいな」
ジェイコブの瞳に力強さが戻っていた。

「ははっ!将軍の仰せのままに」

「全軍に伝達せよ。
これより賊軍を討つ前の演習として、野盗を殲滅すると!」
ジェイコブはのそりと立ち上がった。
荷車より姿を現して、再び取り巻き達に叫んだ。

「まずは俺が彼奴らの非を説く。
素直に従えば、糧秣と女の提供で許そう。
だが、拒否した時は」

一旦、言葉をおいて、剣を鞘から引き抜き、柄を舐めた。

「皆殺しだ」

ジェイコブは剣を鞘に納めて、取り巻き達に
急ぎ伝達するように指示した。

伝令が伝わると、我先にと食料、水、女を求めて、
村にジェイコブ遊撃軍は殺到した。
にわかに解放された鬱積した気分が爆発し、
軍は狂乱に包まれた。
ジェイコブ遊撃軍は禽獣の群れになり果てしまった。
家々から村人を引きずり出し、惨殺し、逃げ纏う村人を
見ては追い回して、斬り殺し、女と見れば、押し倒した。

ジェイコブはこの群れを統率することを放棄していた。
彼の持つ『残虐・拷問行使・・鈍足・精力絶倫・享楽主義』
といった称号が今、この場で最大限に発揮されていた。

血の臭いが強くなり始めると、彼の興奮が
それに比例して冷めていった。
食料等を手早く集めると一目散に村から離脱した。

略奪という味を覚えてしまったジェイコブ遊撃軍は
数にモノを言わせてそれを繰り返しながら、進んだ。
幸運にも彼らの選んだルートはダンブル派の最前線で
ある三角砦の遥か先、北関の後方であった。

「ふん、どうやら我が軍は、賊軍のかなり内部に侵入したようだな。
ひとつ暴れてやるか」
すっかり自信を取り戻したジェイコブが眼前に広がる平野に
目を向けた。

「将軍、ここで功績を上げれば、恩賞は思いのまま」

「ジェイコブ将軍、ご指示を」

「将軍、賊軍などひともみに潰してごらんに入れましょう」

ジェイコブに取り入るべく貴族たちが阿諛追従する態度をとった。
ジェイコブは鷹揚に頷くと、貴殿らの働きは我が叔父、
バリーに伝えようと約束した。

「手短に近くの村か町を襲撃して、そこを拠点にするか」

「ははっ、将軍の意のままに」

 今後、ジェイコブは、野盗の群れと化して
ヴェルトール王国の辺境に恐怖の代名詞として
その名を響かせることなる。
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