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402.不穏7

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誠一は苦笑したが、実際はそれどこではなかった。
今日のキャロリーヌは、蠱惑的な魅力に溢れていた。
その女性が自分に身体を預けて、耳元で囁く。
それだけのことだったが、誠一の心臓の鼓動は激しく脈動していた。
昔、スターリッジがキャロリーヌは漢にとって、
毒だと言った言葉を思い出していた。
シャンデリアの灯す強い明りが、濃い蒼のドレスを引き立ていた。
それはまるで、彼女の立つ場所に常にスポットライトが
照らされているようであった。
彼女のいる場所がいやがうえにも舞台の中心であるかのようであった。
男の視線は首元で光輝くブルーサファイアに導かれていた。
そして、そのまま彼女の胸元に目が映り全身を舐め回し、
決して触れることのできない彼女の肢体を楽しんでいるようであった。
誠一はその視線が気に喰わず、遮るように彼女の腰へ手を回して抱き寄せた。

「ちょっ、アル。いつも突然気儘なんだから」
そう言うも満更でないキャロリーヌの表情であった。

「詩はアレだけど、音楽は素晴らしいし。
少しスペースもあるから、踊ろうか」
そう言って、誠一は、キャロリーヌの手を取った。
誠一はアルフレート・フォン・エスターライヒという器が
社交界で通用する位にダンスの訓練をしていたことに感謝した。
努力の上澄みを掠め取ることに少し抵抗はあったが、
キャロリーヌの満面の笑みを見るとそんな思いは
跡形もなく吹き飛んでしまった。
二人は軽やかにステップを踏んで踊った。

誠一とキャロリーヌ周りに人だかりができた。
楽団の方から誠一は視線を感じた。その先を誠一が踊りながら見ると、
にんまりとしているファーリがいた。誠一は嫌な予感がした。

ファーリは早々にダンブルを讃える詩を終えた。
音楽はそれに併せて終了したようであった。
誠一とキャロリーヌもダンスを止めた。
誰に向けての拍手だか定かではないが、広間は拍手で溢れていた。

 舞台の上からファーリが一礼をすると、拍手は収まった。
ファーリは両手を天に掲げて、天に語り掛けるように再び詠い始めた。
一小節だけで、聴衆は先ほどとの詩の違いを肌で感じていた。
圧倒的な声量に美しい音声、人々は魅了されていた。
 しかし、そんな中でファーリに魅了されない者たちもいた。
誠一もそのうちの1人であった。彼の詩が進むにつれて、
次第に誠一の眉間に皺が増え始めた。

「キャロリーヌ。気のせいかな。あの詩、誰のことを謳っている?」
キャロリーヌの背中に回す腕に力が入った。

「さっさあ?でも讃えられている人物は随分と優秀よね」
決して明かされぬ詩の主人公は、若いながらも神に抗い、
仲間を守り、オーガを倒した。
悲しい恋の行方、上位魔人の撃破、皇都への逃避行、
アクラネとの死闘と詩は続いた。
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