上 下
398 / 872

391.地方慰撫9

しおりを挟む
ポロン、ポロン、キョロン。

弦楽器の奏でる音が誠一たちの耳に入った。
誠一たち一行の活躍を讃える詩が奏でられていた。
誠一は立ち上がったが、そのまま、その詩を聴いた。
その柔らかい声は、誠一の不愉快な感情を和らげた。
詩声に聴き入っていたが、誠一は思った。
さっきから、どうもリュートのような楽器の音が
耳障りでしょうがなかった。
詩声に比べて、著しく劣っていると音楽に素人の誠一が
断言できるほどであった。

吟遊詩人は歌い終えると、誠一の前に訪れて、一礼をした。
「あなたの英雄譚を私の演目に加えてもいいでしょうか?
私の旅路で謳わせ頂きたいのです」

えっエルフやしかも男性のエルフや、
めっちゃ綺麗でいい声をしている。

無論、エルフには見たことも会ったことも話したこともあるが、
この吟遊詩人を名乗るエルフは楽器の腕前は残念であったが、
その魅力は別格であった。何故か誠一の鼓動は、高鳴っていた。

「もっもちろんです。どうぞどうぞ」
誠一の服に触れんばかりに近づいて、詩人は誠一の耳元で囁いた。
「このような楽しき場で鑑定眼を使うような3流の冒険者たちは
放ってほきなさい。
どのみちあなた方を鑑定できるほどの力はありませんから」

「そっそうですね。そうですよね。
無粋なことはせずにこの場を去った方がいいですよね」
落ち着け、自分!冷静になれ、誠一。
自分にそう言い聞かせていた。
しかし、鼓動の高鳴りは抑えきれずに顔は真っ赤であった。
石像のように固くなっている誠一は、
両脇に何か柔らかな感触を突然、感じた。
「詩人さん、同性でしょ!
私の婚約者を誘惑するなら、容赦しないわよ」

「そっちの婚約者どうこうについては、おいておいて、
私の彼をボーイズラブな世界に誘惑しないでよ」
二人の美女に挟まれて、誠一は自分を取り戻した。

「はっ、僕は一体何を」
誠一の石化は解け、我に返った。

「面白い御仁ですね。ファーリといいます。
この通り楽器を奏で、詩を謳うことを生業としています」

爽やかな笑顔という言葉がこれほど似合うエルフを
他に誠一は知らないし会ったことがなかった。
そして、その魅力にまた、惹きこまれそうになった。
しかし、両脇の女性の両腕の締め付けが一層強くなり、
誠一は正気を保った。

 ファーリは深々と頭を下げた。そして、小袋を広げた。
当たり前のように誠一は財布ごとそこへ入れようと思ったが、
両腕ががっちりとロックされているためにできなかった。

 この状況にファーリは苦笑していた。
「やれやれ、今日は稼ぎ損ないましたね。
これほど美しい二人の女性がいるとなると、やはり難しいものです」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界は流されるままに

椎井瑛弥
ファンタジー
 貴族の三男として生まれたレイは、成人を迎えた当日に意識を失い、目が覚めてみると剣と魔法のファンタジーの世界に生まれ変わっていたことに気づきます。ベタです。  日本で堅実な人生を送っていた彼は、無理をせずに一歩ずつ着実に歩みを進むつもりでしたが、なぜか思ってもみなかった方向に進むことばかり。ベタです。  しっかりと自分を持っているにも関わらず、なぜか思うようにならないレイの冒険譚、ここに開幕。  これを書いている人は縦書き派ですので、縦書きで読むことを推奨します。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)

いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。 --------- 掲載は不定期になります。 追記 「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。 お知らせ カクヨム様でも掲載中です。

野草から始まる異世界スローライフ

深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。 私ーーエルバはスクスク育ち。 ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。 (このスキル使える)   エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。 エブリスタ様にて掲載中です。 表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。 プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。 物語は変わっておりません。 一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。 よろしくお願いします。

病弱幼女は最強少女だった

如月花恋
ファンタジー
私は結菜(ゆいな) 一応…9歳なんだけど… 身長が全く伸びないっ!! 自分より年下の子に抜かされた!! ふぇぇん 私の身長伸びてよ~

リケジョの知識で異世界を楽しく暮らしたい

とも
ファンタジー
私、遠藤杏奈 20歳。 某私立大学 理工学部の3年生。 そんなリケジョの卵だったんだけど、バイトに行く途中、交通事故に巻き込まれて… …あれ、天国で目が覚めたと思ったのに、違うってどういうこと? 異世界転生?なにそれ?美味しいの? 元の世界には戻れないっていうし、どうやら転生者の先輩もいるそうだから、仕方がないので開き直って楽しく生きる方法を考えよう。 そんな杏奈がのんびりまったり、異世界ライフを楽しむお話。

貴方の隣で私は異世界を謳歌する

紅子
ファンタジー
あれ?わたし、こんなに小さかった?ここどこ?わたしは誰? あああああ、どうやらわたしはトラックに跳ねられて異世界に来てしまったみたい。なんて、テンプレ。なんで森の中なのよ。せめて、街の近くに送ってよ!こんな幼女じゃ、すぐ死んじゃうよ。言わんこっちゃない。 わたし、どうなるの? 不定期更新 00:00に更新します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

前世は大聖女でした。今世では普通の令嬢として泣き虫騎士と幸せな結婚をしたい!

月(ユエ)/久瀬まりか
ファンタジー
伯爵令嬢アイリス・ホールデンには前世の記憶があった。ロラン王国伝説の大聖女、アデリンだった記憶が。三歳の時にそれを思い出して以来、聖女のオーラを消して生きることに全力を注いでいた。だって、聖女だとバレたら恋も出来ない一生を再び送ることになるんだもの! 一目惚れしたエドガーと婚約を取り付け、あとは来年結婚式を挙げるだけ。そんな時、魔物討伐に出発するエドガーに加護を与えたことから聖女だということがバレてしまい、、、。 今度こそキスから先を知りたいアイリスの願いは叶うのだろうか? ※第14回ファンタジー大賞エントリー中。投票、よろしくお願いいたします!!

処理中です...