上 下
384 / 872

378.グレートウォールへ4

しおりを挟む

先頭に追いついて来たヴェルに誠一が声をかけた。

「ヴェル、ちゃんと話が出来た?」

「うるせえよ。話もくそもちょっと礼を言ってきただけだって。
誰もがアルの様に軟派じぇねえんだよ」
胸元の護符を握りながらしどろもどろに話すヴェルであった。
誠一とヴェルの会話に真剣な表情でシエンナが割って入って来た。

「ヴェル、それ照れ隠しだよね」
シエンナの表情を見てヴェルは誤魔化すべきでないと思ったのだろう。

「いやまあ、ちゃんと言ってきたよ。
アミラは俺にとって、可愛い妹みたいなもんだしよ」

誠一とシエンナは絶句してしまった。

「ヴェル、それ本気なの。
さすがに彼女の好意に気づかない訳ないわよね」

「まさか、ヴェル。そんな扱いで挨拶してきたのかい?」

二人の言葉をヴェルは右から左に流したかったが、
両脇からがみがみと言われて、彼の頭に留まってしまった。

「あーまったく!根掘り葉掘り聞きやがって。
ちゃんと言ってきたよ。心配すんな」
これ以上の詮索は御免とばかりにヴェルは強引に話題を
変えようとしていた。
「それよりアル、最近、神からのお言葉はないのか?」

流石に誠一はヴェルの意図に気づいたが、
意外なことにシエンナがその話にのってきた。
ヴェルが離れている間、あれほど誠一にヴェルの恋愛模様を
力強く話していたと思えない程に喰いついた。
「そうよ、アル。啓示は下されないないの?
まさかと思うけど、神が離れてしまったとか言わないでよ」
サリナは前を進む誠一たちの神と言う言葉に過剰に反応して、
アミュレットを無意識のうちに握りしめていた。

「いや最近は、特に何もないし、声をかけても反応はないかな。
まあ、去っていないことは確かかな」
誠一もプレーヤーが接触してこないことを不審に感じていた。
神との接点たる称号が残っているためにプレーヤーは、ゲームを削除したり、
キャラクターを解除していないことは確かであった。
そのため、飽きて放置状態になっているか、
忙しくてアクセスできていないかと考えていた。
このままプレーヤーとの接触がなくなってしまうことを
誠一は酷く恐れた。
向こうの世界の情報を得る手段がなくなってしまう。
そして、向こうの世界で自分がどのように扱われているか
確認できなくってしまう。
一緒に行動する彼らがNPCであることを忘れてしまうことが
多々あるが、誠一はこの世界に骨を埋める覚悟はなかった。
「神様の世界も色々とあるんじゃないかな。
多分、今、神様がなすべき仕事が多過ぎて、忙しいんだと思う」

「アル、おまえ、本当に面白い発想をするな。
神様が仕事って!まじかよ」
ヴェルは誠一の発想に感心していたが、
余程面白かったのか腹を抱えて笑っていた。

「確かにアルの言う通りかも。
仕事と言うか、神事が忙しいことがあるのかもしれない」
シエンナは誠一の発想に感心して、淀んだ空に向けて、
祈りを捧げていた。

あれは祈りを捧げるに値しないプレーヤーだと
誠一は誰にも悟られないように心の奥底で思っていた。
プレーヤーの指示した屑の所業を誠一は
決して忘れることはなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界は流されるままに

椎井瑛弥
ファンタジー
 貴族の三男として生まれたレイは、成人を迎えた当日に意識を失い、目が覚めてみると剣と魔法のファンタジーの世界に生まれ変わっていたことに気づきます。ベタです。  日本で堅実な人生を送っていた彼は、無理をせずに一歩ずつ着実に歩みを進むつもりでしたが、なぜか思ってもみなかった方向に進むことばかり。ベタです。  しっかりと自分を持っているにも関わらず、なぜか思うようにならないレイの冒険譚、ここに開幕。  これを書いている人は縦書き派ですので、縦書きで読むことを推奨します。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)

いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。 --------- 掲載は不定期になります。 追記 「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。 お知らせ カクヨム様でも掲載中です。

野草から始まる異世界スローライフ

深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。 私ーーエルバはスクスク育ち。 ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。 (このスキル使える)   エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。 エブリスタ様にて掲載中です。 表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。 プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。 物語は変わっておりません。 一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。 よろしくお願いします。

病弱幼女は最強少女だった

如月花恋
ファンタジー
私は結菜(ゆいな) 一応…9歳なんだけど… 身長が全く伸びないっ!! 自分より年下の子に抜かされた!! ふぇぇん 私の身長伸びてよ~

リケジョの知識で異世界を楽しく暮らしたい

とも
ファンタジー
私、遠藤杏奈 20歳。 某私立大学 理工学部の3年生。 そんなリケジョの卵だったんだけど、バイトに行く途中、交通事故に巻き込まれて… …あれ、天国で目が覚めたと思ったのに、違うってどういうこと? 異世界転生?なにそれ?美味しいの? 元の世界には戻れないっていうし、どうやら転生者の先輩もいるそうだから、仕方がないので開き直って楽しく生きる方法を考えよう。 そんな杏奈がのんびりまったり、異世界ライフを楽しむお話。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

女神に嫌われた俺に与えられたスキルは《逃げる》だった。

もる
ファンタジー
目覚めるとそこは地球とは違う世界だった。 怒る女神にブサイク認定され地上に落とされる俺はこの先生きのこることができるのか? 初投稿でのんびり書きます。 ※23年6月20日追記 本作品、及び当作者の作品の名称(モンスター及び生き物名、都市名、異世界人名など作者が作った名称)を盗用したり真似たりするのはやめてください。

処理中です...