上 下
379 / 872

373.打ち上げ3

しおりを挟む
 その夜、予定通りに打ち上げを行った。
何故かグロウと宰相がこの場に参加していた。
アミラがバツの悪そうな顔でヴェルの隣に座っていた。
普段、察しの悪いヴェルであったが、この時は直ぐに助け船を出した。
「いやー打ち上げはやはり人数が多い方が楽しくていいな。
それに宰相とグロウさんなら、言うまでもなく旨い差し入れが
あるでしょうしね」

宰相はにっこりしていたが、グロウはヴェルの言葉に
分かりやすく動揺していた。
グロウのうろたえる姿にアミラの顔が更に曇っていた。
それを見たヴェルも慌てていた。
察することはできたが、フォローはまだまだ、勉強が必要であった。

宰相はアミラの顔を見て、グロウに耳打ちをした。

「おっおう、ヴェルの言う通りだ。勿論、差し入れがあるぞ。
おい、女将、ここの一番高い酒と飲み物を持ってこい」
グロウの自信満々の表情にアミラがほっとした表情をしていた。

「そうじゃ、エドワード陛下もお越しになりたいようであったが、
近臣どもがうるさくてのう。秘蔵の逸品を預かってきた」
宰相は見るから高価そうな瓶を取り出した。

その行動を誠一は不思議そうに見つめていた。

「ふむ、練兵場の件はさして気にしておらぬ。
近臣どもに常に観察されておるのだ。
彼等の望む態度も時には必要なのだよ。そのための演技も必要じゃて」
尚も不思議そうな誠一に宰相は説明を続けた。

「あの件は、政治・軍事に大きく影響の少ない。
そういった場で意識を共有すれば、
それだけで阿諛追従の好きな貴族どもは無意識に満足するものなのだよ。
咄嗟にそれを判断し、演技することも王に必要な事。
無論、竜人が1人誕生することが最も重要なことではあったがのう」
誠一は何気なく尋ねた。
「彼は療養中ですか?」

「アルフレート君、君が知る必要はない。
彼から竜の魂は去った。それが全てだ。
それを気に悩む必要もない。
全ては戦場でのことである。彼の心が弱かったのだよ」

誠一には竜の魂云々は分からなかったが、
ザルバードにとってはあまり良いことではないと感じた。
それは話に割って入って来ないが、グロウとアミラの表情を
見ても分かった。

「それよりだ。アルフレート君、聡明な君の事だ。
ダンブル派がこの世界の覇権を握ると思っておらぬだろう。
もし君のその気があるならば、公国へ仕える口利きを
することもやぶさかではなのだがのう」

試されている。そう誠一は感じた。
常にこのご老体は、自分と言う人間を評価するための
ソースを収集しようといている。誠一は首を傾げながら、
笑って答えた。
「私は商人として、利益を追求するために
グレートウォールに赴くだけです。
それがどういう形であれ、売買で稼ぐだけですよ。
彼等との間に何らかの接点が生まれるとしても
それは利益のためです」

「おい、アルフレート。金勘定なんぞ、文官どもに任せておけばいい。
武人たる者、戦場で雄叫びをあげ、剣を振るえばそれでいい。
おまえも武人だろう、適当な者を雇えばいいだろうが」
どうもグロウは自分やヴェル、シエンナを魔術師として
見なしていないようであった。
誠一は、誤解を早めに解いておくべきだと感じた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界は流されるままに

椎井瑛弥
ファンタジー
 貴族の三男として生まれたレイは、成人を迎えた当日に意識を失い、目が覚めてみると剣と魔法のファンタジーの世界に生まれ変わっていたことに気づきます。ベタです。  日本で堅実な人生を送っていた彼は、無理をせずに一歩ずつ着実に歩みを進むつもりでしたが、なぜか思ってもみなかった方向に進むことばかり。ベタです。  しっかりと自分を持っているにも関わらず、なぜか思うようにならないレイの冒険譚、ここに開幕。  これを書いている人は縦書き派ですので、縦書きで読むことを推奨します。

野草から始まる異世界スローライフ

深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。 私ーーエルバはスクスク育ち。 ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。 (このスキル使える)   エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。 エブリスタ様にて掲載中です。 表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。 プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。 物語は変わっておりません。 一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。 よろしくお願いします。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

病弱幼女は最強少女だった

如月花恋
ファンタジー
私は結菜(ゆいな) 一応…9歳なんだけど… 身長が全く伸びないっ!! 自分より年下の子に抜かされた!! ふぇぇん 私の身長伸びてよ~

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)

いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。 --------- 掲載は不定期になります。 追記 「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。 お知らせ カクヨム様でも掲載中です。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

リケジョの知識で異世界を楽しく暮らしたい

とも
ファンタジー
私、遠藤杏奈 20歳。 某私立大学 理工学部の3年生。 そんなリケジョの卵だったんだけど、バイトに行く途中、交通事故に巻き込まれて… …あれ、天国で目が覚めたと思ったのに、違うってどういうこと? 異世界転生?なにそれ?美味しいの? 元の世界には戻れないっていうし、どうやら転生者の先輩もいるそうだから、仕方がないので開き直って楽しく生きる方法を考えよう。 そんな杏奈がのんびりまったり、異世界ライフを楽しむお話。

神に異世界へ転生させられたので……自由に生きていく

霜月 祈叶 (霜月藍)
ファンタジー
小説漫画アニメではお馴染みの神の失敗で死んだ。 だから異世界で自由に生きていこうと決めた鈴村茉莉。 どう足掻いても異世界のせいかテンプレ発生。ゴブリン、オーク……盗賊。 でも目立ちたくない。目指せフリーダムライフ!

処理中です...