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359. 交流14
しおりを挟むぎろり、ヴェルの目が光った。
血は己の魔力を放出する触媒として、上質のものであった。
その血が地面を覆い、いまだにヴェルの左腕より流れ出ていた。
回復薬が若干であるがヴェルの痛みを緩和していた。
激しい息遣いの合間に魔術を展開する言霊が紡がれていた。
震える左腕を滴り落ちる血が中空で魔術陣を描いていた。
「アミラ、心配するな。震える女の子を助けるのは男児の務め!
はぁはぁ、ぐっ、我が鮮血を触媒として顕現せよ炎よ。
燃えよ燃え上がれ、燎原の火よ、全てを喰ら尽くせ」
バロック一家を火柱が覆い、炎が吹き上がった。
凄まじい熱量が発生していた。
ヴェルの魔力は吹き上がる炎に食らい尽くされる勢いで失われていった。
「おいおい、暑い暑い。暑過ぎる」
急激に上昇する熱量が急速に水分を奪っていた。
彼らの足元には汗溜まりができ始めていた。
「おいおい、喉が喉が焼けるー。苦しい」
吹き荒れる熱波は、彼らが呼吸をするたびに喉を焼いた。
「ぐうううう」
鈍重そうな男は、ヴェルの顕現させた熱に触れる体面積が
著しく大きくその分、体力の消耗も大きかった。
ヴェルの魔力は彼らを消耗させたが、倒しきるまで続かなかった。
ヴェルは酷い発汗と出血、魔力欠乏で今にも倒れそうであった。
竜人の血のなせる業か、アミラはさほど体力を消耗していなかった。
「くそったれ、これが俺の限界か。
大見得を切った割には、このざまだ。
アミラ、俺を置いて助けを呼んで来い」
アミラはふるふると首を振るだけでヴェルを支えて、
その場で固まっていた。アミラには新たな足音が複数聞こえていた。
ヴェルをおいて、ここを離れる選択肢はアミラには全くなかった。
ヴェルとアミラの耳に入る怒号はバロック一家の新手と
思わしきものばかりであった。
「おうおう、やられてるぞ。ガキどもとこいつらを回収するぞ」
「おうおう、どうしようもないな。バロック一家の名に傷をつけやがって」
「おまえらそんなことはどうでもいい。
こちとら幹部が1人、やられてんだぞ。全面戦争だ。
この二人は殺して、大広場にでも晒せ」
バロック一家の碌でもない話声が突然、止むと、
諍いの声と金属のぶつかり合う音がヴェルの耳に聞えた。
しばらくするとその喧騒が収まり、
バロック一家の捨て台詞とも言える様な声が遠くから聞えた。
「助かったのか?」
「良くわからないです。
でもバロック一家は負傷者を抱えて撤収したです」
ヴェルとアミラの二人に近づく一団の中心には、
この晴天の暑い中でフードを被っていた。
フードに深く覆われた顔を二人は確認することができなかった。
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