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338.竜公国18

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エドワードは、先程の勝ち誇った顔つきから、
一転、苦々しい表情で誠一を睨みつけた後、
ザルバードを一瞥した。
「俺は一体、この男に何度、慈悲を与えればいいんだ」

左右の者が凍り付いたように俯き、エドワードと視線を
合わせようとしなかった。
エドワードは席を立ち、歩き出していた。
虫の息のザルバードは何人かの騎士によって回収されていた。

グロウは重い口を開いた。
「一体、あの娘は何をしたんだ」

「魔術師だから、魔術をザルバードに施したんですよ。
パラライズでしょうね」
誠一がそう説明すると、倒れそうなシエンナを
支えるために走り出した。

「ふん、大した度胸だな。
その魔術がレジストされたらとは思わなかったのか」

ヴェルが誠一に代わって答えた。
「あーそれか。防戦一方の時にザルバードがどの程度、
レジストできるか別の魔術で測ってたんだよな。
それで確実に数回、唱えれば必ず麻痺させられると
確信したんだろ。
まっあんなに高く飛んでくれるとは、思ってなかったけどね。
グロウは気づかなかったようだけど、エドワード陛下は気づいていたぜ」
そう説明すると、ヴェルもシエンナの方へ向かって走り出した。

「アル、ちょっと痛い、痛いって」
言葉とは裏腹にシエンナは痛みより誠一が支えてくれる嬉しさが
上回っていたようだった。満面の笑みが零れていた。

「痛いのはわかってるって。僕も経験してるからさ。暫くは我慢だね」

シエンナを囲むようにヴェル、ロジェ、キャロリーヌ、
そしてサリナが集まっていた。
グロウを除いた竜公国の者たちは既に練兵場を去っていた。

「身体の痛みはまだしも傷は早めに治さないと後が残るかも。
ここの一室のベッドで少しお高い回復薬を使うわよ。
アル、ヴェル、二人でシエンナに負担がかからないように運んで。
サリナは綺麗な布と水の用意ね。
ロジェ、あなたはあそこに呆然と立ち尽くすグロウに部屋を
用意するように交渉してきなさい」
てきぱきと物事を進めるキャロリーヌだった。

「シエンナ、辛いだろうけど、水を口に含んでうがいをしないさい」

「むぐぐぐっ」

シエンナが苦しそうにするが、キャロリーヌに従って、
何とかうがいをした。

グロウは一行を一室に案内した。
そこでアルたちは追い出されて、キャロリーヌとサリナが対応した。

部屋の中からシエンナの呻き声が聞えて来た。
誠一に甘えていた時の声とは全く違って、本物の呻き声だった。

「おい、おまえらここに居ても仕方ない。居間に来い」
グロウの誘いに応じた男どもだった。
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