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325.竜公国5
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誠一たちの会話が男に聞こえたか定かではないが、
それが聞えた周囲の竜公国の者たちは不快に感じていた。
事情を詳しく知らぬ者たちからすれば、男の自業自得とはいえ、
地に臥している男の前で談笑とは、流石に不謹慎ではないかと。
そんな周囲の雰囲気を感じたのか、ロジェが皆に促して、
この場を去ろうとした。
「おまえら、ちょっと待て」
先程の竜人なのかどうかいまいち顔の作りからは誠一たちに
判別できなかったが、兎に角、同じような服を纏った竜人が
彼らを引き止めた。
「こいつも元竜騎士だった男。
市井の人々の前で物笑いの種にして捨て置くのでは、
流石に見て見ぬふりはできぬ。
そのようなことをするくらいなら、こいつに一太刀を浴びせて、
楽にしてやればいいものを」
烏天狗と同様にどうも表情が読みにくかった。
誠一には怒っているのか悲しんでいるのか笑っているのか
さっぱり見当がつかなかった。
「こうなったのは、戦場での彼の振る舞いのせいでしょ。
その上、突然、襲いかかるって、あり得ない」
シエンナが真っ当な理由で逆に竜人に反論した。
ぎょろりと誠一を見ていた目がシエンナの方に向いた。
「オニヤのいない貴様らなど、大した脅威はであるまい。
竜騎士を一人捕獲した程度で調子にのるなヨ」
誠一はある程度、事情が呑み込めた。
この竜人はこちらのことを正確に把握しているようであった。
考えてみれば、貴重な竜騎士が全滅。
当然、竜公国も詳細を調べるに決まっている。
しかもご丁寧に情報を吐かせた竜騎士を
竜公国に送り返す嫌味っぷりまでヴェルトール王国から受けていた。
竜人がどの程度の立場の人間か分からないが、
最初から自分たちに難癖をつける算段であったと誠一は思った。
「それであなたは、どうしたいんですか?
まだるっこしいことをせずにハッキリといってください」
周囲をざわめきが支配した。
ここに来て初めて誠一は竜人の表情を読むことができた。
口元から覗く鋭い牙と目がつり上がり、誠一たちを見下す様であった。
「廃嫡された小僧が随分と威勢の良いものだな。
まあ良い。取り敢えず、ついて来い」
竜人がそう促すと歩き始めた。
誠一はどうしたものかと思案したが、
ロジェが歩き出したので、それに従った。
しばらく歩くとそれほど大きくはないが、
しっかりとした造りの建物に到着した。
「入れ。荷車と馬は、その門番に預けておけ」
サリナが馬車から降り、合流すると誠一たちは竜人の後を追った。
竜人に通された居間に並ぶ装飾品は、誠一の眼から見ても
一級品のものばかりであった。
誠一はこっそりと鑑定眼で確認をした。
ぼんやりとしかその価値が脳裏に浮かんでこなかった。
「無遠慮にもほどがあるぞ、所詮は廃嫡された長子。
常識を弁えておらぬな。
ここには鑑定眼を阻害する働きの魔術が刻印されている。
まあ良い。少し待て」
竜人は自分も座らず、誠一たちへソファーに
座ることも進めず、その場に立っていた。
それが聞えた周囲の竜公国の者たちは不快に感じていた。
事情を詳しく知らぬ者たちからすれば、男の自業自得とはいえ、
地に臥している男の前で談笑とは、流石に不謹慎ではないかと。
そんな周囲の雰囲気を感じたのか、ロジェが皆に促して、
この場を去ろうとした。
「おまえら、ちょっと待て」
先程の竜人なのかどうかいまいち顔の作りからは誠一たちに
判別できなかったが、兎に角、同じような服を纏った竜人が
彼らを引き止めた。
「こいつも元竜騎士だった男。
市井の人々の前で物笑いの種にして捨て置くのでは、
流石に見て見ぬふりはできぬ。
そのようなことをするくらいなら、こいつに一太刀を浴びせて、
楽にしてやればいいものを」
烏天狗と同様にどうも表情が読みにくかった。
誠一には怒っているのか悲しんでいるのか笑っているのか
さっぱり見当がつかなかった。
「こうなったのは、戦場での彼の振る舞いのせいでしょ。
その上、突然、襲いかかるって、あり得ない」
シエンナが真っ当な理由で逆に竜人に反論した。
ぎょろりと誠一を見ていた目がシエンナの方に向いた。
「オニヤのいない貴様らなど、大した脅威はであるまい。
竜騎士を一人捕獲した程度で調子にのるなヨ」
誠一はある程度、事情が呑み込めた。
この竜人はこちらのことを正確に把握しているようであった。
考えてみれば、貴重な竜騎士が全滅。
当然、竜公国も詳細を調べるに決まっている。
しかもご丁寧に情報を吐かせた竜騎士を
竜公国に送り返す嫌味っぷりまでヴェルトール王国から受けていた。
竜人がどの程度の立場の人間か分からないが、
最初から自分たちに難癖をつける算段であったと誠一は思った。
「それであなたは、どうしたいんですか?
まだるっこしいことをせずにハッキリといってください」
周囲をざわめきが支配した。
ここに来て初めて誠一は竜人の表情を読むことができた。
口元から覗く鋭い牙と目がつり上がり、誠一たちを見下す様であった。
「廃嫡された小僧が随分と威勢の良いものだな。
まあ良い。取り敢えず、ついて来い」
竜人がそう促すと歩き始めた。
誠一はどうしたものかと思案したが、
ロジェが歩き出したので、それに従った。
しばらく歩くとそれほど大きくはないが、
しっかりとした造りの建物に到着した。
「入れ。荷車と馬は、その門番に預けておけ」
サリナが馬車から降り、合流すると誠一たちは竜人の後を追った。
竜人に通された居間に並ぶ装飾品は、誠一の眼から見ても
一級品のものばかりであった。
誠一はこっそりと鑑定眼で確認をした。
ぼんやりとしかその価値が脳裏に浮かんでこなかった。
「無遠慮にもほどがあるぞ、所詮は廃嫡された長子。
常識を弁えておらぬな。
ここには鑑定眼を阻害する働きの魔術が刻印されている。
まあ良い。少し待て」
竜人は自分も座らず、誠一たちへソファーに
座ることも進めず、その場に立っていた。
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