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292.旅路10

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「アルフレート様、そう邪推しなさるな。
単に似たような事例を過去にいくつか見て来ただけでござるよ。
あなた自身の過去については全く知らぬでござる。
最上級の鑑定眼でも備わっていれば別ですが」

「つまるところ先生はこの石段の先というより
試練のこととその先で得られるものを知りたいってことでしょう。
ならそこの異形の魔物を倒して進めばいいだけじゃないの?」
至極最もなことをシエンナが主張した。

からからといつもと変わりなく笑う剣豪。
「その通りです。
しかし、現状でこの天狗と対峙して倒せるのは私だけでしょう。
無限に生まれ増殖する最上級の遺跡の天狗を
駆逐するのは少し骨が折れそうですな」
暗に他のメンバーの無能さを嘲る剣豪であった。
誠一は剣豪が自分に付きまとうには何か目的があるとは
薄々感じていたが、今がその時なのだろうと判断した。
剣豪にここで逆らえば、誠一への見せしめのために
仲間を殺害してもおかしくない雰囲気が漂っていた。
そして、それを止める実力のある者がここにはいなかった。

「アルフレート様、そう怖い顔をしなさんな。
試練に失敗しようともその話をして頂けるならば、
我が太刀に誓い、必ず命は保証します。
無論、この地も脱出いたします」

「それはここに居るメンバー一人も欠ける事無くですね?」
誠一の問いに剣豪は間髪入れずに答えた。
「無論です」

その言葉に誠一は意を決した。
「わかりました。石段を昇り、奥殿に向かいます。
そこに僕にしかできない何かがあるんですね」

誠一の問いに剣豪は意外にも言葉を濁した。
「わかりませぬ。諸国を放浪して、見聞をいくら広げようとも
如何なる情報もこの手の試練に関しては得る事ができませんでした」

誠一は頷いたが、他のメンバーはそうはいかなかった。
先ず始めにロジェが反対し、次々に他のメンバーも反対の意を示した。

「これは困った。
アルフレート様は乗り気なのに他の面々が反対とはこれ如何に」
おどける剣豪であったが、目は笑っていなかった。

殺気を感じたシエンナやヴェルが武器に手をかけた。
「ふーむ、困ったことだ。
武器を手にして相対するならば、冗談事では済みませぬ。
それはあなたがたもテルトリアで経験しているでしょう」
剣豪も彼らの動きに応じて、薄い刀身の刀の柄を握った。
剣豪があの刀を抜けば、ヴェルやシエンナなど技を振るう間もなく、
なます切りにされてしまうだろう。

誠一はそんな惨劇を目の当たりにするのはまっぴらごめんであった。
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