転生したら、伯爵家の嫡子で勝ち組！だけど脳内に神様ぽいのが囁いて、色々依頼する。これって異世界ブラック企業？それとも社畜？誰か助けて

283.旅路1

「ったく眠いな。アル、まだかよ。そろそろ行こうぜ」
ヴェルは簡素なベッドの上にいるが、校風んで
眠れないためにゴロゴロしていた。
部屋の他の二人は空き部屋ができているために
そちらに移っていた。
誠一の隣のベッドではシエンナがすうすうと可愛い寝息を
たてて寝ていた。
少し丸みを帯びた頬をぷにぷにしたくなる衝動を堪える誠一だった。

「ヴェル、寝れないなら寝れないで身体を休めておかないと。
夜の移動は想像以上に体力と精神力を削るから」
誠一も何とか睡眠を取ろうと瞼を閉じるが寝付けなかった。

城壁と通路を灯す炎と空の星々以外が暗闇に
包まれている深夜の1時頃、誠一たちの部屋のドアを
ノックする音が聞えた。全く音の無い暗闇にその音は想像以上に響いた。

「来たのね」
その音に最初に反応したのは、シエンナだった。
直前まで熟睡しているように見えたために誠一は驚きを禁じ得なかった。

ドアが開くと、そこには剣豪が立っていた。
「先生、このような時間に一体、どうしましたか？」
何故この時間に剣豪が来訪したか意図が分からずに
誠一は常識的な対応をした。

「馬鹿なことを言っていないで急ぎなさい。
ロジェたちは既に行動に移っています」

その言葉で理解した誠一は、急ぎ荷物を担ぎ、
ヴェルとシエンナを伴って剣豪の後に続いた。

三つの足音が暗闇に響いていた。
剣豪の足音は見事なまでに消えていた。

城壁の出口付近には、夜警の兵士たちを縛り上げたロジェたちがいた。
これってやり過ぎじゃないのかと誠一は疑問に思った。
しかし、ロジェがすぐに耳元で説明をした。
「戦時に軍を抜けるんだ。このくらいは当たり前だ。
彼等は何も知らないから、拘束を解かれたら、
追手が差し向けられるかもしれない。急ぐぞ」

外に出ると視界が全くなかった。
暗闇に慣れたとしても精々、星明りで足元が見えるくらいであった。

「ヴェル、少しは魔術院での勉強の成果を見せなさい。
ライトの魔術を上手く調整して足元から先を照らしなさい」
キャロリーヌの言葉でヴェルが行動に移った。
流石のヴェルもこの状況の雰囲気は察する事ができたようだった。

誠一たちは徒歩で動き始めた。5km程進むとぼろ小屋があった。
そしてそこには2頭引きの馬車と3頭の馬があった。
二人の男がロジェと会話を交わしていた。
「俺とキャロが騎馬で先導する。
ヴェル、おまえは騎馬で馬車の後方を警戒しろ。
アルフレート君、シエンナ、馬車を頼む。
オニヤ殿とサリナは荷車に乗ってくれ」
ロジェの指示で各員が素早く行動に移った。