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277.叱責6

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「こんな高価なものを。すみません。すみません」

そう言えば、ファウスティノは無料ではないと
言っていたことを思い出していた。
この世界で色々と経験し、あのアミュレットが
大変価値のあるものであることを認識していた。
出世払いとはいえ、一体いくらなのか誠一は急に恐ろしくなった。

「サッサリナ、一応、伝えておくけど。
それは貸しただけだから。それは借りものだからさ。
いつか必要なくなったら、返却してね」
少し声が震える誠一だった。
お金だけでなく、キャロリーヌの仏頂面が誠一を
震えさせていた。

「アルっ!おま、せこいこと言うなよ。
プレゼントしりょ、ぐえっ」
キャロリーヌが先程の仏頂面から
にこやかな微笑みでヴェルの頭を叩き、誠一を見ていた。

これほどまでに美人の微笑みを恐ろしく感じることは
誠一の人生にとって初めてであった。

「ふーん。まあ、いいや。いいけどね」
朴念仁でない誠一はキャロリーヌの言わんとすることを
察することは出来たが、一体、この場の状況で
どうしろと言うのだと言いたかった。
それを言えば、更に事態が深刻になるのは必定であった。

「キャロリーヌ、ちょっとレドリアン導師と色々とあってさ。
早急にサリナの意思を確認しておきたくて」
誠一の弁明を冷たくあしらうキャロリーヌだった。

「いや、ごめん。蔑ろにしたつもりはなかったけど。
キャロリーヌに甘えてしまったのかな」
キャロリーヌは誠一と鼻先が触れるくらいまで近づいた。
「ふーん。じゃ、誰と誰が恋仲であるかちゃんと
サリナにも教えてあげないとね」

誠一の声が上擦っていた。
「もっもちろん、キャロリーヌと僕だよ」

その言葉に満足したのか、キャロリーヌは、軽く誠一と唇を交わした。
「まっ、このくらいで許してあげるかな。
それで、二人とも何をやらかしたの?」

誠一とヴェルが事の経緯を説明した。

「まったく二人とも退くことを学びなさい。
それにしてもロジェにしては、ありきたりだけど面白いこと考えたわ。
恐らくラムデールとアルがどこかで喧嘩して、
その夜に出奔ってことになりそうね。
恐らくダンブル派の間者の耳に入るように仕向けるでしょうね」

あなたからの撤退も学ぶべきでしょうか
と心の中で突っ込む誠一だった。
どうも声に出せない突っ込みが増えている様な気がした。

「うーん、そうね。アル、いまからヴェルとロジェを
伴って魔石を回収に行きなさい。
そこでティモフェイみたいな感じでロジェに指示を出しなさい。
そうすれば、出奔した時にロジェが一緒に消えても
説得力が増すわ。
本当は私やサリナもそうしたのだけど、
流石に今日は安静にしておかないとね」

そんな演技が自分にできるのだろうか少々、
不安に感じる誠一だった。
「大丈夫よ。噂が少し流れればいいだけだし、
しないよりまし程度のことだから」
キャロリーヌのいつもの笑いを見られて、
気分が和んだ誠一は気持ちが楽なり、やってみるよ
と言って、ヴェルと部屋を後にした。
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