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273.叱責2

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言葉の途切れたレドリアン導師の代わりにヴェルが話始めた。
「今の宮廷魔術師第一席は確か学院長のカリキュラムを
受けるべく2年ほど就学された方だったような気が。
宮廷魔術師二席は、確か初の卒業生だったと思いましたが」

この言葉を聞いた時、誠一の顔は真っ青になり、
レドリアン導師の顔は真っ赤になった。
場の雰囲気を読まないヴェルの言葉、ここに極まり!
誠一も当然、このことは知っていたが、レドリアン導師を
刺激しないように粛々とした態度で拝聴するふりをしていたが、
ヴェルが見事にその努力をぶち破った。

 レドリアン導師は、深呼吸を何度もして、
気分を落ち着けようとしていた。
しかし、呼吸は整っても高速で痙攣する眉は
全く収まっていなかった。
「貴様らはファウスティノの派閥だな。
先輩方のご活躍はさぞかし誇らしいだろうな。
やつらの後塵を拝する俺を嘲笑っている言う訳か。
よろしい、貴様らのような目立ちたがり屋に丁度いい任務を
与えるとしよう」
もやは誠一たちに対する憎悪を隠そうともせずに
顔を歪ませ、唇を釣り上げて笑った。

「アルフレート、貴様に命じる。
中立の竜公国経由でグレートウォールに潜入し、
破壊活動及び情報収集を行え。
メンバーは、貴様、ヴェルナー・エンゲルス、
ロジェ・エンゲルス、キャロリーヌ・エンゲルス、
シエンナ・モリスとする。
言っておくが、アーロンに泣きついても無駄だぞ。
貴様らの指揮権は俺が握っているからなぁ。
まあ、アーロンが辞を低くして、頼み込むなら
考えてやらんでもない」

無理だ、誠一は思った。そもそも竜公国での伝手がない。
グレートウォールに入国する以前の話だった。
しかし、これ以上、上官の意に沿わぬ行動をするのも
得策でないと判断し、任務を受けることにした。
「謹んで承ります」

誠一の言葉を聞き、ヴェルも意を決したようだった。
誠一と同じような体勢をとった。

逆にレドリアン導師の方が慌てていた。
こいつらの調子にのった態度を懲らしめてやろうという
程度のつもりだった。
目の前の二人がどうしていいかわからずに
おろおろする様を嘲笑してやるつもりだった。
そもそもこの場にいない3人の名前を連ねたのは、
死地へ3人を巻き込むことへの心理的な圧迫を与えて、
自分への慈悲へ縋らせるためであった。
つまりは、惨めに泣き喚けば、任務を拒否できるという
レドリアン導師からのサインであった。
それを目の前の小僧が即断即決した。
誠一、ヴェル、そしてシエンナはレドリアン導師の麾下であり、
指示を下したことはまあ、申し開きが効く。
しかし、甚だまずいことにロジェとキャロリーヌは、
レドリアン導師の麾下でなく指揮系統が違っていた。
その為、軍議での折衝が必要な案件であった。

 何とか断らせようとそれとなく誠一とヴェルを脅すが、
暖簾に腕押しであった。

追い詰められたレドリアン導師は、逆ギレした。
「もっもういい、おっおまいら、後悔しても知らんぞ。
だが、俺は慈悲深い男だ。
最後にもう一度だけチャンスをやろう。で、どうする?」

誠一は何となく察したが、ヴェルには
どうやら伝わらなかったようだった。
「はあ、それよりいつ竜公国へ向かうのでしょうか?」

ぴきっ、レドリアン導師のこめかみが
破裂したような音が誠一は聞えた気がした。

その次の瞬間、レドリアン導師は頭を垂れて、項垂れていた。
「ふううぅ、もういい、疲れた。
おまえらに関わったこの身の不幸を嘆くしかあるまい。
追って指示は出す。もうよい行け」
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