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264.宴10

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サリナは、誠一の側で倒れていた。
「サリナ、一体どうして?」

「貴族様は本当にアホウだな。
我らが神がタイミングを計ってたんだよ。
天意に逆らえる奴なんてそうそういないだろうが。
ましてやそいつのように神の声に心が折れた奴なら
尚更だろ、馬鹿が!」

呆然とする誠一の表情を見て、ガイダロフは悦に入っていた。

「そうそうその顔だ!我らが神の所望したものは。
くくっ、あいつらがそこで転がっているのも神のお言葉故だ。
さて、最後の仕上げだ、お前の女をここでひん剥いてやるか」

「けほっけほっ、ご、ごめんなさい。ごめんさない」
床に倒れているサリナがうわ言のように同じ言葉を繰り返していた。

誠一は左胸の辺りが異常に痛かった。
恐らく肋骨が折れているかひびがはいっているのだろう。
しかしそんなことはお構いなしに立ち上がり、
キャロリーヌの前に立った。
「キャロリーヌ、サリナを介抱して貰えない?
悪い神に憑かれているからで彼女の本意じゃないから」

「う、うん。構わないけど。
アル、あなた、結構な怪我してない」

右手を上げて、キャロリーヌを制すると、
誠一は湧き上がる怒りを抑えつけるように言った。
「おまえ、ふざけんなよ。人の心を良いように弄びやがって。
そんなことして何が楽しいんだよ」

ガイダロフは不思議そうな表情で首を傾げた。
「そりゃ、弄ばれるより弄んだほうがいいだろう。
弱いからそうなるだけだ」

「てめーその言葉、忘れるなよ」
ガイダロフ一行とこいつらに指示を出すプレーヤーに
誠一は怒髪天を衝くような怒りに駆られていた。
ここまでの怒りは始まりの迷宮以来であった。
左胸の痛みは、怪我故のものだが、左胸の激しい鼓動が
その痛みに拍車をかけた。
左手が自然と心臓の辺りを抑えつけていた。

「いきり立って、大騒ぎすれば、実力差を覆すことが
出来るとでも思ってるのか、小僧!
おうおう、その顔だよ、苦痛に歪むその顔だ。
次に神が所望してるのは、貴様が絶望と屈辱の果てに
死んだような顔になることだ」

ガイダロフは、その場に留まり、両脚を踏ん張った。
「ごおおおおおおお。我が肉体よ、世界の最強の盾となれ、金剛石」
見た目、ガイダロフの肉体に大きな変化は見られなかった。
隆起した筋肉と浮き出た血管が誠一の眼には
変わらず見えているだけだった。
周囲の冒険者たちにも同様に見えていたようだった。
気合の割には何も起こっていない。失笑が所々で漏れていた。

「貴様を倒すには過ぎた技だが、圧倒的な力の前に絶望しろ」
ガイダロフは不敵な笑みを浮かべた。
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