上 下
253 / 872

255.宴1

しおりを挟む
大半の魔物が討ち取られ、残りは戦場から逃散していった。近隣の街や村にとって、非常に迷惑な話であったが、冒険者や巡回中の騎士により次第にその数を減らしていくだろう。
北関より前進を拒んでいた魔物の一軍は潰え、ヴェルトール王国軍は歓喜の渦に巻き込まれていた。陽が傾き、戦場に転がる死体を闇が覆い隠した。北関にいる者たちには、風が運ぶ血と死体の臭いが戦の凄惨さを思い起こさせた。しかし、北関では酒が振舞われ、今日を生きた歴戦の兵士たちは、陽気に歌い、踊り、己の功を誇っていた。

 魔術院や騎士学園の学生にも犠牲者はいた。犠牲者の親しい間柄のある者は泣き、ある者は沈痛な表情でうつむいていた。無惨に殺された知人の死体が脳裏に浮かび、戦場を生き延びたことを素直に喜ぶことが出来なかった。明日は我が身と思い、震える者もいた。

 悲喜こもごもの北関で誠一は、サリナといた。ヴェルは魔術院の同級生たちと無事を喜んで騒いでいた。シエンナは相部屋の先輩が大怪我を負っており、その介抱に忙しそうだった。

誠一とサリナは、終始無言であった。誠一は何と話しかけていいか分からずに通路の壁にもたれ掛かりちびちびと水を飲んでいた。その隣でサリナも同じようにしていた。この沈黙に先に耐えられなくなったのはサリナであった。
「ねえ、あなたって、友人いないの?」
「いや、いるのかな」
彼女の言葉を否定しようとしたが、言葉を濁した。魔術院では、友人といえるのはヴェルやシエンナくらいであった。高校時代の友人とは大学入学後、疎遠であった。プレーヤーに伝えた連中も学内で何となく一緒にいるだけで呑みに行ったり、旅行に行くような仲ではなかった。

「ふーん、貴族様だから友人も親が選んでるのかしらね」
皮肉と受け取れるサリナの言葉に誠一は苦笑した。
「エスターライヒ家の長子と言えどもまあ、廃嫡されているけどね」

「なんかごめんなさい」
そこでまた、会話は途切れてしまい、二人は黙ってしまった。
今度は誠一が沈黙に耐えられなくなり、話し掛けた。
「さてと、ここにこうしていてもしょうがないし、部屋に行こうか」

「えっ」
はじめて、無表情だったサリナの表情が変わった。
「まあ、見つからないようにすれば、大丈夫でしょ」

「嫌」
強い拒絶がであった。誠一はここまで強く拒絶されるとは思わずに驚いてしまった。

「嫌、嫌、あんたも所詮は同じよ」

「おちついて。君の部屋に行こうと言ってるだけだから」

「嘘。あいつらみたいにただやりたいだけでしょ。あいつらがああ言ったから、やれると思ってるだけでしょ。死ね、死んじまえ」

とんでない誤解に誠一は慌ててしまった。無論、誠一にも性欲はあるが、流石にそこまでの鬼畜ではなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界は流されるままに

椎井瑛弥
ファンタジー
 貴族の三男として生まれたレイは、成人を迎えた当日に意識を失い、目が覚めてみると剣と魔法のファンタジーの世界に生まれ変わっていたことに気づきます。ベタです。  日本で堅実な人生を送っていた彼は、無理をせずに一歩ずつ着実に歩みを進むつもりでしたが、なぜか思ってもみなかった方向に進むことばかり。ベタです。  しっかりと自分を持っているにも関わらず、なぜか思うようにならないレイの冒険譚、ここに開幕。  これを書いている人は縦書き派ですので、縦書きで読むことを推奨します。

野草から始まる異世界スローライフ

深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。 私ーーエルバはスクスク育ち。 ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。 (このスキル使える)   エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。 エブリスタ様にて掲載中です。 表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。 プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。 物語は変わっておりません。 一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。 よろしくお願いします。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)

いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。 --------- 掲載は不定期になります。 追記 「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。 お知らせ カクヨム様でも掲載中です。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

リケジョの知識で異世界を楽しく暮らしたい

とも
ファンタジー
私、遠藤杏奈 20歳。 某私立大学 理工学部の3年生。 そんなリケジョの卵だったんだけど、バイトに行く途中、交通事故に巻き込まれて… …あれ、天国で目が覚めたと思ったのに、違うってどういうこと? 異世界転生?なにそれ?美味しいの? 元の世界には戻れないっていうし、どうやら転生者の先輩もいるそうだから、仕方がないので開き直って楽しく生きる方法を考えよう。 そんな杏奈がのんびりまったり、異世界ライフを楽しむお話。

神に異世界へ転生させられたので……自由に生きていく

霜月 祈叶 (霜月藍)
ファンタジー
小説漫画アニメではお馴染みの神の失敗で死んだ。 だから異世界で自由に生きていこうと決めた鈴村茉莉。 どう足掻いても異世界のせいかテンプレ発生。ゴブリン、オーク……盗賊。 でも目立ちたくない。目指せフリーダムライフ!

女神に嫌われた俺に与えられたスキルは《逃げる》だった。

もる
ファンタジー
目覚めるとそこは地球とは違う世界だった。 怒る女神にブサイク認定され地上に落とされる俺はこの先生きのこることができるのか? 初投稿でのんびり書きます。 ※23年6月20日追記 本作品、及び当作者の作品の名称(モンスター及び生き物名、都市名、異世界人名など作者が作った名称)を盗用したり真似たりするのはやめてください。

処理中です...