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230.閑話 とある連休の最終日の情景1

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 連休二日目の夜、千晴は、部屋でまったりと
過ごしていた。
「ふううー連休が明日で終わってしまう」

一人でぷらぷらと街を散策しただけであったが、
昼食が多かった分、適度な運動になったと十分に
満足していた。
午前中にあんなことをしてしまい、
すれ違う恋人たちに軽いやっかみの気持ちを
もってしまった。
しかし、部屋でドラマを鑑賞しながら、
スパークリングワインを一本空けると、
そんなことはどうでも良くなってしまった。
 
ドラマも終わり、することもなくて、
千晴は何となくヴェルトール王国戦記を始めた。
どうやら中等部の昇級試験は終わり、
誠一は、クリスタルの森にいるようだった。

誠一の前には、封印されているリシェーヌがいた。
千晴は午前中の事を思い出し、全身が熱く火照ってしまった。
またアレを始めるのかと思い、このままゲームを
モニターすべきなのか散々迷った挙句、モニターを続けた。
自然と右手が下腹部の方へ向かっていた。

 しかし、誠一は自慰行為に耽るでもなく、
淡々とリシェーヌに話かけるだけであった。
肩透かし、期待外れと内心でがっかりしながらも
モニターを続ける千晴であった。
 突然、ファウスティノが現れると何かしらの交渉を
始めた。
がっかり感が千晴を支配し、彼等の会話に何の興味も
惹かれなかった。
そうしているうちに派手なエフェクトが
モニターに広がると、リシェーヌの眼が開いた。

そして、言葉を発した。

彼らは、心の底から嬉しそう見つめ合い、
言葉を交わしていた。
誠一の瞳から涙が涸れる事無く溢れていたが、
リシェーヌは困った表情をしていた。
誠一が泣きながら笑うと、リシェーヌは満足したように
再び瞳を閉じた。誠一の嗚咽は続いていた。
後方でファウスティノが倒れていたが、
それにも気づいていないようであった。

「はあ」
千晴はため息をついた。
モニターの前では誠一がファウスティノの状態に気づき、
慌てて介抱をしていた。
ゲームに詳しくない千晴でさえも今の奇跡を
起こした魔術には余程の代償が必要なことは
容易に理解できた。
誠一の周りには手を差し伸べる同級生、
先輩、大人がいることを羨ましく感じていた。

千晴は今のシーンに感動することはなかったし、
手放しで彼らの一時の邂逅を喜ぶことはなかった。
リシェーヌとの絆、ファウスティノの助け、
どれも千晴にないものであった。

「はああ」
内腿の辺りに触れていた右手は自然、
そこから離れていた。

自分が惨めだった。
眼前の物語を前に自分は何を期待して、
何をしようとしていたかを思うと、
自己嫌悪に陥りそうだった。
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