上 下
210 / 872

212.輜重隊出征1

しおりを挟む
王都グリーンシティより、何台もの馬車が連なり、
出発した。最前線への補給物資の輸送であった。
護衛につくのは、魔術院、騎士養成校いった学園に
所属する学生たちであった。

「ふぁああー」
馬上で大あくびをするヴェルであった。
春の陽気が彼を眠気に誘っていた。
それは他の学生にしても同様であった。
これが正規の騎士団や雇われの傭兵であれば、
鉄拳制裁待ったなしであったであろう。

 彼らの管理する騎士は彼ら学生の態度を見て、
短く舌打ちをした。
碌な訓練も受けずに突然の出征であり、
彼等に常時、緊張を強いることに無理があることは、
騎士も重々に承知していた。

「くそ。
本当にこれで輜重が襲われて、防衛できるのかよ」

「さあな、知るかよ。
足を引っ張らない程度しか期待できないだろうな」

騎士たちの不安をよそに学生たちは、
ひそひそとこの出征について、話をしていた。

輜重隊を纏める隊長のカルバーは、
隊の状況を苦々しく感じていた。
隊に所属すれば、兵の一員であり、
階級の高い者の命令は絶対であるはずだが、
後々、親に泣きつかれて、讒言されるもの
馬鹿らしいと思い、軽い注意に留め居ていた。
 
それなりの人数であり、魔物や盗賊の類が
標的にすることもあるまいと自分を
納得させているカルバーであった。

「いい加減にしろ、貴様ら!
戦場の遥か後方とはいえ、軍に所属する以上、
その規律に従え」
後方からの怒声にカルバーはうんざりしてしまった。
学生間でのいざこざの仲裁までしなければ、
ならないと思うと、ここは学校じゃねえと
怒鳴りつけたく衝動に駆られてしまった。

報告に来た騎士を怒鳴りつけると、
仲裁のために諍いの場に向かった。
「やれやれ、ストラッツェール家のご子息様か」
カルバーの憂鬱な気分は、問題を起こしているのが
侯爵家の子息と言うことで更に拍車がかかってしまった。

怒鳴り声の響き渡っている集団に近づくと、
どうやらご子息様が一方的に
怒鳴り散らしているようであった。
手は出していないようで、カルバーは一安心したが、
願わくば侯爵家の権威を笠に着て、無茶苦茶な主張を
していないようにと祈るばかりであった。

「常在戦場!輜重を警護している以上、
ここは既に戦場の一端だぞ。
その緩み切った態度を改めろ!」

ストラッツェール家のご子息様の演説は
更に続いた。

「ここで輜重を失うようなことになったら、
それは戦場の趨勢を左右するほどの
由々しきことだということを理解しているのか!
軍律によって、処罰も免れないぞ。
無論、親の権勢に泣きつこうとも軍律は絶対だ」

ストラッツェール家のご子息様の演説は
一呼吸おいて、続いた。

「ゆえに俺は貴様らに恨まれようとも
貴様らを叱咤激励する。
ヴェルトール王国軍としての責と矜持を持てと」

ストラッツェール家のご子息様の演説は
終わることなく続いていた。
学生たちの一団をよく見ると、
心酔しているような者たち、
めんどくさげに聞いている者、
明後日の方を見ている者とまちまちであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界は流されるままに

椎井瑛弥
ファンタジー
 貴族の三男として生まれたレイは、成人を迎えた当日に意識を失い、目が覚めてみると剣と魔法のファンタジーの世界に生まれ変わっていたことに気づきます。ベタです。  日本で堅実な人生を送っていた彼は、無理をせずに一歩ずつ着実に歩みを進むつもりでしたが、なぜか思ってもみなかった方向に進むことばかり。ベタです。  しっかりと自分を持っているにも関わらず、なぜか思うようにならないレイの冒険譚、ここに開幕。  これを書いている人は縦書き派ですので、縦書きで読むことを推奨します。

野草から始まる異世界スローライフ

深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。 私ーーエルバはスクスク育ち。 ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。 (このスキル使える)   エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。 エブリスタ様にて掲載中です。 表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。 プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。 物語は変わっておりません。 一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。 よろしくお願いします。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

病弱幼女は最強少女だった

如月花恋
ファンタジー
私は結菜(ゆいな) 一応…9歳なんだけど… 身長が全く伸びないっ!! 自分より年下の子に抜かされた!! ふぇぇん 私の身長伸びてよ~

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)

いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。 --------- 掲載は不定期になります。 追記 「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。 お知らせ カクヨム様でも掲載中です。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

リケジョの知識で異世界を楽しく暮らしたい

とも
ファンタジー
私、遠藤杏奈 20歳。 某私立大学 理工学部の3年生。 そんなリケジョの卵だったんだけど、バイトに行く途中、交通事故に巻き込まれて… …あれ、天国で目が覚めたと思ったのに、違うってどういうこと? 異世界転生?なにそれ?美味しいの? 元の世界には戻れないっていうし、どうやら転生者の先輩もいるそうだから、仕方がないので開き直って楽しく生きる方法を考えよう。 そんな杏奈がのんびりまったり、異世界ライフを楽しむお話。

処理中です...