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136.閑話 とある休憩スペースでの情景

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「ふううっー」
千晴は、デスクの前で両手を大きく伸ばした。

PCをシャットダウンさせれば、本日の業務は完了。
明日は祭日でお休み。
そして、三連休が明日から始まる。
そのことが千晴の気分を晴れやかにしていた。
島崎は、定時のチャイム直後に速攻で帰宅していた。
おそらく17:01の打刻であろう。
他の面々は17:00でなく、17:01に打刻する
島崎の姑息さをせせら笑っていた。

 周囲に目を向けると他の面々も帰宅の準備を始めていた。
無論、それに合わせる様に清涼もPCを閉じていた。

 日も短くなり、そろそろコートが必要かなと
思いながら、社員通用口を歩いていると、
清涼が休憩スペースでパッドを片手に
パチパチと操作していた。

「おつかれさま」
どうせ『ヴェルトゥール王国戦記』でも
プレイしているのだろうと思い、邪魔をしないように
挨拶を一言、伝えてからその場を去ろうとした。

「おつかれさま。って佐藤さん!
もうすぐ、終わるけど、もしかして就業中に
ヴェルトゥールをやってたの?」

この男は何を阿呆なことを言っているのだろうと
呆れつつ、何かのイベントが開催されているのかな
と思い、足を止めて、尋ねた。
「何かイベントでも開催中なの?」

「いやいや、佐藤さんが今、めっちゃやりたいと
思うイベントでしょ。
アイテムガチャお一人様30連無料イベだよ。
しかも排出率がアップ中だよ。
エリクサーのgetチャンスだよ。
ほら、向こうにも歩きながら、必死にパッドを
連打しているマナーの悪い女がいるじゃん」

千晴が目を向けると歩きながら、
パッドを連打する莉々子がいた。

「佐藤さん、もしかして無課金でも
ガチャ回せることを知らなかった?」
清涼の問いに頷く千晴だった。

「じゃ、今のイベ。
早くした方がいいよ20時までの限定イベだし。
無料チケットも溜まってそうだしね」

現在の時刻は、19:38であった。
清涼が急かすため、千晴は『ヴェルトゥール王国戦記』を
開き、ガチャのできるページを探し始めた。

「もう、まだるっこしい」
どうやら自分のガチャの終わった莉々子が
千晴の指を掴み、ささっとページを移動させた。

「佐藤さん、そこ!早く押して。連打連打!」

千晴は清涼の勢いに押され、連打を始めた。
二人の妙なプレッシャーを感じながら、
出てくるアイテムのランクを確認していた。

「千晴!アイテムってプレーヤー同士で
交換もできるし、当然だけど、キャラクターに
使用することも出来るし、与えることもできるからね」

「ったく佐藤さん、チュートリアルを相当、
適当にやり過ごしたね。
それじゃ駄目だよ。基本がなってない」

なんだろう、いわれのない厳しい叱責を
清涼から受けていいた。
何故か勢いに押されてすみませんと頭を下げていた。

「まっいいや。30連ガチャも間に合ったしね。
後でプレーヤー同士の交換も体験してみようか。
アイテムはどんどんキャラに送れば、
それを売って資金になるよ。
武器や防具なら、合成できるものがあるから、
それで強力な武器や防具になることもあるよ」

毎度のことながら、仕事中の寡黙な印象と
ゲームを語る時の印象のギャップに驚く千晴だった。
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