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116.帰郷8

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「ラムデール、死ぬなよ。
この技は加減できない。
ぅううおーフレイムチャージぃー」
ヴェルはハルバートを振り下げ、
ラムデールに向かって突進した。

炎がハルバートの先端から広がり
ヴェルを包んだ。
一つの炎の塊となり、ラムデールに襲いかかった。

誠一は後方から聞こえるヴェルの声に
眼前の状況にも関わらず、吹き出してしまった。
ヴェルが人の生み出した技を
まるで自分のオリジナルの様に叫んでいるためであった。

「私を前に笑っていられるとは。
そもそも冠絶した実力の差があることも
理解出来てないようですね」
剣士は誠一の表情を見て、心底呆れていた。
エスターライヒ家の当主を除けば、
ラムデールに多少の才能を見出せた程度で、
正妻の子供は長男、次男揃って無能であると
感じてしまった。
アーロン亡き後のエスターライヒ家の
行く末を心配する気は毛頭なかったが、
これでは領民が哀れでならなかった。

剣士には、ロジェと剣を交わしながらも
まだまだ、考え事をする余裕があった。

ロジェは、一瞬の隙をついて、後方に下がった。

「お前も同じだろう。
俺と剣を交わしながら、考え事か。
なめんな、真空刃斬」

一撃に威力を込めずに2撃、3撃、4,5撃と
繰り出し、剣士が技を防いだ直後、
一気に距離を詰めて、剣を振り下ろした。

「くっ、これは中々、良いアイディアですね。
しかし、一歩足りませんね」
ロジェの攻撃を防いで、物を教える教師のように
講釈を垂れた。

鍔迫り合いをはじめる二人へ誠一も攻撃に加わった。

ぬめり、誠一の周りの空気が一変した。
彼の世界は無音に支配されていた。
纏わりつく不快な空気がロジェ、剣士、そして
誠一を包んでいた。
対象を覆っているぬめりとした空気の動きが
誠一へ相手の一挙手一投足を伝えていた。

ロジェは纏わりつく空気と周囲の無音の異常さに
危険を承知で後方へ飛んだ。

「これは、また、珍しい技ですね」
剣士は剣を構えて、微動だにしなかった。
纏わりつく空気が剣士から聴覚を奪い、
肌で感じる空気の揺れを阻害させた。

「どうやら、5感全ては奪われないようですね。
鍛錬を続ければ、恐らく五感の全てが奪われるでしょう。
今は、聴覚と触覚の二つですか、その歳でこれは
末恐ろしい才能」

 剣士の落ち着き様に誠一は多少の違和感があったが、
魔術により強化された身体能力と技への信頼から、
剣士の得物を破壊するつもりで力任せにメイスを振るった。

 速度・破壊力十分な一撃であった。
しかし、剣士はその場から動かずに
剣でその勢いをいなした。
誠一はそのまま態勢を崩し、無音の世界は
崩壊してしまった。

「良き一撃でした。
このまま鍛錬を続けていれば、
いずれ一廉の冒険者に、くっ」
剣士に向けて、矢が飛来した。
辛うじて躱すと、今度はロジェが肩口に
剣を担ぐようにして、砂塵を舞い上がらせながら
突進した。
「おらぁ、爆せよ、パワーシフト」

剣士はロジェの一撃をいなしきれずに体勢を崩した。
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