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82.物語の終わり、物語の続き

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 護衛任務を終えた翌日、誠一は、
屋敷の庭園でリシェーヌと会っていた。
リシェーヌはキャロリーヌから貰った
あのワンピースを着ていた。
使用人たちは少し大きめのワンピースを
身に纏った清楚そうな美少女の来訪に興味津々であった。

どうも使用人たちの視線が気になる誠一は、
リシェーヌを少し離れた庭園に誘った。

ミシャが用意した茶菓子を口にしつつ、
リシェーヌに来訪の目的を尋ねた。
「リシェーヌ、今日はどうしたの?」

「うっうん、そのそう、これ似合ってるでしょ。
ちょっと胸のサイズが合わないけど」

何だろう、以前、ソルテールで話した時の
焼き直しのような会話であった。
しかし、何度見ても似合っているし、
何度、褒めても問題ないと思い、
再度、同じことを言った。
「うん、似合っている。
ワンピースの柄と色が君のダークグリーンの髪と
よく合っているよ」

「あっそのありがとう。
ヴェルなら、絶対に出てこない表現だよね」
微笑みながら、答えるが、
珍しく落ち着きないリシェーヌだった。

「どうしたのリシェーヌ?」

「えっいや、やっぱり伯爵家に突然、訪ねて、
庭園でお茶とか、落ち着かないかな。
アルはやっぱり住む世界が違うよ。
来て良かった。うん、諦めがついたかな」

誠一は首を傾げた。
リシェーヌらしからぬ挙動に発言だった。
まるで何かを零れ落として、きょろきょろと
探している少女のようであった。

突然、リシェーヌが立ち上がり、
誠一の手を握り、立つように促した。
「うーん、アルの方が私より少し背が高いね。
つま先で立てば、同じくらいかな」

リシェーヌはつま先で立ったが、
バランスを崩したようで、誠一に寄りかかった。
誠一は驚いた。
何より、バランスを崩すこと自体が
信じられなかったし、震えていた。
「リシェーヌ?」

リシェーヌは誠一の背中に両手を回して、
身体を密着させて、何かを言おうとする誠一の唇に
自分の唇を重ねた。
誠一は突然のことに驚いたが、自分も彼女の背中に
両手を回して、軽く抱きしめた。

暫くして、唇が離れた。

「うん、これで十分。
続きは、もし私がもっと大人になってからだね」

「いや、うん、そうだね」
心臓の鼓動が高鳴り、頭に血がのぼり過ぎているのか、
間抜けな回答をする誠一だった。

「ぷっ、アルは、本当にもうっ!」
誠一に向かって微笑むリシェーヌだったが、
表情は泣きそうだった。

リシェーヌはもう一度、誠一を強く身体を
密着させて言った。
「うーん、キャロリーヌさんやシエンナなのように
もっと女性らしかったら、アルの身体も
違った反応をするのかな?」

いやいや、この娘、何を言っているの。
十分に魅了されている誠一は、己を失わないように
することで精一杯であった。

「じゅっ十分に魅力的です」

リシェーヌはくすりと笑い、誠一から離れて、伝えた。

「ありがとう、誠一。
私の物語はここまで。
あなたの物語が素敵な結末を
迎えることを祈っています」

リシェーヌが誠一に背を向けると、
歩き出した。
呼ばれた名前がアルでなく、誠一だったことに混乱して、
一瞬、立ち尽くしてしまった。
誠一が慌てて、リシェーヌの後を追おうとすると、
首筋に強烈な痛みを感じ、その場で昏倒してしまった。

 エスターライヒ家の屋敷をリシェーヌが離れると、
一台の馬車が待機していた。
そこへリシェーヌが乗り込むと、フリッツがいた。
「おいおい、小娘、あれで良かったのかよ。
濃厚な絡みでもあの庭園で見られると思ったのによ。
おい、二人で逃げ出すのもありだったんだぞ。
まあいい、俺の人生じゃない。
お前が納得を出来ていれば、それでいい」

リシェーヌは不貞腐れたような表情だった。
「四六時中、監視していた癖に。
情報を漏らすか、逃げ出そうものなら、
死なない程度に痛めつけたくせに。
このまま、主城に向かうんでしょ」

「くっくっくっ、やはりお前、面白いな」

何が面白いのかリシェーヌには皆目見当が
付かなかったが、フリッツは主城に到着するまで
笑っていた。
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