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39.拷問部屋2

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「ここに顕現せよ。そして、踊れ踊れ我が剣ヨ」
フリッツがぽつりと呟くと
彼の周りに30本ほどの様々な剣が自由気ままに
空間で楽しそうに踊り始めた。

「ふむ、鍛練はさぼっていないようでなにより。
昔より、踊る剣の本数が増えておるな。
姫さんと夜な夜な楽しんでいる訳ではなさそうじゃのう」
ファウスティノが挑発した。
無言詠唱が彼の身体能力を底上げしていた。
身体全身が帯電しているように
小さな雷が迸っていた。
ファウスティノは、話を続けた。

「ここで大暴れしたら、また、城が半壊するじゃろう。
得た情報は隠蔽せずに姫さんにも送る。
心配するな」

「ふん、貴様と本気でやり合いたいのは
嘘じゃないぜ。訓練だけじゃ体が鈍っちまう。
ぎりぎの生死の戦いってのが
戦士には必要なんだよ。いくぞ、剣舞踊」

30本の剣が踊るようにファウスティノに
襲いかかった。
フリッツは、踊り狂う剣の中心で二本の剣を持ち、
ファウスティノに襲いかかった。
 
稲妻に纏われたファウスティノは、
人の限界を超えた速度で躱していた。
「秘杖、稲妻落とし」
ファウスティノの残像が幾重にも現れ、
30本の剣が全て叩き落とされた。
「くそったれが!
これほど鍛練を重ねても爺さんの領域に
到達できねーのか。
死ね、瞬殺一文字切り」
頭に血がのぼってしまったフリッツは、
自身の最速の技を繰り出し、本気でファウスティノを
殺そうとした。

フリッツの剣は杖の1/3程までめり込んで、止まった。

「剣の振られるところが分かっていれば、
防ぎようはいくらでもある。
本能の赴くままに剣を振るっている間は、
同じ結果しか生み出さぬぞう」
ファウスティノからフリッツの脇腹に
凄まじい蹴りが撃ち込まれた。

「ぐっ、くそう。魔術師が
そこまで接近戦を極める意味がわからん」

ファウスティノがにやりとした。
フリッツは、何事かを察して、すぐに言葉を続けた。
「毎度、同じことを聞かされてたまるか。
筋肉の話はもういい。
他の部屋の金と女、酒に溺れた屑は、大した情報を
持っていないとの女王様のお達しだ。
なので処分した。
そこの男のみが唯一、情報を引き出せるようだ。
不快極まりないが、直接、女王へ情報を伝えろ」

「元女王だのう。
他の者は、罪を償わせようと思っておったが、
お主はいつも性急すぎる。
元女王には、情報が得られたら、
直ぐに送ろうとするかのう」

フリッツは、脇腹を擦りながら、更に続けた。
「それとだ、今代の勇者候補の成長を
妨げるなとこのことだ。
特例で冒険者証を発行するゆえ、
留年なんぞさせるな。いいな?
学院長さんよ!」
ファウスティノは、厳かな表情で答えた。

「何人たりとも学院の方針に干渉させぬ。
例え姫さんであろとうもそれは同じじゃ。
例外は認めぬ」

「てめー。話に聞く情報じゃ、迷宮は
クリアしたことにならないが、
十分に進級できる実力じゃねーかよ。
まーた、あんな筋トレと脳トレを
もう一年とか無駄だぞ。
この世代での成長は著しく早い。
無駄に過ごさせるな」
話をしている途中から、フリッツから殺気が
漏れ始めていた。
話している最中、偏屈爺の答えと相まって、
頭に血がのぼってしまったのだろう。

「ふーむ、熱い男だのう。話を聞きなさい。
学院のルールや冒険者の資格のルールを
曲げるつもりはないが、希望者は全員、合格じゃ。
ちと、来年から、実技試験のルールを
改定せねばならんがのう」
口ひげを左手で梳きながら、学院長が答えた。
表情は柔らかかった。

「どういうことだ?一体?」
怪訝な表情のフリッツだった。

「この歳で石拾いをすることになるとはのう。
迷宮や遺跡で使える者、物は、使いなさいと
教えていたが、まさか、使われる立場に
なるとは思わなんだ。
つまり全員、冒険者証を所得して、
中等部に進級できる権利を得た訳じゃ」
フリッツは大笑いしていた。心底、楽しそうだった。

「くはははっ。その状況で貴様に頼み事とは!
強かすぎるだろう。
誰だよ、それを言った奴は!教えろ」

「話したのは、リシェーヌと
シエンナの二人の少女であるが、
実際にシュミレーションして、
想定していたのは、
アルフレート・フォン・エスターライヒ
という伯爵家の子だ」

その言葉を聞き、フリッツの笑いは収まり、
冷たい視線をファウスティノに向けた。
「また、そいつか。最近、よく聞く名だな。
当世の勇者候補の周りを
ちょろちょろしている男だな。大丈夫か?」

「どちらかというとリシェーヌの方が
興味を持って近づいているがのう。
今の性根であれば、恐らく大丈夫であろう。
それに神々へ屈しない精神力もある。
今回の事件で「神々への反逆者」の称号を
得たやもしれん」

「はっ、ありえないだろう。
まだ、13歳だろう。流石に無理だろうよ。
まあ、いい、その件も女王に伝えろよ。
俺からも伝えておく。じゃっ!帰るわ」
大笑いが収まると颯爽と地下室から
去るフリッツだった。

フリッツが去ると、ファウスティノの眉間に皺が寄り、
冷酷そのものの表情で空牢郭に
囚われている男を見つめた。
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