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25.遺跡探索3

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「はぁはぁ、みんな、出口に向かって急ぎなさい。
魔物の前進が止まったわ」
出口に向かって、動き出した一行の中から、
一人、ふわりと魔物に向かった者がいた。
その動きは軽やかで、まるで妖精が
飛翔しているようであった。
残された4人はその姿にこの状況で見惚れてしまった。

「おっおい、リシェーヌ、戻れよ。
何考えているんだ」
ヴェルが叫ぶがリシェーヌは、応じずそのまま、
魔物と交戦しはじめた。

「くそったれ。この状況でチームの和を
乱すなら、置いて行く。
自己責任だ。ヴェル、キャロ、行くぞ」
おろおろするヴェルの首根っこを引っ付かまえて、
退却を始めた。
「ヴェル、いい加減にしなさい。時間の無駄」
キャロリーヌが憤怒の形相でヴェルを睨みつけると、
ヴェルは震えながら、従った。

「ヴェル、心配するな。俺があいつに付き合う。
さっさと、遺跡を抜け出して、救援を呼んでこい。
ロジェさん、キャロリーヌさん、よろしくお願いします」
誠一は、言い残して、震えながら、リシェーヌの後を追った。

「おまえら、行くぞ。こんなところで死んでられるか、急げ」
後ろ髪を引かれる気分であったが、二人は兄に従い、
出口に向かった。

 先行するリシェーヌは、ロジェとキャロリーヌによって、
ダメージを受けたゴブリンに止めを刺していた。
杖で頭部を丁寧に叩き潰している。
辺り一面に血、肉、そして脳漿が飛散している。
死体は先ほどと同じようにゆっくりと溶け出していた。
残った魔石を回収しながらリシェーヌは前進していた。
後方にいる魔物たちは、直感か生存本能が訴えるのか、
彼女に襲うことを躊躇っていた。
ゴブリンマスターが怯えるゴブリンどもを掻き分け、
床に転がるゴブリンを踏みつけながら、
リシェーヌに立ちはだかった。

「ゴオオオォ」
咆哮と共に太い棍棒を振り下ろした。
そして、避けられると、すかさず横なぎに
棍棒を振り回した。
ふわりふわりと優雅に棍棒を躱すリシェーヌ。

追いついた誠一は、補助魔術を己に唱えると、
アルフレートの努力により身体に染み込まされた剣術を信じて、
ゴブリンマスターに突っ込んだ。

べごぅ、不快な音が聞こえると、ゴブリンマスターの
右腕がおかしな方へ曲がっていた。
「会心の一撃だ!」
誠一が叫んだ。

リシェーヌは特に反応せず、叫び狂う魔物に追撃を加えた。
誠一は、目を擦った。
リシェーヌの杖が不規則に歪んで動いている様に見えた。
小学生の頃に鉛筆やシャープペンの端を持って、
上下に揺らして、波のように錯覚させたのと同じか?錯覚か?
そんなことを思った瞬間、ゴブリンマスターの
隆々たる筋肉の塊である左腿が変な方向に曲がり、
ふらついた。そして、次の瞬間、転倒した。
ゴブリンたちは、蜘蛛の子を散らす様に逃散してしまった。

「ふう、アル。止め刺して。その権利は君にあるよ。
初撃でほぼ決着はついていたからね。惜しいけど、我慢」

俺がこいつの頭を潰すのか。
鈍い明りの中で紅く光るコイツの目と合ってしまった。
それだけで誠一は杖で頭を潰すことに萎えてしまった。
リシェーヌは無言で誠一を見つめている。

「いや、ちょっと、今日は無理かな。
リシェーヌは倒したいんでしょ。譲るよ」

「いや、いい。これは冒険者がチームを
組んだ時の最低限守るべき共通認識だから。
それに一応、私も経験値は入手できるから」
上手いこと逃れようとしたが、上手くいかずに
誠一は追い込まれていた。
直前まで殺し合いをしていたが、それはその時、
恐らく心が昂っていたから、容易に近づく敵を
叩き潰すことができた。
しかし、冷静になった今、弱った生物の頭を
叩き潰すには、21歳まで誠一は平和に過ごし過ぎていた。
リシェーヌの無言の圧力が更に増していた。

「うぐっ」

「うぐっ?何それ、それより急ぎましょう。
何が起こるか分からないから」

誠一は覚悟を決めた。
目を閉じて、杖を思いっきり、振り下ろした。
ぐしゃり、嫌な感触が杖より伝わり、ゆっくり目を開けた。
ひしゃげた頭部は溶け出していた。

「ううっ」
ゲロゲロ、あまりのグロテスクな状況に誠一は、
震える両膝を地面について、嘔吐していた。

「うん、がんばった」
よしよしという感じで頭を撫でられた誠一であった。
それが意外と心地よく、少し落ち着きを取り戻した。
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