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15.トレーニングの終わりに

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「ラスト一周!全力で走れー。全ての気力・体力を投入しろ」
〆のランニングで講師が晴天の中、
暑苦しい言葉で最後の気合を生徒に注入していた。
トップで終わるのは、毎度のことながら、
リシェーヌであった。
その後は、日替わりで順位が変動するといった感じであった。
誠一もここ最近は、上位グループに顔を出し始めていた。

「アルフレートさんと一位を争う日が
来るのもそう遠くなさそうですね」
二位となったアルフレートにリシェーヌが話しかけた。

はぁはぁはぁぁ、ゴール直後で息が
上がっている誠一だった。
決して汗が滴り、シャツが身体に貼りついたリシェーヌの
綺麗な体線に興奮している訳ではないと自分を言い聞かせた。

「見つめながら、はぁはぁと言うばかりで、
流石、変態さんですね」

話すこともままならない誠一に
精神的ダメージを加えるリシェーヌだった。

「くっはぁはぁ、何であれだけのトレーニングの後に
はぁ、そんな余裕なんだよ」
やっとのことで軽口を叩く誠一だった。

彼女の走りは羽根があるかのうように
軽やかであった。
何度見ても走りながら、男女関係なしに
見惚れてしまう生徒が多くいた。

バッシュほどに習熟していないが、
アルフレートにも鑑定眼が備わっていた。
早熟の天才と言うには、あまりにも文武両道に
秀でているため、ついつい、彼女のスペックを
覗き見してしまった。
全てを鑑定することはできないが、
おぼろげに彼女のスペックが見えた。

「うっウルトラレアかよ。どおりで」
鑑定の結果に納得する誠一であった。
まだまだ、未熟なため、確認できたのはそれだけであった。

「ん?」
なんだろう、リシェーヌの表情は笑っているが、
眼力で人を殺せるくらいに殺気立っている。

「鑑定眼を持っているの。
ふーん、本人の了解なしに覗き見るのは良くないかな。
更に変態認定されるよ。
ところで、どこまで見たのかな?見たのかな?
教えないなら、怖いことになるよ」

雲一つない晴天のため、彼女の影はよりはっきりと
地面に映し出されていた。
そして、その影に覆われて、陽の光を遮られた誠一は、
全身に悪寒を感じ、鳥肌が立っていた。

「いっいえ、未熟者ゆえ、レアリティしかわかりませんでした。
以後、絶対にいたしません」

眉を顰めて、誠一を見つめるリシェーヌであった。
「ふーん、そうなんだ。
女性の場合、あまり知られたくないこともあるから、
注意した方がいいよ。
例えば、年齢とか体重とか、サイズとかね。
君が優秀なのは、持って生まれたレアリティによるものなんだ。
SSRですか、希少ですね」

「えっ」

「鑑定眼はあなただけのものではありませんので」
にこやかに誠一に伝えると、リシェーヌは次の講義室へ向かった。

地面にいつの間にかへたり込んでいた誠一は、
殺気から解放されると、ほっと一息ついた。

遠巻きに聞き耳を立てていた生徒が3人ほど近づいてきた。

「アルフレートさんよ、中々、やるやん。
リシェーヌに鑑定眼とは恐れ入った。
で、もちろん情報は供給するよな?サイズ、いくつやった?」
末は魔法戦士と剣技の向上に余念のない少年は、
真摯な表情で答えを迫った。

「それより彼女の能力を知りたいのですけどね、
SRは確実としてもSSRもあり得ますね」
基本4系統の魔術を全て習得せんとし、
賢者の称号を目指す少女は、興味津々に声をかけた。

「努力でカバーできる範囲は逸脱しているよな、確実に。
RとかHRだったら、早熟の天才ってやつで終わるかな、
まあ、あり得ないだろうけどね」
少し年上の同期でクラスのまとめ役の少年が話した。

「すみません、まだ、未熟なために何もみえませんでした」
頭を擦りながら、答える誠一であった。

「そうですね、例え見えていたとしても
その回答がいいでしょう。
学院内では鑑定眼の私用は禁則事項なことは忘れずに。
今回は見逃すが次はないぞ」
生徒たちの後方から突然、現れた熱血講師が右手を
誠一の肩にめり込ませながら、忠告した。

「すみません、以後、絶対にやりません」
誠一は、左肩に凄まじい圧を感じ、心の底から頭を下げた。

「よろしい、懲罰などに無駄な時間を取られるより、
君らの年齢は、魔力、精神力、そして体力、
否、筋肉をつけるべきだからな」
ガハハハッと笑いながら、去っていった。

情報を引き出そうとする3人に囲まれながら、
誠一は講義室に向かった。
結局、引き出されたのは、アルフレートの情報だけであった。
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