起きるとそこは、森の中。可愛いトラさんが涎を垂らして、こっちをチラ見!もふもふ生活開始の気配(原題.真説・森の獣

ゆうた

文字の大きさ
上 下
27 / 267
森の獣 3章 諸国動乱の刻。暗躍する者たち編

募集活動(九ノ池)

しおりを挟む
九之池は飲み屋の端で、目立たぬようにちびちびと
酒を呑んでいた。
結成を祝しての乾杯が行われ、九之池を含む総勢18名が各々、
雄叫びを上げて、酒を煽っていた。
何人かのお調子者が酒のなみなみと注がれたジョッキを掲げて、
「我が黒豚傭兵団結成カンパーイ」
と何度も連呼していた。

「我らがリーダーの一声を」
と別の者が吠えた。
何人かの者が
「リーダーってルージェナさんじゃないんだ」
とひそひそと話していた。

九之池は端の方で、「ちっいらざること」と言って、舌打ちをした。

全員の注目を浴びて、九之池は早く何か言わなければと
焦った。
アルコールによる軽い酔いも手伝って、
身体中に汗をびっしりとかいていた。
「まっまーああー、仕事、、、です明後日から。
キョウハ、呑んでください」
九之池は、意味不明なことを小声で
震えながら、何とか言った。

一瞬、場の空気が淀み沈むが、
ルージェナが透き通る声で
「さてさてーみなさん。
リーダーからの一言もありましたので、呑みましょう」
と言い、ジョッキを掲げて、一気に飲み干した。

「おおおっー」
と歓声が至る所から上がり、
各々、手に持つジョッキの酒を飲みほした

九之池は、そんな酒場の狂乱を
冷めた目で見ていた。
そして、早く帰りたいと心の底から思った。

2日ほど前、九之池とルージェナは、
討伐に向かうためのメンバーを探していた。
しかし冒険者ギルドでうろうろするだけで、
一向に声をかけない九之池だった。
品定めをしているのかと九之池の行動を見て、
冒険者たちは思った。
1時間ほどうろうろするだけで、
何の進展もない九之池の行動であった。
ルージェナは、顔見知りの冒険者たちと話を
していたようだった。

九之池は、一時的なチームの結成と考えていたため、
受付に向かい、募集の張り紙を依頼することにした。

「すみません、討伐のメンバーを集めるのに
張り紙を出して欲しいのですけど?
討伐の実務は僕で。
責任者はシリア卿でお願いできます?」

「それは可能ですが、シリア卿からの
書状か何かを見せて頂けませんか?」
と受付が答えた。

「はっ?いや、そのぉないですが、
シリア卿が大公より勅命を受けているのは
知っていますよね?
その件なんですけど、必要?」
と九之池が立て続けに権力者の名前を出した。

しかし、受付は、その圧力に屈せずに飄々と答えた。
「シリア卿の名を記載するには、証書をお見せください。
ルールです。勅命だろうと守るべきことは守って貰います」

「ふーん、そうなんだ。
きみ、後でどうなっても知らないよ」
九之池は勅命や大公の名前を出したことで、
自分が偉くなったと勘違いしてしまったようだった。

受付の女性は、その言葉に怯んだが、九之池を睨みつけた。

受付で睨み合う二人をルージェナが発見すると、
急ぎその場に向かい、
「ちょっ、九之池さん、何をしているんですか!
すみません、すみません」
と受付の女性に頭を下げるルージェナだった。
そして、強引に九之池を引っ張り、自分のいた席に連れてきた。

「おいおい、ルージェナさんよ。
本当に大丈夫かよ。これがリーダーで!
まあ、報酬がいいから構わないけどよ。
ギルドと揉めるのは勘弁してくれ」
と貫禄のある男が九之池を一瞥して、言った。

「普段は確かにちょっと、頼りないですが、大丈夫です。
それにヘーグマンさんも同行しますので。
よければ、お知り合いも紹介して頂けると助かります」
とルージェナが可愛らしい表情でお願いをしていた。

「おうよ!何人か、暇な奴を見繕っておくわ」
と言って、男は席を立った

「ルージェナ、あれ、誰?」
むすっとして尋ねる九之池。

「いえ、よくここのギルドに出入りしている冒険者の方です。
ここの冒険者の古株の方です。
今日の午後には、幾人かの冒険者と
話ができると思いますよ」
と言って、ルージェナは微笑んだ。

「ふーん、まあどうでもいいけどさ。
午後から面接ってことね」
何となく面白くない九之池だった。

午後からの冒険者との面談で16名の参加が決まった。
九之池はへとへとだった。
最後の方は、まともな判断力が働いていない気がしたが、
人数は一先ず集まったことに安心した。

「結局、来た冒険者を全員、採用という形になりましたね。
大所帯ですが、九之池リーダー頑張りましょう」
ルージェナは、あれだけの面談の後にもかかわらず、
まだまだ、元気だった。

「そうそう、そうだねーがんばろー」
と疲れ切った九之池は、それだけを何とか答えた。
普段なら、リーダーという言葉に過剰反応するが
その気力も尽きているようだった。

ルージェナはヘロヘロの九之池の腕を引っ張り、
シリア卿の邸宅まで戻っていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す

エルリア
ファンタジー
【祝!第17回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞!】 転売屋(テンバイヤー)が異世界に飛ばされたらチートスキルを手にしていた! 元の世界では疎まれていても、こっちの世界なら問題なし。 相場スキルを駆使して目指せ夢のマイショップ! ふとしたことで異世界に飛ばされた中年が、青年となってお金儲けに走ります。 お金は全てを解決する、それはどの世界においても同じ事。 金金金の主人公が、授かった相場スキルで私利私欲の為に稼ぎまくります。

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

転生したら、伯爵家の嫡子で勝ち組!だけど脳内に神様ぽいのが囁いて、色々依頼する。これって異世界ブラック企業?それとも社畜?誰か助けて

ゆうた
ファンタジー
森の国編 ヴェルトゥール王国戦記  大学2年生の誠一は、大学生活をまったりと過ごしていた。 それが何の因果か、異世界に突然、転生してしまった。  生まれも育ちも恵まれた環境の伯爵家の嫡男に転生したから、 まったりのんびりライフを楽しもうとしていた。  しかし、なぜか脳に直接、神様ぽいのから、四六時中、依頼がくる。 無視すると、身体中がキリキリと痛むし、うるさいしで、依頼をこなす。 これって異世界ブラック企業?神様の社畜的な感じ?  依頼をこなしてると、いつの間か英雄扱いで、 いろんな所から依頼がひっきりなし舞い込む。 誰かこの悪循環、何とかして! まったりどころか、ヘロヘロな毎日!誰か助けて

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

処理中です...