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呆然

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 「ごめんなさい、ごめんなさい」
織多さんがロベリオの腕の切断部分を消毒する。

「うんうん、おりたは何も悪くないから。
それより折角、消毒してくれているのに
涙と鼻水で患部がばい菌に侵されそうだよ。
まー気にするなっていうのは
無理だけどさ、まあ、気にしないで」
残った手で織多さんの頭をぽんぽんと軽く叩いた。

応急手当が終わると、ロベリオが大きくため息をついた。

「まったく、こんな時にかがみぃは一体、
尾賀と何をしていることやら。
取り敢えず転がっているアレを拘束しようか」

「はっはい。両腕と両足を縛るような感じでいいですよね」
織多さんが同意して、縛れるものを探し始めた。

「おりた、そこの机に結束バンドがあるじゃん。
それで縛ればいいよ。手首、足首でなく、指と指をきつく絞って。
うっ血するけどまあ、いいや。
そしたら、手首と足首を縛れば問題なし」

この男の指のことなどどうでもいいと
言わんばかりの言葉に驚く織多さんだったが、
手錠や鎖があるわけでもなく、ロベリオの意見に従った。

 男は縛られて、軽く織多さんに小突かれると、
呻き声を上げた。
水を顔に浸されると、どうやら意識が戻ったようだった。

「すまない、助けてくれ。お願いだ。
これは何かの間違えだったんだ。頼む」
泣き叫ぶ男であったが、誰も共感も同情もしなかった。

「せめて、この指のバンドをはずしてくれ。
頼む。指が壊死してしまう」

「ふううっ、安心しろ、おまえには
もう必要のないものだろうから、気にするな」
ロベリオがそう言うと、男は激しく痙攣して、
白目をむいてしまった。

「ちょっ、ロベリオ。この人、意識を
また、失っちゃいましたよ」

「まー仕方ないよ。カーリンを運んできた
車両搭載用ストレッチャーを使って、別の場所に運ぶかな。
腕がこんな感じだし、おりた、後、よろしく」
そう言うと、ベッドに横になって眠りについた。

さて、どうしたものかと織多さんが思案していると、
ドアが開き、加賀見が入室してきた。
床に転がる男、そして、その付近で立ち尽くす織多さん、
ベッドで寝ているロベリオ。
加賀見の視界にそれらが一斉に入ってきた。
この状況を一瞬で理解するのは流石に
無理があったようで、加賀見が話しかけた。

「これは一体どういうことですか?」
掻い摘んで織多さんが説明を始めた。
話を聞き終えた加賀見は、若干、顔色が悪くなっていた。
ここでのトップ、つまり、船長職についている
加賀見のミスジャッジで大変な事態を
引き起こしていた。
無言のまま、右腕を失っているロベリオの方を見た。
結果として、男の暴挙は未然に防がれたが、
失われた腕は戻らず、一生ものの傷を負わせてしまった。
 加賀見にはどう責任を取るべきなのか判断がつかなかった。

「加賀見さん?加賀見さんっ!」

無言を貫く加賀見に説明を終えた織多さんが声をかけた。

「はっ、すみません、少しめまいがしたようです」
加賀見が織多さんに応じた。

「この人をどうします?
それとカーリンのオペが終わったら、
ロベリオさんのオペになりますけど、
加賀見さんはこの機械の使い方がわかりますか?」

「さあ?病院に行ったときに
見たことある程度ですよ。
カーリンに任せましょう。
おそらく大丈夫です」
床に転がる男を見るが、この男に
頼む気にはならなかった。
先ほどの温情措置を反故にしたことで、
加賀見はこの男の処遇に関して、厳罰で臨むことにした。

それにこの男の持つ技術に
代わりがきくならば、用なしであった。
カーリンが装置を操作できれば、帰国まで
何とかなると思い、この男のスキルに
対する価値を加賀見は低く見なした。
懸念されることは、カーリンへの負荷が
高くなることであった。
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