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侵入

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「よっ汚れてなんてありませんから、
絶対に汚れていませんから」
加賀見とロベリオの後方から、
呪詛の様に繰り返し、呟く織多さんだった。

向かう先は、医療室であった。
少し精神が錯乱してしまった尾賀が
治療をうけているはずだった。

「彼女に付き添った3人は、
もう通常の業務にもどったんですか?」
向かう途中で何気なく加賀見が尋ねた。
決して織多さんの呪詛に
耐えられなくなったわけではなかった。

「あーそう言えば、どうしったっけ。
多分、戻ったと思うけど、シフトの切り替えで、
今は、夢の中かな。
まーこの期に及んで尾賀に与するほど、
愚かな連中じゃないいと思うけど」

その後も何気ない会話が続き、医療室に到着した。

「ん?医療室の入り口って、こんなに赤黒くて、
ぬめりとしていましたか?」
加賀見がドアの前で立ち止まり、二人に確認をした。

織多さんも立ち止まり、ドアの状況に戸惑っていた。

「二人とものほほんとした会話を止めな。
もう分っているでしょ。重要なのは
この血が誰のモノで誰がやったかでしょ」

ドア付近の床は、脳漿だろうか、
少しとろみのあるような液体で浸っていた。

「ここで殺されたて死んだのか。
その後、この部屋に運び込んだのかな」
ロベリオが状況を観察して、
カーリンにコンタクトした。

「カーリン、監視カメラに何か映ってない?」

「チェックするけど、少し時間かかるよ。
それまで待機する?」
カーリンが管理センターの一画面を利用して、
録画画像をチェックし始めた。

ロベリオは二人をドアの前から
退避させ、開けようと試みるが開かなかった。
カーリンと何か話しているが、二人には聞こえなかった。

「ふーむ、物理的に施錠されているみたい。
船長、強行突破しますか?」

突然の船長扱いに加賀見は戸惑ったが、
この状況も捨て置けないため、強行突破を選択した。

「えっ、加賀見さん、カーリンさんからの
回答を待ってからでも」
織多さんが、そう尋ねると、加賀見が説明をした。
ロベリオは破壊の段取りを始めていた。

「恐らくこれは、時間稼ぎですね。
発見されると見て、少しでも時間を
稼ぐために敢えて、ここのドアに
このようなことをしたのでしょうね。
どのみち、物理的にどうにかしないと
開錠できないなら、解析の結果の前に
破壊してもいいかと思いましたので」

情報を分析し、診断する。
そのプロセスは問題解決に重要であるが、
今回は、解析より勘を優先した。
加賀見は胸の内にどろりとして、
纏わりつくような嫌な感じを受けたからだった。

「船長、じゃあ、破壊するよ。
機械的な施錠は銃で破壊するけど、
後は力技になるからね。そこんところよろしくー」

べっとりと血の付着したスライドドアの取っ手には
触りたくないのか、珍しくロベリオが
作業分担の旨を伝えて来た。
何もせずにロベリオの後方で話すだけの二人には、
拒否権はなそうだった。
加賀見は、船長としての決断を強いられた。
本当に話すだけなのは織多さんだけだった。
それに気づいたのか、織多さんは、
ジト目で加賀見を見ていた。
しかし、加賀見は無反応でそれに応じた。

「じゃ、おりた、後はよろしくね。
役割分担は、大切だよ」
ロベリオが織多さんを急かした。

「ううっ、適材適所を考慮した上で、
役割を振り分けた方がいいと思います」
織多さんは、血なのか脳漿なのかわからない
べっとりと液体の付着したノブを見て、
最後の抵抗を試みた。
確かに生理的に受け付けない雰囲気を
醸し出していた。
近づくと鉄の酸化したような臭いがしていた。

「うーん、船長。おりたの役割は
船長の夜伽ってことでいいのかな。
それならここに来る前にやってきたみたいだけど、
船長を満足させるには些か物足りなかったみたいね」
どうも先ほど管理センターに戻ってから、
妙に織多さんに絡み、挑発するロベリオだった。
若干、ぎすぎすした雰囲気がこの場を支配した。

「ロベリオさん、織多さんの役割は、
何か問題のある人物を捕縛する戦闘力ということで、
ここは、私が対応しましょう」
加賀見がやれやれと言った感じで、
スライドを思い切って引いた。

ドアは何かにひっかかっていたのか、
初動に力が必要であったが、動き出すと、
何か生肉を裂くような音と共にスライドしきった。
織多さんが蚊の鳴くような声で
すみません、すみませんと連呼していた。

加賀見は、後ろの二人に待ての合図を送り、
部屋に侵入した。
そして、入り口付近に転がる死体に絶句した。
頭が叩き割られ、腸の飛散した死体が転がっていた。
先ほどのスライドからの音は、腸を引き裂いた音であった。

「うげぇ」

加賀見はついつい、呻き声を上げてしまった。
流石にここまでの惨状は予想の上を言っていた。
そして、この80日に及ぶ探索で色々と経験し、
耐性がついたと思っていたが、これほどの惨状を
眼前にして、所詮は付け焼き刃であったと思い知らされた。

「加賀見さん、どうしましたか?大丈夫ですか?」
織多さんが心配そうに声をかけて、入室しようとした。

「駄目だ、来るな」
「おりたは、ここで周囲を見張ってな」
加賀見とロベリオが同時に叫んだ。
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