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呪詛

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裸のままで、ロベリオは、加賀見に話しかけた。
「それで、かがみぃー、これからどうするの?」

目のやり場に困る加賀見だったが、
別の方へ視線を向けても碌な物しか
視界に入らないため、仕方なしに
ロベリオの方を向いた。

「取り敢えず、この方々はここにいて貰います。
そのまま、地球に帰還と言うことで。
ここから、さっさと、出ましょう。
出入り口が閉まらないように台車を
置いておきましたが、外部操作で
閉じようとしていますね」

台車をドアがしっかりと挟み込んでいた。
台車を外したら、勢いよく閉まりそうな感じで、
台車のフレームがしなっていた。

「じゃ、かがみぃー出よっ」
とロベリオが加賀見の手を取って、部屋の外に向かった。

1人、会話から取り残されて、ぽつんと下着を
晒した男たちと部屋に取り残されている織多さん。
「ちょっ、ロベリオさん、服を着てください」
と言って、慌てて、二人の後を追った。

織多さんが部屋から出ると、
ロベリオが操作パネルから、ドアを開け、
台車を外してドアを閉めた。

「まーあいつらの始末は、したい人に任せましょう。
わざわざ、手を汚す必要はないしねー。
彼らが帰還してもしなくても
あまり害はないでしょ。
生きていてもかがみぃーが恨まれるだけだしね」
飄々と碌でもないことを加賀見に言った。

「えっどういうことですか?加賀見さん?
恨まれるとしたら副船長か、ロベリオか、
私のような気がしますが?」
通路を歩きながら、織多さんが疑問を呈した。
それに加賀見が苦笑して、答えた。

「彼らにとって、織多さんは恨むというより
心傷になっているでしょうね。
副船長やロベリオを恨んで人づてにそれが伝われば、
どうなるかは彼らも管理者、良く分かっていますよ。
恨むとしたら、最も害の無さそうな自分にするでしょうね」

「まー打算の結果で加賀見を
選択するのもあほだけどね。
恨むだけでなく、もし行動を起こしたら、
きっちりとやり返すよ、この男はね。
ねーかがみぃ、そうでしょう?」
いまだに上半身はブラをしただけ、
歩いているロベリオがにまにましていた。

「はあ、恨むのも打算ですか」
二人の会話を聞きながら、やっとのことで
二人の意見に感想を述べたが、顔には
納得できない表情が浮かんでいた。

「おりた、大半の管理者なんてそんなもんだよ。
特にここに派遣されるような奴らは、特にそう。
自分に有利しか動かないような連中だ。
ましてや、打算の果ての
派閥争いか出世競争に破れた負け犬の
集まりだから、最後も損得で考えるよ」
普段のふざけた表情とは裏腹に厳しい表情で
織多さんを諭すロベリオだった。
その表情に気圧された織多さんは、頷くだけだった。

「さて、世の中の厳しいお話は、
終わりにするとして、
これからどう動くか考えましょうか?」
加賀見が二人に提案した。

独居房に残された二人は、朦朧としながらも
意識が回復していた。
痛みに苦しみながらも一人がドアを
開けることができないかどうか確認をした。

ドアは開かない。

そのことに失望したが、副船長が気付けば、
開錠してくれるだろうと期待して、
ゆっくりと腰を下ろした。

独居房にアナウンスが流れた。副船長の声だった。

無慈悲な情報が抑揚のない声で聞えて来た。

「すまない、ドアは開錠できない。
加賀見君が何か細工をしていったようだ。
酷く怪我をしているようだが、
そのために治療もできそうにない」

「はぁはぁ、聞こえていますか、はぁはぁ、副船長。
管理センターの者に頼めば、はぁはぁ、何とかなるのでは?」
苦しみからか、息も絶え絶えに
何とか活路を見出そうと、提案した。

無慈悲な情報が抑揚のない声で聞えて来た。
「悔しいが、管理センターの面々は、
既に加賀見君に篭絡されている。
こうなる前に彼を排除したかったのだが、残念だよ」

確かに副船長は、加賀見を排除しようとして、
自分たちにも依頼していた。
しかし、そこまであの男が組織にそこまで
侵食していたとは思わず、二人は悔恨の念に囚われた。

苦痛と加賀見に対する恨みで、顔を歪める二人。
ゆっくりとした空気の流れに乗って、
紫色の煙が天井部から、流れ出していた。
その変化に驚いた二人は、口々に喚き始めた。

「ふっ副船長、こっこれは!」
「とっ止めてください。これは、これは、止めてくれぇー」

無慈悲な情報が抑揚のない声で聞えて来た。
「すまない、どうすることもできない。
恐らく加賀見君の差し金だろうね。
私には見ていることしかできない」

二人に副船長のアナウンスが聞えると、
狂ったように加賀見への呪詛を吐き出した。

「加賀見ぃー。貴様、絶対に殺す、ころす、コロス」
「ぐぅぅぅ、かがみ、一生をかけて貴様を
地獄に落とす落とす、落とす」

部屋の半分ほどを紫の煙が満たしていた。
私室でモニター越しに状況を見ている副船長は、
二人の狂乱ぶりについに我慢できなくなり、
音声を切り、笑いだしてしまった。
「くっくはははー」

画面では、痛みを堪えながら、
必死に上着を振って煙が近づかないように
している二人の裸の男が映っていた。
上下に服を振っているその様は、間抜けな踊りを
踊っているようだった。
「ふう、十分に笑わして貰ったよ」

部屋に煙が充満して、しばらくすると、
ばたばたと二回、何かが倒れる音がした。

部屋からガスが抜けきり、モニター越しに部屋が
見える様になると、そこには素っ裸の男が二人、
凄まじい形相で倒れていた。

呼吸はしていなかった。

そして、床には、紅い文字で、
加賀見、加賀見、加賀見と一面、描かれていた。

それを見た副船長は、感心したように
「ほう、これはなかなか」と言って、モニターを切った。
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