異世界にもあった鬼畜な会社の鬼畜な業務異世界転移してきたのに変わらぬ社畜生活

離陸準備

昼食後、事務局員がサバイバルスーツを
装着した5人を探索者フロアに放り投げた。
5人とも睡眠薬でも盛られているだろうか、
ピクリともしなかった。
事務局員が事務局エリアに戻ると
同時に各連絡通路を隔てるため、厚いシャッターが動き始めた。
この様子を管理センターで加賀見や事務局員はモニターしていた。

　放置された5人の目が覚めた時、
既にシャッター下がり切っているだろう。
加賀見はこの状況を見て、1人は何の罪もないはずだ、
契約によって残ることになったにも関わらず、
扱いが他と同じことに不信感を強くもった。

加賀見が怪訝な表情をほんの一瞬ではあるが、
してしまったのだろう。
それを目ざとく見つけたロベリオが話しかけた。
「かがみぃー、これで地球に帰還できるのに
不平不満そうな表情だね。どうしたの？
彼等にはこの巨大な探索者スペースと
契約によって残るあの男には、リーダーとしての
立場と銃器を持たせてあるから、待遇としては充分だよ」

加賀見は、その発言にぎょっとした。
今度は、表情すら取り付く島もなかった。

「それとですが、彼は他のメンバーより
早く目覚めるでしょう。
リーダーとして、どうするかは彼次第です」
とカーリンが補足した。

加賀見は耳に入れたくなかった情報であった。
彼らに用意された食料や水は、一人当たり半年分であった。
次の探索船が本当に2年以内に来るならば、
4人を殺すことで食料は確保できる。
しかし、ここの地に2年も一人いることを
考えるとぞっとした。
精神が耐えられるのだろうか、
孤独に悩み狂ってしまいそうだと加賀見は思った。

これは契約違反かどうか判断が難しいところだなと
加賀見は思い、少なくとも彼が依頼した入金の件は、
必ず事務局にやらせようと心に誓った。

「ところで、かがみぃは、地球に到着したら、人気者だね。
うん、人気者。魑魅魍魎の輩が君を
利用しようと近づいて来ることはもう、予想済みだよね」
とロベリオが唐突に帰国後のことを話し出した。

渡航船ミラーワールド109号は、
不必要な部分の分離行程に進み、超高速航海に
耐えうる仕様に移行していた。

　カーリンを中心に幾人かのメンバーが
オペレーションをしていた。
時節、カウントダウンを読み上げる声が
管理センターに響いていた。
加賀見は、ロベリオの質問に対して沈黙していた。
ロベリオは加賀見の視線を捉えて、離さずにいた。

　ロベリオはため息をつくと、再び話始めた。
「かがみぃは、本当に不器用だねぇ。
まあ、そこが魅力なのかもしれないけど。
一応、伝えておくと、尾賀と織多は、既に事務局と言うか、
政府に協力することにしているよ。
後はかがみぃだけだよ。
そうだね、もし、かがみぃが協力する気があるなら、
あの男、確か、元宮だっけが残したPCを渡して欲しいな。
あまり、かがみぃに手荒なことはしたくないからさ」

加賀見は堰を切ったかのように笑いだした。
そして笑い続けた。

「ん？」
ロベリオが不思議そうに加賀見を見つめた。