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応戦

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「すみません、積極的な態度は否定しませんが、
今は手を休めて、話を聞いてください。
あなたの今後に関わることです」
と加賀見はなるべく穏便に声をかけた。

「うっうるさい、僕は残らないぞ。
今、ここで重要な作業をしているし、
その功績を考えれば、
当然、除外されるべきじゃないか、そうだろう。
そうだ、君が残りなよ」
と目をあわせずに震える声で答えた。

加賀見は、少し遠目からでも
わかるくらいに震え出した男の状態を心配したが、
何の行動にも移らなかった。
ただ、言葉を続けた。

「継続して、この地で探索に携わって頂きます。
その間の給与のお支払いは、
中抜きされていない金額となります。
つまり、派遣会社経由でのお支払いでなく、
直接、あなたの口座に振り込みます」
加賀見は、先ほどの男と同様の説明に
派遣会社の件を追加して説明をした。

男は身体を震わせながら、黙って聞いていた。
加賀見が話終わると、二人の間を沈黙が支配した。

「ふひゃ、ふひゃひゃぁ、おまえ、糞だな。
ここに残ったら、どうせ死ぬよ。
いくら金を貰ったって、同じでしょう」
と叫んだ。

加賀見は、表情一つ変えずに答えた。
「あなたのご関係者に亡くなった場合、
責任を持って、保険金も含めて、お支払いします」

「ぷぎゃーぷぎー。ふざけるな。
なんだ、あんな糞どもに金を
渡さないといけないだよ」
ぷりっ、加賀見は聞き覚えのある嫌な音を
離れた場所にいる男から聞いた。
男は、逃れられぬこの異動の件で、
懊悩し、恐怖し、緊張の糸が切れ、
ついには脱糞してしまった。

「お前がここで死ねば、僕の枠は開くのかな。
ぷふゅ、ぽぴゅぃ、あんな化け物相手、
僕が生き延びれる訳ないじゃんかよ。
ぽぴぃ、ぽぴぽぷ、君もわかって、
えらんでいるだお」
と言うなり、涎を垂らしながら、
加賀見に走り寄り、手に持った電工ドライバーで
加賀見の鎖骨当たりを目がけて、振り下ろした。

「ぐっ」
加賀見は、何とか彼の腕を捉えて、
避けると、そのまま、床に倒した。

電工ドライバーは、その時に男が離したのか、
加賀見の後方に転がっていた。

「ぐっ」
男は、加賀見と同じような呻き声をあげると、
目から涙を流し、鼻水を垂らし、ゲラゲラと
笑っているのか泣いているのか
わからない表情になっていた。
そして、ポケットから、電工ナイフを
素早く取り出すと、加賀見の顔面に向けて、
やみくもに振り回した。

加賀見は、一旦、男から離れると、
「やめないさい。ここまで、不問としますが、
これ以上、行うなら、査問会議にかけられて、
大変なことになりますよ」

その言葉にかすかに反応したように見えたが、男は、
「やつらに金なんぞ、残してやるもんか。
畜生、馬鹿にしやがって、借金だけ残してやる。
奴らも地獄を見ればいいんだ、くそ糞、クソ」

加賀見ではない誰かに呪いの呪詛を
吐きながら、めちゃくちゃに
電工ナイフを振り回していた。
武器を持たない加賀見は、対抗する手段を
持っていないため、この場から退散しようと、画策した。

その時、機械室の扉が開き、
複数の男たちと副船長が入室してきた。

「はいはい、そこまでね。
加賀見君も後方に下がって」
と両手で、二度ほどを拍手して、副船長が言った。

暴れる男を捕えると、副船長と一緒に
入室した男たちは、終始無言で男を何処かへ連れていった。

突然のことに呆然とする加賀見に
副船長がにやにやとしながら、耳元に囁いた。

「いやいや、助かりました。
まさか、犯罪者に仕立て上げるとは
予想できませんでしたよ。
まあ、そのお陰で無駄なコストを
費やさなくてすみそうです。
保険屋も喜びますし、加賀見君に
この件を頼んで正解でしたね」

そう言うと、立ち尽くす加賀見に明日、
彼等に関して、最終の打ち合わせをしますと
言い残して、機械室を去った。
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