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二人目
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「さて、次はこの方になるのか」
部屋で次の人物の履歴を再チェックして、
準備を整える加賀見であった。
先ほどの男は比較的、上手く交渉できたほうであったが、
流石に気分は重くなっていた。
履歴を見る限りこの男の給与は
かなり派遣会社にピンハネされているようだった。
「要は金か、役所も企業も大して変わらないな」
権力闘争の負け組たちは別として、
危険な業務や雑務に就く事務局員は
概ね金絡みで乗船しているようであった。
加賀見は資料を最終チェックして、
この男のところに向かった。
ちまちま、ちまちま、ちまちまと
一人の男が機械室に設置されている
ケーブルラック上のケーブルを整理していた。
そんな様子を加賀見は見ると、
一体、彼は何をやっているのか疑問を感じた。
「今、忙しい、後にしてくれないか」
とこちらに気が付いたのか男が声をかけてきた。
相変わらず、ちまちまとケーブルを
ラック上に綺麗に並べ居ている。
加賀見は、電気制御の専門でなかったので、
よく分からなかったが、彼の作業に意味を
見出せなかった。
怪訝な表情の加賀見に男は何かしらの不安を
感じたのか、作業を中断して、加賀見の元に来た。
「何しに来たんですか?
特に探られるようなことはしていませんよ。
これは専門性が必要で、必要なことで
誰がやらないといけないから、
やっているだけですよ」
と捲し立てた。
「はあ、その作業の目的と誰の指示で
行っているんですか?」
加賀見は、理解の及ばない点が
あったために男に尋ねた。
「ノイズの除去さ。電線が絡み合うと
ノイズが発生して通信網が
上手く機能しないことがあるため、
自主的に作業を行っているんだよ。
言われたことだけをするのが
仕事じゃないだろう」
男が説明をした。
加賀見は男の主張に唖然としてしまった。
その問題点は、既に解決された事柄であったはず。
そして、察した。この男は仕事を
しているふりをしているのだと。
この緊急時に上長の了解も
得ていない自主作業など、
邪魔以上に害悪でしかない。
指示を出さない上司も悪いが、
恐らく彼に対応できる業務がなく、
指示を出さなかったのだろう。
「ノイズですか、カーリンさんから、
後ほどその件は確認しておきますよ。
無駄な作業はすべきではないですからね」
と加賀見が男に伝えると、
突然、顔を歪ませて、叫んだ。
「そんな必要はない。仕事の邪魔をするな。
机上でシステムを扱うだけでは
わからないこともあるんだよ。
いいね、余計なことをしないでください」
突然の豹変ぶりに加賀見は驚いたが、
それ以上に流石に何世代も前に
改善されたケーブルの絡みによるノイズの
除去作業を主張されて、困惑していた。
男はまた、作業に戻るのかすたすたと
作業場所に戻っていた。
慌てて、加賀見は男を呼び止めた。
「ちょっと、待ってください。
話は終わっていません。
このまま、話が終わるなら、
強制現地残留となります。
補償は一切、受けられないと思ってください」
男は立ち止まり、その場で震えながら、振り向いた。
そして、言った。
「しっ仕事をしているじゃないか。なんで、僕なんですか?」
「その業務が必要な事かどうかは、
管理者判断することです。
最終的に指示に従えない局員は
必要ありません」
冷たく加賀見が伝えた。
「理解できないだけで、僕の仕事は大切なことなんだ」
「ですから、それを判断し、
評価するのが管理者なのです。
それに必要ならば、理解されるように
自分の業務をプレゼンしてください」
遠目に見えるケーブルラックに並ぶ制御線は、
見た目には絡みあっているように
加賀見は見えなかった。
そして、最先端のケーブルは、
絡まろうがノイズが発生しない技術が使われていた。
男は加賀見を見つめて、前後左右に
細い上半身が震えていた。
「ノイズが発生すると船が、船が制御不能になって、
大変なことになるんだ。
そう、宇宙会戦で稀代の天才がノイズを
利用して帝国軍に大打撃を与えるんだ。
君も聞いたことあるだろう銀河戦争伝説の話を」
加賀見は珍しく混乱していた。
一体、何の話か皆目見当がつかなかった。
そもそもそんな戦争を聞いたことがなかった。
「無知を責める訳にはいかないが、
深夜帯で再放送しているよ。
帰国したら、見るといい。
一気に視たいなら、デジタルメディアで
レンタルするのがお薦めだね」
男はいつの間にか揺れが収まり、熱く語っている。
加賀見はようやく理解が追い付いた。
この男はアニメで得た知識でこの作業を始めたのだと。
部屋で次の人物の履歴を再チェックして、
準備を整える加賀見であった。
先ほどの男は比較的、上手く交渉できたほうであったが、
流石に気分は重くなっていた。
履歴を見る限りこの男の給与は
かなり派遣会社にピンハネされているようだった。
「要は金か、役所も企業も大して変わらないな」
権力闘争の負け組たちは別として、
危険な業務や雑務に就く事務局員は
概ね金絡みで乗船しているようであった。
加賀見は資料を最終チェックして、
この男のところに向かった。
ちまちま、ちまちま、ちまちまと
一人の男が機械室に設置されている
ケーブルラック上のケーブルを整理していた。
そんな様子を加賀見は見ると、
一体、彼は何をやっているのか疑問を感じた。
「今、忙しい、後にしてくれないか」
とこちらに気が付いたのか男が声をかけてきた。
相変わらず、ちまちまとケーブルを
ラック上に綺麗に並べ居ている。
加賀見は、電気制御の専門でなかったので、
よく分からなかったが、彼の作業に意味を
見出せなかった。
怪訝な表情の加賀見に男は何かしらの不安を
感じたのか、作業を中断して、加賀見の元に来た。
「何しに来たんですか?
特に探られるようなことはしていませんよ。
これは専門性が必要で、必要なことで
誰がやらないといけないから、
やっているだけですよ」
と捲し立てた。
「はあ、その作業の目的と誰の指示で
行っているんですか?」
加賀見は、理解の及ばない点が
あったために男に尋ねた。
「ノイズの除去さ。電線が絡み合うと
ノイズが発生して通信網が
上手く機能しないことがあるため、
自主的に作業を行っているんだよ。
言われたことだけをするのが
仕事じゃないだろう」
男が説明をした。
加賀見は男の主張に唖然としてしまった。
その問題点は、既に解決された事柄であったはず。
そして、察した。この男は仕事を
しているふりをしているのだと。
この緊急時に上長の了解も
得ていない自主作業など、
邪魔以上に害悪でしかない。
指示を出さない上司も悪いが、
恐らく彼に対応できる業務がなく、
指示を出さなかったのだろう。
「ノイズですか、カーリンさんから、
後ほどその件は確認しておきますよ。
無駄な作業はすべきではないですからね」
と加賀見が男に伝えると、
突然、顔を歪ませて、叫んだ。
「そんな必要はない。仕事の邪魔をするな。
机上でシステムを扱うだけでは
わからないこともあるんだよ。
いいね、余計なことをしないでください」
突然の豹変ぶりに加賀見は驚いたが、
それ以上に流石に何世代も前に
改善されたケーブルの絡みによるノイズの
除去作業を主張されて、困惑していた。
男はまた、作業に戻るのかすたすたと
作業場所に戻っていた。
慌てて、加賀見は男を呼び止めた。
「ちょっと、待ってください。
話は終わっていません。
このまま、話が終わるなら、
強制現地残留となります。
補償は一切、受けられないと思ってください」
男は立ち止まり、その場で震えながら、振り向いた。
そして、言った。
「しっ仕事をしているじゃないか。なんで、僕なんですか?」
「その業務が必要な事かどうかは、
管理者判断することです。
最終的に指示に従えない局員は
必要ありません」
冷たく加賀見が伝えた。
「理解できないだけで、僕の仕事は大切なことなんだ」
「ですから、それを判断し、
評価するのが管理者なのです。
それに必要ならば、理解されるように
自分の業務をプレゼンしてください」
遠目に見えるケーブルラックに並ぶ制御線は、
見た目には絡みあっているように
加賀見は見えなかった。
そして、最先端のケーブルは、
絡まろうがノイズが発生しない技術が使われていた。
男は加賀見を見つめて、前後左右に
細い上半身が震えていた。
「ノイズが発生すると船が、船が制御不能になって、
大変なことになるんだ。
そう、宇宙会戦で稀代の天才がノイズを
利用して帝国軍に大打撃を与えるんだ。
君も聞いたことあるだろう銀河戦争伝説の話を」
加賀見は珍しく混乱していた。
一体、何の話か皆目見当がつかなかった。
そもそもそんな戦争を聞いたことがなかった。
「無知を責める訳にはいかないが、
深夜帯で再放送しているよ。
帰国したら、見るといい。
一気に視たいなら、デジタルメディアで
レンタルするのがお薦めだね」
男はいつの間にか揺れが収まり、熱く語っている。
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