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警報

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地平線の向こうに母船らしき機影が見え始めた。

「加賀見さん、あれ!ミラーワールドですよ!
ついに見つけましたね」
興奮気味に叫ぶ織多さんだった。
加賀見の目にも見えていた。
地平線の先に見えるということは、
多分、ここから、5㎞は超えない距離であろうと判断した。

「織多さん、ここからです。事務局側は多分、
周囲を監視していているはずです。
異形種と見なされて、攻撃されるかもしれません。
注意して進みましょう」
と言って、加賀見は、元宮のPCを立ち上げた。

「加賀見さん?どうしましたか?」
と怪訝そうな表情で尋ねた。

「この万能PCで私たちが彼らの監視装置に
引っ掛からないようにできればと思いまして、
最悪、異形種と見なされて、撃ち殺されるかもしれませんしね。
本来は、もっと早くしておけば良かったのですが、
どうも気が回らずにすみません」
と加賀見は言った。

有無を言わさず銃撃されずに済んだのは、
運が良かったのだろう。
織多さんは立ったままだった。
加賀見はその場にしゃがみ込みPCを操作していた。

「織多さん、少しでも身体を休めた方がいいですよ」

「いえ、この体勢で周囲を監視します。
気になさらずに作業を続けてください」
と織多さんが言った。
加賀見は、また、織多さんが尿意を
我慢しているのかと思い、
「織多さん、一度も二度もおなじですよ、
我慢しないでください。
それより、身体を休めてください」
と改めて言った。

織多さんは顔を真っ赤にして、
「ちっ違います。そうじゃないんです。
気にしないでください」
と叫んで、そのまま、黙り込んでしまった。

加賀見たちが、母船を発見したと
同時刻に船内には、警報が鳴り響いていた。

事務局員たちは、異形種が発生したと思い、
作業を中断して、慌てて、迎撃の準備を始めた。

「くそっ、ついに来たか。
一体、何匹くらい発生しているんだ」
と一人が叫ぶと、管理センターにいるカーリンは、
情報を各員に送った。

「二匹が検知されています。
速度からすると、人型と予想されます」

多くの事務局員がこの情報に懐疑的な印象を持った。
人型二匹、ありえない。基本、液体を
ハントする場合、複数の化け物が現れていたはず。

「一旦、監視装置の機能を完全に復旧させ、
異形種をモニターします」
とカーリンが再度、情報を流すと、警報が突如、
停止して、検知されていた二匹の異形種が消失した。

「あれっ?消失している。誤報かな?」
カーリンは、疑問に思い、管理者たちに一応、
どうすべきか判断を仰いだ。

「念のため、探索機で周辺を確認しますか?
もしくは、監視装置を完全復旧して、
周辺の確認をしますか?」

「どちらも却下だ。無駄なエネルギーは使うな。
副船長殿のお陰で、無駄にエネルギーは
使えないだろうが。それより、問題ないのなら、
さっさと作業に戻れ」
とスピーカー越しに管理者たちが命令を下した。

 現在、渡航船ミラーワールド109号では、
副船長を含めた管理者たちの合議制で
この難局を乗り切ろうとしていた。
副船長の権力は、絶対の立場から、一転して
一管理者となっていたが、絶対的なイニシアティブを
彼に代わって、執り行うほどの人物もおらず、
なし崩し的に合議制となってしまっていた。

「一先ず、何とかなりそうです」
と加賀見が言って、船に向かって歩き始めた。

「元宮さんって、一体何者だったんですかね?
ちょっと、凄くないですか?」
と織多さんも歩きながら、話し掛けた。

「そうですね。真っ当に仕事が出来ていれば、
凄腕のエンジニアとして、業界で名を
馳せたと思います」
と加賀見が賛同した。

加賀見は、内股で歩く織多さんが
気になり、話題を転じた。
「まあ、元宮さんの残してくれたものは
有効活用するとして、織多さん、その歩き方ですと、
遠方から見ると、人型の異形種に見えるので、困りますよ」

「えっ、でも、だって、」
ともごもごと言い訳を始める織多さんだった。

「いや、これからが重要なタイミングです。
素早く動けるように準備して
おかないと、困ります」
と加賀見は冷たく言い放った。

「いやいやいやっ。このまま歩きます。
これ以上、この件に関して、なしです」
と織多さんが言うと、速度を上げて、歩いた。

そんな織多さんを見て、
加賀見は諦めたのか後からついていった。
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