上 下
67 / 179

模擬戦

しおりを挟む
  トレーニングルームに到着した加賀見と織多さんは、
サバイバルスーツに着替えを始めた。加賀見は、尾賀より
支給されたスターテクノロジーズ社製のスーツを装着した。
標準よりもフィット感はあるが、より身体のスタイルを
露わにすることが難点ではあった。

「これって、股下まで、こんなに
ジャストフィットさせる必要があるのか」
加賀見は愚痴をこぼしながら、着替えていた。
着替えた後、ルームに戻り、織多さんを待った。

「ひゃっ!加賀見さん、サバイバルスーツを
変更したんですね!
随分と大胆なタイプですねー。
それって、スターテクノロジーズのですよね」
と織多さんはびっくりしたのか、一気呵成に言った。

「ええ、前回の探索でスーツがかなりの
ダメージを負ってしまい、
使えなくなってしまったんです。
事務局からの標準品を支給して貰うことも
検討したのですが、無償供給でなく、
かなりの費用が必要だったので、
尾賀さんから頂きました」
と加賀見は細部までの事情を端折って説明した。

「でもそのタイプだと、なかなか、女性が
装着するには勇気がいるかなー。
モデルタイプの身体つきじゃないと
ちょっと、きびしかなぁ」
とため息をついて感想を述べた。

「さてと、今日はどうしますか?」
と加賀見が尋ねると、

「加賀見さんが早くスーツに
慣れるよう模擬戦でどうでしょうか?」
と提案した。
加賀見は異存がなかったために、
了解の旨を伝えて、織多さんと移動した。

 模擬戦を始めると、織多さんは、
鬼気迫る勢いで攻め立てきた。
加賀見は、圧倒され、何度も倒されていた。
それなりの時間を模擬戦に費やした二人だった。
加賀見は息が上がっていたが、
めずらしく織多さんも息が上がっていた。

「はぁはぁ、織多さん?そろそろ、終了しましょうか?
度を超すと身体にわるいですよ」
と織多さんを見て伝えると、
泣き叫んで織多さんが言った。

「訳わかんないですよ。
目が覚めたら、誰も知っている人いないし。
復讐しようとしたあの二人は、
これ以上ない恐怖に囚われながら、
殺されているし。
あれって、何かの実証実験のようだったし。
もう何がなんだかよくわからなくてー」

 加賀見は、ゆっくりと近づいて、
織多さんを抱きしめた。

「ひっ」
と一言、放ち、固まる織多さん。

加賀見は、背中を軽くぽんぽんと叩いて、
「もう、大丈夫ですよ」と囁くと、
織多さんは両手で加賀見の背中を
強く握りしめて、わーわーと大声を
出しながら、泣いていた。
 しばらくして泣き止むと、加賀見から離れて、
「やっぱりそのスーツって、標準より
体線がしっかりとトレースされるんですね」
と言って、更衣室に向かった。

 加賀見もそんな後ろ姿を見守りながら、
更衣室に着替えに向かった。
そして、流石にこの借り物のスーツまでも
汚せないと思い、はち切れんばかりに形状を
露わにしている鼠径部周りを刺激しないようにして歩いた。

 着替え終わった織多さんは、加賀見に
「さっきはその、ありがとうございました」
と言った。

「いえ、気になさらずに。部屋までも送りますよ」
と加賀見は言って、織多さんの手を握った。
二人の所作は、恋人同士のように自然であった。

 歩きながら、織多さんは、
「あーあー、加賀見さんには、
返しきれないくらいの恩が貯まってます。どうしたら、
いいんでしょうねー。困ったなー」
とぶつぶつと困ったように呟いていた。

「織多さん、お返しはアレです。
お互いのためにアレにしましょう。
アレがいいです。察してください」
と加賀見は特に思いつくことが
無かったので、何となく言ってみた。

「えっ、アレですか。そっそのおう、
少し待って頂けませんか?
加賀見さんなら、大丈夫ですけど、
時間がほしいです。ごめんなさい」
と心底、申し訳なさそうに言った。

「そうですね。必ず帰還して、
色々とおすすめの漢方を買いに行くのに
付き合ってもらわないと!」
と加賀見は慌てて、伝えた。

「はっ?加賀見さん!」
と織多さん、言って、顔を真っ赤にして、
頬をぷくーと膨らませた。


 作業を終えたロベリオは、カーリンの隣で
加賀見と織多さんの二人をモニターしていた。

「あーもう、痒いよう。
なんか手の届かないところが痒くなるよう。
ったく、この二人は、こんなじゃないのに。
特にかがみぃーは、エロエロがおもしろのに。
ってカーリン、聞いてるの?」

「うるさい、ロベリオ。
静かにできないなら、出て行きなさい」
とカーリンがいらただしげにロベリオに言った。

「カーリン、どしたの?」

「ふん、ネズミがシステムに干渉しているみたい。
確固たる証拠がつかめないのよね。
まあ、犯人は尾賀のところの
あのマゾヒスト君でしょうけどね」

「えっそれって、やばくない?
さっさと捕まえた方がいいんじゃない?
ってか副船長に伝えといた方がいいよ」
とロベリオが心配そうに言った。

「副船長には既にその存在は伝えてあるわよ。
その上でネズミを探しているの。
所詮は、底辺か落伍者のエンジニアだし、
大したことないわ。対策は済ませたわ。
3人ほど、システム系のエンジニアが
残っているけど、やりそうなのはあのマゾ君だけ。
確実な証拠が握れたら、また、あの面白いイベントが
見られるでしょう。
そのときは、尾賀も同じ運命ね」
とカーリンは無表情でロベリオに伝えた。

「カーリン、こわっ」
と一言、ロベリオが感想を述べた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

トモコパラドクス

武者走走九郎or大橋むつお
SF
姉と言うのは年上ときまったものですが、友子の場合はちょっと……かなり違います。

VRゲームでも身体は動かしたくない。

姫野 佑
SF
多種多様な武器やスキル、様々な【称号】が存在するが職業という概念が存在しない<Imperial Of Egg>。 古き良きPCゲームとして稼働していた<Imperial Of Egg>もいよいよ完全没入型VRMMO化されることになった。 身体をなるべく動かしたくないと考えている岡田智恵理は<Imperial Of Egg>がVRゲームになるという発表を聞いて気落ちしていた。 しかしゲーム内の親友との会話で落ち着きを取り戻し、<Imperial Of Egg>にログインする。 当作品は小説家になろう様で連載しております。 章が完結次第、一日一話投稿致します。

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

ちょいダン? ~仕事帰り、ちょいとダンジョンに寄っていかない?~

テツみン
SF
東京、大手町の地下に突如現れたダンジョン。通称、『ちょいダン』。そこは、仕事帰りに『ちょい』と冒険を楽しむ場所。 大手町周辺の企業で働く若手サラリーマンたちが『ダンジョン』という娯楽を手に入れ、新たなライフスタイルを生み出していく―― これは、そんな日々を綴った物語。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

異世界修学旅行で人狼になりました。

ていぞう
ファンタジー
修学旅行中の飛行機が不時着。 かろうじて生きながらえた学生達。 遭難場所の海岸で夜空を見上げれば、そこには二つの月が。 ここはどこだろう? 異世界に漂着した主人公は、とあることをきっかけに、人狼へと変化を遂げる。 魔法の力に目覚め、仲間を増やし自らの国を作り上げる。 はたして主人公は帰ることができるのだろうか? はるか遠くの地球へ。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

処理中です...