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少しの沈黙が場を支配していた。
この沈黙に耐えられなくなった加賀見は、
「では、カーリンさん、ロベリアさん、お願いします」
と言った。

まず、カーリンが話し始めた。
「私は、装置や機材関係の制御系の技術職だから、
詳しいことは知らない。
調査や探索の指針を決めているのは、
船長や副船長と言った管理系だから。
技術業務以外では、命じられたことを遂行しているだけ。
この世界のこともほとんど知らないわよ。
研究系の連中から聞いた程度よ」

「私も同じだよ。機械関係の技術職だから、知らないよ。
それに知っていても話さないよ。
事務局員も同じようにモニターされているからね。
そもそも今回の外部探索が比較的安全だと
判断されての同行だしね。
かがみぃとおりたが探索者で面白そうだったのもあるけど」
とロベリオが続けた。

「じゃあ、あの母船の前の惨劇の状況も
突発的なことと判断しているの?」
と織多さんが尋ねた。

「常識的に考えればそうでしょう。
あんな化け物をどうやって制御するの?無理でしょう。
あんな状況、私たちも驚いたわよ」
そう言って、カーリンは冷笑した。

「そうですか。基本的に安全が
確保されている前提で、副船長の指示により、
同行したということですね。
ひとつ、伺いたいのですが、船長はどこにいますか?」
加賀見は突然、別の事柄を質問した。

二人は顔を見合わせて、まず、カーリンが答えた。
「さあ、そう言えば、あまり気にしたことなかったわ。
船長室にいると思うわ。
多分、行方不明者や死者の報告に頭を悩ませているじゃない」

ロベリアは、「うん、基本的に私たちと
接点のある人じゃないからねー。
指示は、副船長やその他の管理職から、指示があるし。
あまり人前に出てこないのは、忙しいからじゃない」
と答えた。

加賀見は、船長の存在を疑って、
唐突な話題の変化で何かを掴めるかと思い、
質問をしたが、あまりに自然な二人の話しぶりに困惑した。
自分はあまりにも余計なことに気を
回し過ぎているのか?
どうも常時、監視されていると思うと、
もう一歩踏み込むことに躊躇する自分がいた。

「うーん、加賀見さん、私たちの
考え過ぎなのかな。どう思いますか?」
織多さんの問いに加賀見が
答えようとしたとき、
「加賀見、これは忠告です。
あまり色々なことに気を回すより、
探索に集中した方が良いですよ。
話はここまで。探索報告書の提出、
よろしくお願いします」
とカーリンが言った。

「かがみぃ、今度は、ちゃんとしたベッドで
楽しもうね。プライベートのお付き合いは、
禁止されてないから」とロベリア。

すかさず、能面のような表情で織多さんが、
「駄目です。今後、加賀見さんと
お会いするときは、私も同行します。
加賀見さん、いいですね」
と淡々と答えた。
加賀見は、はいとしか返事ができなかった。

「では、私たちは通常の業務に戻りますので」
とカーリン。
「じゃあねー、また、今度ねー」
とロベリオ。

加賀見と織多さんも各々、おつかれさまと言って別れた。

彼女らが去り、織多さんは、会議室で
加賀見の横に移動して尋ねた。
「加賀見さん、あれで、良かったんですか?
あまり、追及していないじゃないですか!」

「ええ、彼女たちは多分、本当のところは、
知らないのでしょうね。
ただ、必ず何かこの世界と事務局の間に
接点らしきものがあるはずです」
と言いながら、机の下の織多さんの
太ももに左手を這わせた。

「ひっ!何しているんですか!やめて」
と短く悲鳴を上げた。
「まあまあ、誰もいませんし、少しはいいでしょう。
まずは探索報告書を作成しますか」
と加賀見は続けた。
左手の人差し指が織多さんの内腿をなぞり、
過去の探索履歴を調べてくださいと指文字で伝えた。

「いい加減にしてください。
加賀見さん、人を呼びますよ。
それに私は、あの件を許したわけでは
ありませんから」
と左手を掴み、机の上に叩き付けた。

「いたっ」
と加賀見が短く悲鳴を上げた。

「えっ、すみません。そんなに強くしたつもりは、、、」
と織多さん。

「いえ、すみませんでした。
それよりセンタールームで
報告書を作成しましょう」
と加賀見。

「加賀見さん、私が探索に行く前に
焚きつけるようなことを言ったとはいえ、
絶対にシャワー室の件は、許しませんから。
今後の探索の件も考えさせてください」
と言い残して、先に会議室を出て行った。

1人残された加賀見は、さてどうしたものかなと
思案するも良案が思い浮かばず、ため息をついた。

管理センターの監視モニターの前で
その様子を見ていた副船長は、
「加賀見君にも困ったことです。
ひとまず、二人の仲立ちをしてあげましょう」
と言って、冷笑した。
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