【完結】たまゆらの花篝り

はーこ

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こころとからだ㈠ ※R15

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 ――まるで、鈴にでもなったかのよう。

 肢体の柔らな線をくすぐるささいな刺激にも反応してしまう己の、なんと浅ましいこと。
 鼻にかかった甲高い声が自分のものだなんて、到底信じられない。

「かわいいひと……」

 女を、いやほのを知り尽くした指先であった。
 生娘であったはずの身体もまた、艶かしい草笛の音色を受けて熱を持つ。

「やだ……やだ」
「ふふ……〝もっと〟……ですね?」
「あッ……だめ、べにぃっ!」

 やめてくれという本気の訴えに、彼の神は聞く耳を持たなかった。
 ひときわ強い刺激で、津波のような熱が押し寄せる。
 悲鳴じみた嬌声に、べには秀麗なかんばせを歪めて耐え忍ぶ。苦悶ののちに胸を支配するのは、充足感や征服感といった、打ち震えるほどの快楽だ。

「嗚呼……漸く、わたしを喚んでくださいました。貴女様より頂いた名……わたしの宝物……もっと、わたしをお求めになれば良い……」
「んっ……」

 翠の絹髪が鎖骨をかすめる。
 寄せられた唇が、吸い付くように、甘噛むように、薄紅の花弁で胸許の蕾を無数に彩る。
 咲かせようとしているのか、散らそうとしているのか、もうわからない。

「べに、もうやめて……私、べにを嫌いになりたくない……」

 やっとの思いで紡いだ懇願に、胸許への愛撫がやむ。
 苦しいほどに密着していた裸体がわずかながら離されたことに淡い期待を抱いたのも、つかの間であった。

「なればいつ、愛して頂ける? わたしはいつまで待てばよろしいのか」

 甘やかな睦言は一変。無機質で鋭利な返答が突きつけられる。

「親愛など要りませぬ。寵愛、ただそれのみがわたしは欲しい!」
「ぁあっ……!」

 壊れ物を扱うような慈しみにあふれていた手が、細い手首をぎりぎりと締めつける。
 痛いと叫びたい弱音を噛み殺すほどに、生理的な涙が大粒の琥珀からこぼれる。
 褥を濡らす朝露は、紅へ朱の唇を噛みしめさせた。

「……また、泣かれるのですね。わたしのなにがいけないのですか? わたしは貴女様を傷つけたりしない……傷つけたくないのに……」

 にじむ世界に降る雨。
 ここで初めて、草笛の語尾が曖昧に消え入った。

「わたしは、貴女様が愛おしいだけなのです……涙よりも笑顔が見たい……今宵だって、本当はもっと優しく……抱きた、かった……」

 あぜんとして仰いだ先。穂花の涙をぬぐいながら、紅も涙を流していた。
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