【完結】たまゆらの花篝り

はーこ

文字の大きさ
上 下
8 / 77

菫の進言㈠

しおりを挟む
 日本晴れをいただく屋上。南中した太陽とは対照的に、ほのの機嫌は最底辺を蛇行していた。

「私、どんどん自分がダメになってく気がするわ……」
「それは重畳ちょうじょう。今後とも全身全霊を以てお仕え申し上げるぞ」
「あのねぇ、べには私を甘やかしすぎだと思うの!」
「吾妹の為ではない。吾妹をどろどろに甘やかし、厭がる姿に快感を覚えたいが為。その証拠に、やめろと言われてすぐにわたしがやめたことはなかろう?」
「たしかに! 最低!!」

 ああ言えばこう言う。はじめから開き直っているこの変態付喪神は、さすが一筋縄ではいきそうもない。
 手持ちの重箱――ひとり用の小ぶりのもの――をちゃぶ台よろしくひっくり返しそうになるが、困るのは自分。ぐっと堪えるほかなかった。

 口ではなんと言おうが、穂花が食してくれることを知っていた紅であるから、給仕の意味合いも兼ねて傍近くで誇らしげに見つめていた。
 だし巻き玉子を嚥えんし、脇に控える付喪神をそっと見やる。

 紅は家事から穂花の身の回りの世話に至るまで、なんでもそつなくこなしてみせる。口を挟む間もないほどに。これほど神らしくな……家庭的な神もいないだろう。
 否、神ゆえになんでもこなすことができるのか。成程、これぞ全知全能。

「吾妹、如何されたか? 急に黙り込みなさって」
「……」
「吾妹」
「…………」
「……構ってくれ、細君」

 まずい、と箸の手が止まる。
 吾妹と喚ばれているうちはまだいい。
 しかし細君はどうだろうか。
 どちらも愛する女性の呼称であるが、前者は軽いたわむれ、後者は魅惑的な睦言というように紅が使い分けていることを、長年の経験から導き出していた。

 いつもいつも出し抜かれているのが面白くなくて、なんとなく無視をした結果がこれとは。
 沈黙をいぶかしんだか。
 紅は主の背へ近づくと、射干ぬばたまの長髪をそっと掻き分け、のぞく白いうなじに朱の唇を寄せる。

「我が愛しの君……あまり袖にされては、わたしも耐えきれぬというもの」
「でしたら、日頃の行いを正されては如何かしら」
「わたしは身を焼くような情愛を捧げているというのに、この想いは儚くも水泡に帰すのであるな。あな切なきや、切なきや……」
「ハイそこ泣き真似しない!」

 振り返りざまの容赦ない一喝に、紅は紺青の袖で覆った口許をあらわにする。形のいいそれは、悲相とは縁遠い弧を描いていた。
 穂花はこれ以上のやり取りは埒が明かないと判断。手早く重箱を風呂敷に包む。

「あまり食が進んでいないではないか。どちらへ」
「お花摘みに。ご馳走さまでしたッ!」

 すかさず続こうとする紅へ予防線を張り、駄目押しに風呂敷を押しつける。
 その心情はさながら、過保護な父や兄に対する反抗と似ていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

今日の授業は保健体育

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。 その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。 ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

処理中です...