【完結】たまゆらの花篝り

はーこ

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憧憬と嫉妬㈢

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「えと、制服どう? 似合ってるでしょ?」

 戸惑いの末に、脈絡もない話題を口走る。

 紺のジャケットにグレーチェックのリボンタイとスカートのブレザー姿でこうして登校するのは、なにも今日が初めてではない。今更であることはわかりきっていた。
 頭ひとつ分高い場所で、居心地の悪そうな穂花を脳天から爪先まで見下ろした真知は、真顔でこうのたまう。

「馬子にも衣装」
「ひどいっ! 少しくらい褒めてくれても……」
「冗談だ。似合ってる。かわいい」

 不意にほころぶ頬笑みは凶器だ。
 歯の浮く台詞をさらりと口にしてしまう真知は、どこぞの神のように下心はない。俗に言う天然というやつだ。これはこれで恐ろしい。

「そういう顔、俺以外に見せんなよ」

 なにを言われたのか、すぐには理解できなかった。数拍遅れて、甘やかな鼈甲べっこうの瞳に閉じ込められた自分の頬に朱が散る様を目撃してしまう。
 居たたまれず俯いた頭上で、ふっ……と笑みがこぼれる。

「ほんと、おまえってさ――」

 ぎゅ、とまぶたを固く閉じる。
 息も足も止めた穂花を、静寂が包み込む。

 続く言葉、ふれる指先はなかった。
 恐る恐るまぶたを持ち上げると、左手を伸ばしたまま、人形のように硬直した真知の姿がある。

「――ふれるな。わたしのものだ」

 地底を這うような低音が、右の耳朶じだを凍らせる。
 失念していた。どうしようもなく奔放で、優しくて、嫉妬深い神の存在を。

 それまで浮遊していた紅は、細首に巻きつけた両腕はそのままに、穂花へ寄りかかるように降り立つ。
 真知よりは小柄ながら、同年代の男子とそう変わらぬ体重をかけられることとなり、穂花は顔をしかめた。

「紅……苦しい。離して?」
いやじゃ。わたしを置いて細君はいずこへゆかれるおつもりか。わたしは離れませぬ。離しませぬ」

 まるで愚図る子供だ。こうなったが最後、機嫌を取るまでなにを言っても聞かない。
 途方に暮れた穂花は、ぐりぐりとうなじに擦りつけられる翠の頭を撫でることにした。身動きが取れないため、手首を返して。
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