【完結】たまゆらの花篝り

はーこ

文字の大きさ
上 下
5 / 77

憧憬と嫉妬㈡

しおりを挟む
「おはようございます、先輩っ!」
「あぁ、おはよう」

 桜が立ち並ぶ十字路の右手側から、見知った青年が穂花へ歩み寄る。
 すっとした輪郭。春風になびく男子にしては少し長い髪は飴色。彫りの深い切れ長の双眸そうぼうも、同様の色を宿す。

「思ったより、元気だったな」
「あ、私がバカみたいな言い方やめてくださいよー」
「なら、やんちゃとでも言っておくか。敬語なんて軽口叩くくらいには」
「怒ってます?」
「……怒ってない。けど、ちょっと違和感がある」
「ごめんね、まちくん」
「何度も言わせるなよな」

 淡々と抑揚がなくとも、長年の付き合いがあれば、おのずと機微にふれることができる。

 怒ることは滅多になく、その心根は慈愛に満ちあふれたかのごとく優しい。ゆえに凛然と端正な顔にりゅうを寄せたわけは、穂花の他人行儀な言動が要因にほかならない。

 近寄りがたいようで、その実は心配性な世話焼き。穂花が慕うひとつ年嵩としかさ金丸かなまる真知まちは、そういう青年だ。

「そろそろ、高校にも慣れたか?」

 桜の舞う歩道を、連れ立って歩き出す。
 まだひとけの少ない通学路は静かで、鶯もまどろんでいるらしい。

「結構クラスメイトとも打ち解けてきたよ。友だちだってできたし」
「……男か?」
「女の子だよ! 私がいつまでもやんちゃだと思ったら、大間違いなんだから!」

 幾度となく交わしてきた会話だ。「性別間違えたんじゃないのか」と真知も呆れてしまうほど、同性に縁がなかった穂花である。てっきり今回も、やんちゃをたしなめられたものだと思っていた。

「そうか……ならいい」

 思っていたのだが……違ったらしい。
 心底安堵したような真知は、いつの記憶をたどってもいない。
 穂花に遊び相手がいないことを懸念する一方で、いざ友人ができたとなると複雑な顔色を見せる。十年来の付き合いがある穂花も、幼馴染の心情が上手くつかめなくなってしまった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

【R18】エリートビジネスマンの裏の顔

白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます​─​──​。 私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。 同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが…… この生活に果たして救いはあるのか。 ※サムネにAI生成画像を使用しています

車の中で会社の後輩を喘がせている

ヘロディア
恋愛
会社の後輩と”そういう”関係にある主人公。 彼らはどこでも交わっていく…

My Doctor

west forest
恋愛
#病気#医者#喘息#心臓病#高校生 病気系ですので、苦手な方は引き返してください。 初めて書くので読みにくい部分、誤字脱字等あると思いますが、ささやかな目で見ていただけると嬉しいです! 主人公:篠崎 奈々 (しのざき なな) 妹:篠崎 夏愛(しのざき なつめ) 医者:斎藤 拓海 (さいとう たくみ)

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

【完結】俺のセフレが幼なじみなんですが?

おもち
恋愛
アプリで知り合った女の子。初対面の彼女は予想より断然可愛かった。事前に取り決めていたとおり、2人は恋愛NGの都合の良い関係(セフレ)になる。何回か関係を続け、ある日、彼女の家まで送ると……、その家は、見覚えのある家だった。 『え、ここ、幼馴染の家なんだけど……?』 ※他サイトでも投稿しています。2サイト計60万PV作品です。

処理中です...