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第1章『リンゴンの街編』
第15話 伝えたかったキモチ
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クリベリン邸を飛び出して、街のはずれまでやってきた。
風が吹き抜ける十字路の真ん中で、するっと、つないでいた手がほどかれる。
「傭兵のおじさんから助けてくれて、ありがとうございました。ここから先は、どこでも好きなところに行ってください」
そう言う声はかたくて、背も向けられている。
「……それ、僕に言ってるんですか?」
わかりきったことだとは思いながら、きき返す声が低くなるのを、おさえられない。
「キミは、2年前に『テイム』した『オーガ』……思い出しました。もう『リリース』したってことも。だから、シュシュとのつながりはないんです」
「あります」
「ありません!」
「ある。だってご主人さまは、あのとき、僕の名前を呼ばなかった」
「それはっ……!」
『テイマー』がモンスターにつける名前は、服従させるための枷。
もし『リリース』をするなら、『テイマー』は同時に名前も破棄して、モンスターの枷をといてあげなくちゃいけない。
「僕の名前は、ずっとあなたがもってました。あのときの『リリース』は無効です」
「っ、ソラく──!」
「これから『リリース』するのも、やめてください。……さすがに、怒りますよ。これは僕の名前だ。わたさない」
じぶんがどんな顔をしてるかなんてわかるわけないけど、きっと、ヒトには見せられないようなものなんだろう。『鬼の形相』ってやつかも。
「名前をくれて、うれしかった……僕の気持ちは、知らんぷりですか……?」
泣きそうになるのをこらえてるから、こんな怖い顔になっちゃうんだ。
鬼の鋭い牙が唇に食い込んで、口のなかに苦い味がひろがる。
「……そう、ですね。知らんぷり、してましたね」
痛いくらいの沈黙に、か細い声が聞こえた。
「……あのときキミを『リリース』したのは、このまましばりつけちゃいけないって、それで頭がいっぱいだったからなんです」
「どういうこと、ですか?」
「人間の身勝手な都合ですよ。あのときのこと、なにもかも忘れるつもりでした……でもやっぱり、こころのどこかで、キミのことが引っかかっていたんでしょうね」
「ご主人さま……」
「違います。『テイマー』の仕事は辞めました。もうキミのご主人さまになってあげられません」
だからこれっきりだって、また遠ざけられるんだろうか。
想像してうなだれちゃったけど、続く言葉に、ハッと顔が上がる。
「……キミの声をきかないで、つらい思いをさせてしまったこと、ほんとうに申し訳ないです。ごめんなさい……それで、虫がよすぎるかもしれないけど、キミが無事でいてくれて、ほんとうによかったです……」
とぎれとぎれの言葉を耳にするたび、よどんでいた胸の霧が晴れるようだ。
「あの、ソラくん」
「はい」
「あのときつたえられなかったこと、きいてくれますか?」
「……はい」
「シュシュは……シュシュは、ただ、キミたちとおなじでいたかった。おともだちに、なりたかった。そうするのに、『テイマー』はちょっと違うかなって、シュシュは思ったんです」
命令するご主人さまなんかじゃなくて。
おなじ目線でいたかった。
対等で、ありたかった。
──それが、僕を『リリース』しようとした、ほんとうの理由なんだって。
光が射したみたいに、視界がパァッと明るくなって、からだの芯から、じんと熱がこみ上げてくる。
「だから、『モン・シッター』のお仕事をはじめたんです。キミたちがやすらげる居場所を、つくりたかった」
そんなこと、言われたらさ。
「反則でしょ……っ!」
あれだけこらえていた涙があふれて、止まらない。
想いがあふれて、たまらない。
風が吹き抜ける十字路の真ん中で、するっと、つないでいた手がほどかれる。
「傭兵のおじさんから助けてくれて、ありがとうございました。ここから先は、どこでも好きなところに行ってください」
そう言う声はかたくて、背も向けられている。
「……それ、僕に言ってるんですか?」
わかりきったことだとは思いながら、きき返す声が低くなるのを、おさえられない。
「キミは、2年前に『テイム』した『オーガ』……思い出しました。もう『リリース』したってことも。だから、シュシュとのつながりはないんです」
「あります」
「ありません!」
「ある。だってご主人さまは、あのとき、僕の名前を呼ばなかった」
「それはっ……!」
『テイマー』がモンスターにつける名前は、服従させるための枷。
もし『リリース』をするなら、『テイマー』は同時に名前も破棄して、モンスターの枷をといてあげなくちゃいけない。
「僕の名前は、ずっとあなたがもってました。あのときの『リリース』は無効です」
「っ、ソラく──!」
「これから『リリース』するのも、やめてください。……さすがに、怒りますよ。これは僕の名前だ。わたさない」
じぶんがどんな顔をしてるかなんてわかるわけないけど、きっと、ヒトには見せられないようなものなんだろう。『鬼の形相』ってやつかも。
「名前をくれて、うれしかった……僕の気持ちは、知らんぷりですか……?」
泣きそうになるのをこらえてるから、こんな怖い顔になっちゃうんだ。
鬼の鋭い牙が唇に食い込んで、口のなかに苦い味がひろがる。
「……そう、ですね。知らんぷり、してましたね」
痛いくらいの沈黙に、か細い声が聞こえた。
「……あのときキミを『リリース』したのは、このまましばりつけちゃいけないって、それで頭がいっぱいだったからなんです」
「どういうこと、ですか?」
「人間の身勝手な都合ですよ。あのときのこと、なにもかも忘れるつもりでした……でもやっぱり、こころのどこかで、キミのことが引っかかっていたんでしょうね」
「ご主人さま……」
「違います。『テイマー』の仕事は辞めました。もうキミのご主人さまになってあげられません」
だからこれっきりだって、また遠ざけられるんだろうか。
想像してうなだれちゃったけど、続く言葉に、ハッと顔が上がる。
「……キミの声をきかないで、つらい思いをさせてしまったこと、ほんとうに申し訳ないです。ごめんなさい……それで、虫がよすぎるかもしれないけど、キミが無事でいてくれて、ほんとうによかったです……」
とぎれとぎれの言葉を耳にするたび、よどんでいた胸の霧が晴れるようだ。
「あの、ソラくん」
「はい」
「あのときつたえられなかったこと、きいてくれますか?」
「……はい」
「シュシュは……シュシュは、ただ、キミたちとおなじでいたかった。おともだちに、なりたかった。そうするのに、『テイマー』はちょっと違うかなって、シュシュは思ったんです」
命令するご主人さまなんかじゃなくて。
おなじ目線でいたかった。
対等で、ありたかった。
──それが、僕を『リリース』しようとした、ほんとうの理由なんだって。
光が射したみたいに、視界がパァッと明るくなって、からだの芯から、じんと熱がこみ上げてくる。
「だから、『モン・シッター』のお仕事をはじめたんです。キミたちがやすらげる居場所を、つくりたかった」
そんなこと、言われたらさ。
「反則でしょ……っ!」
あれだけこらえていた涙があふれて、止まらない。
想いがあふれて、たまらない。
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