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五人の適合者 最終話
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ライフルは一般兵士時代の得意武器だった。
狙撃の腕で右に出る者はいない。
俺は狙撃という一方的なハンティングが一番向いていたのだ。
三年以上かけて作った特殊な弾薬。
カゲの硬い胴体を撃ち抜くために開発した。
クロスはライフルを構えた。
風の強さを確認する。
……北西からの風がかなり強い。
スコープから覗き込みんだ。
アルム達の苦しむ様子に動揺してしまいそうになる。
どこを撃てばあれは止まるのだろうか……。
その時、月姫の顔が見えた。
「確か……月姫が言っていた。」
病室で月姫はブツブツと何度も言っていたことがある。
(……儀式は五人で成立する。だから……)
つまり…一人でも殺せばあの儀式は止まる。
クロスは大きく息を吐いた。
「なぁ……カリストレート……覚えてるか?俺達はただ普通に生きたかっただけだよな…。化け物になったり身体がボロボロでも、それでも俺達は進み続けるんだ……なぜなら誰よりも力のない平和を望んだお前だからだよ。俺も一緒だよ。だから今のお前を……殺すんだ。」
クロスはカリストレートに標準を合わせる。
苦しむ様子がよく伝わる。
息を吸う。そして、ゆっくりと息を吐いた。
ライフルは火花を散らして弾丸が勢いよく放たれた。
一直線に飛んだ先にはカリストレートの適合武器があった。
槍はクロスの弾丸に撃ち抜かれて刃が粉々に粉砕する。
「…ずっとお前の身体は化け物になっちまったって思ったよ。でも、それが答えだったんだ。魂を槍に移した事で身体を何度でも復活できる。お前はいつだって器用にやるもんな……。」
クロスは鎧のカゲに標準を合わせた。そして、マレンと目が合った事に気がついた。
「……まさか…見えているのか!?」
クロスは急いで走り出す。
カリストレートは力が抜けるように倒れる。
それはスローモーションのように時間が過ぎていく。
アルム達の輪が消えていく。
アルム達は激しい痛みから開放された。そして、全員が倒れ込む。
儀式はクロスによって未完成で中断された。
マレンは舌打ちする。
「この正確な狙撃は……あの男か。」
マレンは森の中でライフルを構える男を目で捉えた。
「……せっかくだからあいつからコロす。」
マレンは異形の生物に変わると大きく口を開けた。
赤色の光が輝き出す。限界まで溜め込まれたエネルギーを一気に開放する。
森に一直線に放たれた光線は大きな爆発を起こした。
範囲は森一つ吹き飛ばすものだった。
衝撃が遅れてアルム達にも伝わった。
熱風と押しつぶされそうな圧力がアルム達を襲う。
「ふふふっ……これよこれッ!!これが生命体の頂点よ。確かに全てを吸い取れなかったのは残念だけど……これだけあれば十分よ。」
破壊力を見れば一目瞭然だった。明らかにどんな兵器でも出せない火力だ。しかも、あれは本気ではない。軽く息を吹いたのと同じようなものだ。
でもそんな事は関係ない。また仲間を……殺されたんだ。
大切な家族を……。こいつは憎い仇だ。
「お前は…この世界にとっての害虫だ。さっさと駆除してやる。」
アルムは立ち上がる。右手の剣を強く握る。
機械仕掛けの剣を展開しようとする。
しかし、剣は反応しない。
「もう殆ど吸い取っちゃったからね。力を行使することはできないよ。残念だったね。じゃあ殺すね……もう用済みだからさ。」
マレンは神の姿に変わっていく。翼が生えて美しく白いワンピース姿で髪は黄金になっている。
まるで女神だ。
マレンは剣を作り出してアルムに斬りかかる。
アルムは剣で受け止める。
しかし、その力は凄まじい威力だった。一振りでアルムは塔の端まで飛ばされる。
地面を転がりながら受け身を取った。
そして、もう一度立ち上がる。
そして、走り出す。剣を全力で振った。マレンは手で受け止めた。
「どうして諦めない??もう決着はついた。君達の負けだよ。君の今の力はおもちゃの剣で戦っているようなものだ。影の王の力も今は出せないんだろ??なら諦めなよ。かっこ悪い。」
マレンは軽く突き飛ばした。
アルムは地面に倒れ込んだ。
アルムはもう立てないほど衰弱していた。
アルムの中にあるエネルギーも殆ど吸い取られてしまったのだ。
マレンは剣でとどめを刺そうとする。
そこに月姫がギリギリのタイミングで動いた。弓で必死に剣を防いでいる。
「ふーん。驚いたね。まだエネルギーが残っていたんだ…。」
月姫は膝をつきどんどんと重くなる剣を全力で押し返そうとする。
「立って……私達はカゲに屈しない。博士は言っていたのよ。本当の力は個々のものでは無いとッ!!五人の力が集まることで本当の力になるのよ!!私の力を貴方にあげる。立って!!私達の最後の希望ッ!!」
月姫の体を支えるもうひとりの声がする。
「私はアルムさんに何度も助けてもらいました!今度はあなたの役に立ちたい。微力ですが、力になります!」
剣を押し返すもうひとりの声がする。
「……勝つんだろ。やってみなきゃ分からない。多くの人の思いを届けろッ!アルムッ!!」
そして、もうひとり…アルムの肩を大きく揺さぶった。
「俺の弟なら立てッ!!今すぐにだッ!!」
アルムは上を見た。
「兄さん。どうして……いるんだよ。」
アルムは涙がこぼれた。
その顔を見てクロスは不器用に笑った。
「クロのおかげだな。まさか転移ポイントを用意してくれているとは思わなかった。……さぁ立てッ!!」
アルムはゆっくりと立ち上がる。
マレンの剣を跳ね返した。
マレンは大きく体制崩す。
「一体何が……。」
月姫はアルムに弓を渡した。天姫は銃を渡した。クロはアルムに斧を渡す。そして、クロスはカリストレートから取り返した槍を渡した。
アルムは剣を…大きく空に掲げる。
五つの武器は反応しあい、空高く舞い上がる。
全ての機械仕掛けの武器はバラバラになり、一つの剣に変形する。
アルムは両腕でそれを力強く持った。
全ての適合武器を合わせた一つの剣はとても美しかった。
造形の美……そのものだった。
アルムは影の王の力を存分に注いだ。
力は溢れ出す勢いで溜まっていく。
マレンは苛立ち、空高く飛ぶ。
「今更遅いのよッ!この塔ごと全て消し飛ばすッ!!」
マレンの周りは大量の剣が作られている。
空を覆う量の剣が完成すると一斉に射出した。
真っ黒になる空にアルムは一振りの斬撃を与えた。
空の剣は溶けるように消えていく。
真っ赤になった空の上でマレンが冷や汗を出していた。
「……それは何?なんで私の力が通用しないの??まさに最強の力を手に入れたはずよ!?」
アルムは穏やかな口調で伝える。
「お前の力は奪い取ったものだ。与えられたり、奪い取っただけの力では本当の力じゃない。誰もが認めて、その資格を自ら手に入れた者だけが真の力を手に入れる。」
アルムはマレンに向かって剣を構える。
「逃げるなよ。これはお前がしてきたことへの制裁だ。」
剣はアルムの呼びかけで変形する。
黒い炎が燃えたぎる。
「火力100%神殺しッ!!」
アルムは渾身の一撃を放った。
空を切り裂き、数千メートル以上離れたマレン目掛けて黒炎が一瞬にしてマレンを包み込んだ。マレンは真っ二つになり、落ちてくる。
アルムはもう一度剣を振った。
マレンは更に切り刻まれていく。
アルムは何度も何度も剣を振る。
マレンは原型を留めていない。
いつの間にかマレンは肉の塊になっていた。
アルムは強く拳を握った。
肉片は黒い炎によって灰へわかっていく。
黒い炎は赤い空を元に戻した。大地を切り裂いて黒い大地を元の緑色の鮮やかな世界に戻したのだ。
アルムは空を見上げた。
世界は……平和を迎えるのだ。
アルムは……目を閉じた。
(な…。言っただろ?力は自ら生み出すものだと……。)
「あぁ。これが本当の力の使い方か……。」
しかし、悲劇は始まるのだ。
しばらくの沈黙の後に、空に黒い溝が発生する。
最初ほんの数センチだったのが一気に数メートル以上の大きさになっている。
「……マレンが取り込んだエネルギーが膨張して溢れ出している。」
クロはすぐに現状を把握する。
黒い溝はどんどんと膨張している。
秒単位で膨らむ溝はいつ爆発を起こすかわからなかった。
「すぐに脱出する。とにかく遠くへ……アルム?」
クロスは全員を避難させようとしている。
しかし、一歩も動かない人間が一人いた。
月姫はアルムの手を引っ張ろうとした。
しかし、アルムは動かない。
「アルム…ここにいてはあの爆発に巻き込まれるかもしれない。急ぎましょう。」
アルムはやっと口を動かした。
「あれは世界全体を飲み込むほどの爆発を起こすと考えていいはずだ。逃げ場なんてない。」
アルムの言葉にクロが動いた。
「……じゃあどうするのさ。……今できるのは逃げることだけだ。……そうだろ??」
クロはアルムに訴えた。
「……クロらしくないな。冷静じゃないし、なんだが焦っているみたいだ。」
クロは慌てていた。
「……当たり前だ。せっかくすべてが終わったと思ったのに……。」
クロは自分の力の無さにひどく落ち込んでいた。
「俺が止める。……あれは俺にしか止められない。」
アルムは頭の布を取った。
「クロ……これをお前に渡す。もし…次に何かあったらお前が、戦ってくれ。」
クロはアルムを見ることができなかった。
「……自己犠牲になるつもり……。そんなの……あんまりだ。」
クロは下を向いた。
クロスは何かを悟った。それはアルムの覚悟だ。
月姫はただ泣いている。天姫も月姫に寄り添って泣いている。
「俺は皆と一緒に戦えて良かったよ。ずっと村にいたらこんな気持ちになれなかったと……思うよ。」
クロはアルムの布をしっかりと握っている。
アルムは全力で地面を蹴った。
空高く飛び上がり溝に向かっていく。
そして、吸い込まれていく。
黒い空間は物凄い圧力と膨張したエネルギーがあった。
(お前に聞きたいことがある。)
剣から何か質問された。
「何だよ。こんな大事な時に……。」
(我が力を使って二つの選択肢を与えよう。このままでは世界は巨大な爆発によって何もかも失う。それ故に……私は別空間へ、このエネルギーを移すことを提案をする。もしくは、我が力でこの溝を封じ込める。別空間へエネルギーを移す場合はこの世界から失われるものがある。それは陰と光だ。エネルギーを封じ込める場合は封印が解かれた時に爆発するかも知れない。どちらがいい?)
「……別空間へ持っていこう。この世界から不安を取り除きたいからな。」
(良かろう。……始めるぞ。)
剣は全開の力を放った。
眩しい光は禍々しい黒い物体を包み込んでいく。
アルムは目を閉じた。
「さようなら。……守り抜いたよ。母さん…父さん。」
空にあった黒い溝が消えた。
それを見た彼らは深い悲しみと新たな一歩を踏み出す。
クロはアルムの布を頭に巻いた。
そして、立ち上がるのだ。
草原に風が吹く。草花が揺れる。その中に大きな剣が刺さっている。剣は赤く光輝いていた。
完結
狙撃の腕で右に出る者はいない。
俺は狙撃という一方的なハンティングが一番向いていたのだ。
三年以上かけて作った特殊な弾薬。
カゲの硬い胴体を撃ち抜くために開発した。
クロスはライフルを構えた。
風の強さを確認する。
……北西からの風がかなり強い。
スコープから覗き込みんだ。
アルム達の苦しむ様子に動揺してしまいそうになる。
どこを撃てばあれは止まるのだろうか……。
その時、月姫の顔が見えた。
「確か……月姫が言っていた。」
病室で月姫はブツブツと何度も言っていたことがある。
(……儀式は五人で成立する。だから……)
つまり…一人でも殺せばあの儀式は止まる。
クロスは大きく息を吐いた。
「なぁ……カリストレート……覚えてるか?俺達はただ普通に生きたかっただけだよな…。化け物になったり身体がボロボロでも、それでも俺達は進み続けるんだ……なぜなら誰よりも力のない平和を望んだお前だからだよ。俺も一緒だよ。だから今のお前を……殺すんだ。」
クロスはカリストレートに標準を合わせる。
苦しむ様子がよく伝わる。
息を吸う。そして、ゆっくりと息を吐いた。
ライフルは火花を散らして弾丸が勢いよく放たれた。
一直線に飛んだ先にはカリストレートの適合武器があった。
槍はクロスの弾丸に撃ち抜かれて刃が粉々に粉砕する。
「…ずっとお前の身体は化け物になっちまったって思ったよ。でも、それが答えだったんだ。魂を槍に移した事で身体を何度でも復活できる。お前はいつだって器用にやるもんな……。」
クロスは鎧のカゲに標準を合わせた。そして、マレンと目が合った事に気がついた。
「……まさか…見えているのか!?」
クロスは急いで走り出す。
カリストレートは力が抜けるように倒れる。
それはスローモーションのように時間が過ぎていく。
アルム達の輪が消えていく。
アルム達は激しい痛みから開放された。そして、全員が倒れ込む。
儀式はクロスによって未完成で中断された。
マレンは舌打ちする。
「この正確な狙撃は……あの男か。」
マレンは森の中でライフルを構える男を目で捉えた。
「……せっかくだからあいつからコロす。」
マレンは異形の生物に変わると大きく口を開けた。
赤色の光が輝き出す。限界まで溜め込まれたエネルギーを一気に開放する。
森に一直線に放たれた光線は大きな爆発を起こした。
範囲は森一つ吹き飛ばすものだった。
衝撃が遅れてアルム達にも伝わった。
熱風と押しつぶされそうな圧力がアルム達を襲う。
「ふふふっ……これよこれッ!!これが生命体の頂点よ。確かに全てを吸い取れなかったのは残念だけど……これだけあれば十分よ。」
破壊力を見れば一目瞭然だった。明らかにどんな兵器でも出せない火力だ。しかも、あれは本気ではない。軽く息を吹いたのと同じようなものだ。
でもそんな事は関係ない。また仲間を……殺されたんだ。
大切な家族を……。こいつは憎い仇だ。
「お前は…この世界にとっての害虫だ。さっさと駆除してやる。」
アルムは立ち上がる。右手の剣を強く握る。
機械仕掛けの剣を展開しようとする。
しかし、剣は反応しない。
「もう殆ど吸い取っちゃったからね。力を行使することはできないよ。残念だったね。じゃあ殺すね……もう用済みだからさ。」
マレンは神の姿に変わっていく。翼が生えて美しく白いワンピース姿で髪は黄金になっている。
まるで女神だ。
マレンは剣を作り出してアルムに斬りかかる。
アルムは剣で受け止める。
しかし、その力は凄まじい威力だった。一振りでアルムは塔の端まで飛ばされる。
地面を転がりながら受け身を取った。
そして、もう一度立ち上がる。
そして、走り出す。剣を全力で振った。マレンは手で受け止めた。
「どうして諦めない??もう決着はついた。君達の負けだよ。君の今の力はおもちゃの剣で戦っているようなものだ。影の王の力も今は出せないんだろ??なら諦めなよ。かっこ悪い。」
マレンは軽く突き飛ばした。
アルムは地面に倒れ込んだ。
アルムはもう立てないほど衰弱していた。
アルムの中にあるエネルギーも殆ど吸い取られてしまったのだ。
マレンは剣でとどめを刺そうとする。
そこに月姫がギリギリのタイミングで動いた。弓で必死に剣を防いでいる。
「ふーん。驚いたね。まだエネルギーが残っていたんだ…。」
月姫は膝をつきどんどんと重くなる剣を全力で押し返そうとする。
「立って……私達はカゲに屈しない。博士は言っていたのよ。本当の力は個々のものでは無いとッ!!五人の力が集まることで本当の力になるのよ!!私の力を貴方にあげる。立って!!私達の最後の希望ッ!!」
月姫の体を支えるもうひとりの声がする。
「私はアルムさんに何度も助けてもらいました!今度はあなたの役に立ちたい。微力ですが、力になります!」
剣を押し返すもうひとりの声がする。
「……勝つんだろ。やってみなきゃ分からない。多くの人の思いを届けろッ!アルムッ!!」
そして、もうひとり…アルムの肩を大きく揺さぶった。
「俺の弟なら立てッ!!今すぐにだッ!!」
アルムは上を見た。
「兄さん。どうして……いるんだよ。」
アルムは涙がこぼれた。
その顔を見てクロスは不器用に笑った。
「クロのおかげだな。まさか転移ポイントを用意してくれているとは思わなかった。……さぁ立てッ!!」
アルムはゆっくりと立ち上がる。
マレンの剣を跳ね返した。
マレンは大きく体制崩す。
「一体何が……。」
月姫はアルムに弓を渡した。天姫は銃を渡した。クロはアルムに斧を渡す。そして、クロスはカリストレートから取り返した槍を渡した。
アルムは剣を…大きく空に掲げる。
五つの武器は反応しあい、空高く舞い上がる。
全ての機械仕掛けの武器はバラバラになり、一つの剣に変形する。
アルムは両腕でそれを力強く持った。
全ての適合武器を合わせた一つの剣はとても美しかった。
造形の美……そのものだった。
アルムは影の王の力を存分に注いだ。
力は溢れ出す勢いで溜まっていく。
マレンは苛立ち、空高く飛ぶ。
「今更遅いのよッ!この塔ごと全て消し飛ばすッ!!」
マレンの周りは大量の剣が作られている。
空を覆う量の剣が完成すると一斉に射出した。
真っ黒になる空にアルムは一振りの斬撃を与えた。
空の剣は溶けるように消えていく。
真っ赤になった空の上でマレンが冷や汗を出していた。
「……それは何?なんで私の力が通用しないの??まさに最強の力を手に入れたはずよ!?」
アルムは穏やかな口調で伝える。
「お前の力は奪い取ったものだ。与えられたり、奪い取っただけの力では本当の力じゃない。誰もが認めて、その資格を自ら手に入れた者だけが真の力を手に入れる。」
アルムはマレンに向かって剣を構える。
「逃げるなよ。これはお前がしてきたことへの制裁だ。」
剣はアルムの呼びかけで変形する。
黒い炎が燃えたぎる。
「火力100%神殺しッ!!」
アルムは渾身の一撃を放った。
空を切り裂き、数千メートル以上離れたマレン目掛けて黒炎が一瞬にしてマレンを包み込んだ。マレンは真っ二つになり、落ちてくる。
アルムはもう一度剣を振った。
マレンは更に切り刻まれていく。
アルムは何度も何度も剣を振る。
マレンは原型を留めていない。
いつの間にかマレンは肉の塊になっていた。
アルムは強く拳を握った。
肉片は黒い炎によって灰へわかっていく。
黒い炎は赤い空を元に戻した。大地を切り裂いて黒い大地を元の緑色の鮮やかな世界に戻したのだ。
アルムは空を見上げた。
世界は……平和を迎えるのだ。
アルムは……目を閉じた。
(な…。言っただろ?力は自ら生み出すものだと……。)
「あぁ。これが本当の力の使い方か……。」
しかし、悲劇は始まるのだ。
しばらくの沈黙の後に、空に黒い溝が発生する。
最初ほんの数センチだったのが一気に数メートル以上の大きさになっている。
「……マレンが取り込んだエネルギーが膨張して溢れ出している。」
クロはすぐに現状を把握する。
黒い溝はどんどんと膨張している。
秒単位で膨らむ溝はいつ爆発を起こすかわからなかった。
「すぐに脱出する。とにかく遠くへ……アルム?」
クロスは全員を避難させようとしている。
しかし、一歩も動かない人間が一人いた。
月姫はアルムの手を引っ張ろうとした。
しかし、アルムは動かない。
「アルム…ここにいてはあの爆発に巻き込まれるかもしれない。急ぎましょう。」
アルムはやっと口を動かした。
「あれは世界全体を飲み込むほどの爆発を起こすと考えていいはずだ。逃げ場なんてない。」
アルムの言葉にクロが動いた。
「……じゃあどうするのさ。……今できるのは逃げることだけだ。……そうだろ??」
クロはアルムに訴えた。
「……クロらしくないな。冷静じゃないし、なんだが焦っているみたいだ。」
クロは慌てていた。
「……当たり前だ。せっかくすべてが終わったと思ったのに……。」
クロは自分の力の無さにひどく落ち込んでいた。
「俺が止める。……あれは俺にしか止められない。」
アルムは頭の布を取った。
「クロ……これをお前に渡す。もし…次に何かあったらお前が、戦ってくれ。」
クロはアルムを見ることができなかった。
「……自己犠牲になるつもり……。そんなの……あんまりだ。」
クロは下を向いた。
クロスは何かを悟った。それはアルムの覚悟だ。
月姫はただ泣いている。天姫も月姫に寄り添って泣いている。
「俺は皆と一緒に戦えて良かったよ。ずっと村にいたらこんな気持ちになれなかったと……思うよ。」
クロはアルムの布をしっかりと握っている。
アルムは全力で地面を蹴った。
空高く飛び上がり溝に向かっていく。
そして、吸い込まれていく。
黒い空間は物凄い圧力と膨張したエネルギーがあった。
(お前に聞きたいことがある。)
剣から何か質問された。
「何だよ。こんな大事な時に……。」
(我が力を使って二つの選択肢を与えよう。このままでは世界は巨大な爆発によって何もかも失う。それ故に……私は別空間へ、このエネルギーを移すことを提案をする。もしくは、我が力でこの溝を封じ込める。別空間へエネルギーを移す場合はこの世界から失われるものがある。それは陰と光だ。エネルギーを封じ込める場合は封印が解かれた時に爆発するかも知れない。どちらがいい?)
「……別空間へ持っていこう。この世界から不安を取り除きたいからな。」
(良かろう。……始めるぞ。)
剣は全開の力を放った。
眩しい光は禍々しい黒い物体を包み込んでいく。
アルムは目を閉じた。
「さようなら。……守り抜いたよ。母さん…父さん。」
空にあった黒い溝が消えた。
それを見た彼らは深い悲しみと新たな一歩を踏み出す。
クロはアルムの布を頭に巻いた。
そして、立ち上がるのだ。
草原に風が吹く。草花が揺れる。その中に大きな剣が刺さっている。剣は赤く光輝いていた。
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