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第216話
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◆岸元美波 視点◆
「あれ?ユッキー?どうしてここにいるの?」
ケーキ作り会もほぼほぼ終わり、あとは凪沙さんがこれから帰ろうというところで春華ちゃんにユッキーと呼ばれた少年が入ってきた。
実際に会ったことはなかったけど、春華ちゃん達の従兄弟で若林幸博君という名前だけはずっと前から知っていた存在で、春華ちゃんから聞いていたよりは全然繊細な印象の男の子だと思う。そんな彼がわたし達に構わず春華ちゃんへ話しをし続ける。
「あれ?伯父さんから聞いてない?
俺、冬休みの間お世話になることになったんだよ。」
「そうなの?聞いてないけど、それっていつ決まったの?」
「昨日の夜」
「じゃあ、あたしは今日の準備でバタバタしてたからパパが話しそびれてたのかも」
「そっか、じゃあサプライズになったな」
「たしかに驚きはしたけど、喜んではいないよ」
「ひでぇな!」
「ひどくないでしょ。あたしのことだけ見下すようなユッキーなんかいても嬉しくないもん」
初めてユッキー君を見たけど、一目瞭然で春華ちゃんのことが恋愛的な意味で好きなんだとわかったし、同じく傍観者になっている凪沙さんも察しているようだ。
逆に春華ちゃんは憎からず思っているようではあるけど、恋愛に鈍い春華ちゃんらしく恋愛的な好意はまったく感じない・・・そもそも春華ちゃんは恋愛に鈍くて、ローラン君や新谷君からの好意にも全然気付いていない様だし、それがこのユッキー君に対しても同じなだけだと思えば不思議はない。
「えっと、あの、春華ちゃん。彼を紹介してもらっていいかな?」
「そうだよ、ユッキー。あたしの友達たちに紹介させてよ」
「おっ、おう」
「美波ちゃん、二之宮さん、この子はあたし達の従兄弟の若林幸博で、長野に住んでいる中学3年生なの」
「若林・・・幸博です・・・よろしくお願いします」
急に声が小さくなって、言い方も勢いが全然なくなってしまった・・・わたし達を意識したからかな?
「えっと、わたしは岸元美波。春華ちゃん達の幼馴染みです。ユッキー君のことも春華ちゃん達から聞いてたから少しは知ってるよ」
「あ、はい。よろしくお願いします」
まだ声が小さい・・・
「私は二之宮凪沙です。理由あって退学してしまったけど、春華さん達と同じ秀優高校へ通っていたので、その縁で仲良くしてもらっています」
「よろしくお願いします」
わたしの時より声が小さくなってる・・・
「ユッキー、どうしたの?
そんなに人見知りだったっけ?」
「そっ、そんなことはないぞ!」
虚勢を張っているけど、ユッキー君は人見知りのようだ。
帰り支度が済んでいた凪沙さんを見送ってから、今度は2人でそれぞれのケーキのデコレーションを行いながら、近くの椅子に座ってわたし達を見ているユッキー君と春華ちゃんが会話を始めた。
「それにしても、ユッキーはどうしてうちへ来たの?」
「せっかく頼れる伯父さんの家があるのだから、受験の前に東京に慣れるかとか秀優高校に通えるかとか体験したいと母さんにお願いして認めてもらったんだよ。
だから、冬休みが終わるまでお世話になるからよろしくな」
「なるほどね。たしかに、秀優高校に通うならここに住むんだし、受験する前に生活できるのかとか実際にやってみた方がいいってのはあるよね」
「そういうこと」
「でも、なんで冬休みの初日から来たの?
地元の友達とかと遊ばないで大丈夫?」
春華ちゃんに問われて言葉が詰まり顔を赤くするユッキー君の様子から察するに、春華ちゃんと少しでも一緒に居たいから予定を繰り上げて来たんだろう・・・そもそも秀優高校に通いたいからここの家のお世話になるというのも、一番の目的は春華ちゃんと一緒に居たいからにしか見えない。
「良いんじゃない、春華ちゃん。
ユッキー君だって受験生なわけだし、合格したら3年お世話になるこの家の環境で実力が発揮できるかも重要になるだろうし」
「そ、そう!それ!
俺の実力は十分なんだけど、環境に慣れなくて実力が発揮できないと困るから少しでも慣れるためにここに居たいんだよ!」
「なるほどね・・・たしかに、環境に慣れなくて実力が発揮できないと可哀想だもんね・・・
そうだ。どうせうちにいるんだし、あたしが勉強を教えてあげるよ」
「は、春華が!?」
「うん。ほらお姉は大学受験があるし、フユは今この家にいないんだ。だからあたししかいないでしょ?」
「そ、そうか。それなら春華に教わるしかないな」
「なんだよ~。教えてもらう立場で偉そうだなぁ」
春華ちゃんからしたら弟分を可愛がっている感覚なんだろうけど、ユッキー君の立場からしたら憧れのお姉さんに勉強を教えてもらえる状況に嬉しさを隠しきれていない・・・春華ちゃんは気付いていないけど。
「でも、現役の先輩に教わるのは本当に助かるから・・・」
「わかってるよ。可愛い従兄弟のためにお姉ちゃんが協力してあげるから・・・って、美波ちゃんも秀優生徒だし、教えてあげられるよね?」
「それはそうだけど、わたしとユッキー君は今日が初対面だし、慣れるまでは緊張させちゃうと思うからできるだけ春華ちゃんが教えてあげる方が良いと思うよ」
「たしかに、美波ちゃんの言う通りかも?」
わたしが教えてあげるのは構わないけどユッキー君の気持ちを考えて春華ちゃんに見てもらう様に誘導したら、ユッキー君が視線で『あんた良い人だな!』と訴え掛けてきたので微笑み返しておいた。
◆神坂春華 視点◆
美波ちゃんも帰って、楽しかったケーキ作りも終わってしまった。ちなみに、香織ちゃんこと若手声優愛島唄ちゃんお手製のケーキは美波ちゃんも二之宮さんも食べる人が少ないからと断られ、あたしが預からせてもらった。
香織ちゃんへ確認のメッセージを送り『せっかく作ったのだから、本人が家族や友人と食べてもらった方が良いと思う』と書いて切り出したところ、何度かの言葉の応酬の結果、香織ちゃんが今日の仕事帰りに寄って持って帰ることになった。ちなみに、その仕事はWeb動画配信のアニメ作品宣伝のクリスマス特番で、元々出演予定だったキャストが病気で出られなくなったための代打として急遽出演することになったらしく、それが終わってから帰りのタクシーで寄ってくれるというので、タイミングを合わせてマンションの前まで持って行ってあげる約束をした。
ひとりでケーキ作りの後片付けを始めたらユッキーが手伝ってくれて・・・手際が悪くてあまり役には立っていなかったけど、その気持ちが・・・嬉しかったのでお礼を言ったらぶっきら棒な態度で『別に』って返してくるのだけど、直前の片付けとのチグハグさがまたかわいい・・・ユッキーが秀優高校に合格したら3年はそんな感じになるのかと思うと楽しみになってきた。
と言うことで、春華お姉様がしっかり勉強を教えてあげないとダメだね。
片付けが終わって、パパママお姉を呼んだらちょうどみんな家に居てユッキーとあたしも含めた5人で顔を合わせた。
パパから改めて話を聞くと、ユッキーが言っていた様に受験や合格してちゃんとやっていけるかを事前に確認する目的で冬休みの間はずっとうちに居ることになったらしい。そして、その話をあたしが聞いていなかった理由は、パパから声を掛けられていたのにも関わらず、今日のケーキ作りの準備に集中していて気が逸れていたあたしが生返事をしていたからで、パパ達は伝わっていると思っていたらしい・・・それはあたしが悪い。
ユッキーの勉強をあたしが見てあげると言ったらお姉も見てあげると言ってくれたのだけど、流石に自分の大学受験に専念して欲しくてあたしが説得しようと思ってあれこれ考えていたらその間に『やっぱり幸博の事は春華に任せる』と方向転換して『任せといて!』と言ったら満足そうにうなずいて、何がよかったのかお姉は笑みを浮かべていた。
ユッキーがフユがいないことについて疑問を口にしたら、空気が悪くなってしまってみんなで濁したのだけど、明後日にはマンションのすぐ側の家に引っ越してくることがわかっているので、あたしが近日中に会わせると約束してなんとか納得してもらった。
「あれ?ユッキー?どうしてここにいるの?」
ケーキ作り会もほぼほぼ終わり、あとは凪沙さんがこれから帰ろうというところで春華ちゃんにユッキーと呼ばれた少年が入ってきた。
実際に会ったことはなかったけど、春華ちゃん達の従兄弟で若林幸博君という名前だけはずっと前から知っていた存在で、春華ちゃんから聞いていたよりは全然繊細な印象の男の子だと思う。そんな彼がわたし達に構わず春華ちゃんへ話しをし続ける。
「あれ?伯父さんから聞いてない?
俺、冬休みの間お世話になることになったんだよ。」
「そうなの?聞いてないけど、それっていつ決まったの?」
「昨日の夜」
「じゃあ、あたしは今日の準備でバタバタしてたからパパが話しそびれてたのかも」
「そっか、じゃあサプライズになったな」
「たしかに驚きはしたけど、喜んではいないよ」
「ひでぇな!」
「ひどくないでしょ。あたしのことだけ見下すようなユッキーなんかいても嬉しくないもん」
初めてユッキー君を見たけど、一目瞭然で春華ちゃんのことが恋愛的な意味で好きなんだとわかったし、同じく傍観者になっている凪沙さんも察しているようだ。
逆に春華ちゃんは憎からず思っているようではあるけど、恋愛に鈍い春華ちゃんらしく恋愛的な好意はまったく感じない・・・そもそも春華ちゃんは恋愛に鈍くて、ローラン君や新谷君からの好意にも全然気付いていない様だし、それがこのユッキー君に対しても同じなだけだと思えば不思議はない。
「えっと、あの、春華ちゃん。彼を紹介してもらっていいかな?」
「そうだよ、ユッキー。あたしの友達たちに紹介させてよ」
「おっ、おう」
「美波ちゃん、二之宮さん、この子はあたし達の従兄弟の若林幸博で、長野に住んでいる中学3年生なの」
「若林・・・幸博です・・・よろしくお願いします」
急に声が小さくなって、言い方も勢いが全然なくなってしまった・・・わたし達を意識したからかな?
「えっと、わたしは岸元美波。春華ちゃん達の幼馴染みです。ユッキー君のことも春華ちゃん達から聞いてたから少しは知ってるよ」
「あ、はい。よろしくお願いします」
まだ声が小さい・・・
「私は二之宮凪沙です。理由あって退学してしまったけど、春華さん達と同じ秀優高校へ通っていたので、その縁で仲良くしてもらっています」
「よろしくお願いします」
わたしの時より声が小さくなってる・・・
「ユッキー、どうしたの?
そんなに人見知りだったっけ?」
「そっ、そんなことはないぞ!」
虚勢を張っているけど、ユッキー君は人見知りのようだ。
帰り支度が済んでいた凪沙さんを見送ってから、今度は2人でそれぞれのケーキのデコレーションを行いながら、近くの椅子に座ってわたし達を見ているユッキー君と春華ちゃんが会話を始めた。
「それにしても、ユッキーはどうしてうちへ来たの?」
「せっかく頼れる伯父さんの家があるのだから、受験の前に東京に慣れるかとか秀優高校に通えるかとか体験したいと母さんにお願いして認めてもらったんだよ。
だから、冬休みが終わるまでお世話になるからよろしくな」
「なるほどね。たしかに、秀優高校に通うならここに住むんだし、受験する前に生活できるのかとか実際にやってみた方がいいってのはあるよね」
「そういうこと」
「でも、なんで冬休みの初日から来たの?
地元の友達とかと遊ばないで大丈夫?」
春華ちゃんに問われて言葉が詰まり顔を赤くするユッキー君の様子から察するに、春華ちゃんと少しでも一緒に居たいから予定を繰り上げて来たんだろう・・・そもそも秀優高校に通いたいからここの家のお世話になるというのも、一番の目的は春華ちゃんと一緒に居たいからにしか見えない。
「良いんじゃない、春華ちゃん。
ユッキー君だって受験生なわけだし、合格したら3年お世話になるこの家の環境で実力が発揮できるかも重要になるだろうし」
「そ、そう!それ!
俺の実力は十分なんだけど、環境に慣れなくて実力が発揮できないと困るから少しでも慣れるためにここに居たいんだよ!」
「なるほどね・・・たしかに、環境に慣れなくて実力が発揮できないと可哀想だもんね・・・
そうだ。どうせうちにいるんだし、あたしが勉強を教えてあげるよ」
「は、春華が!?」
「うん。ほらお姉は大学受験があるし、フユは今この家にいないんだ。だからあたししかいないでしょ?」
「そ、そうか。それなら春華に教わるしかないな」
「なんだよ~。教えてもらう立場で偉そうだなぁ」
春華ちゃんからしたら弟分を可愛がっている感覚なんだろうけど、ユッキー君の立場からしたら憧れのお姉さんに勉強を教えてもらえる状況に嬉しさを隠しきれていない・・・春華ちゃんは気付いていないけど。
「でも、現役の先輩に教わるのは本当に助かるから・・・」
「わかってるよ。可愛い従兄弟のためにお姉ちゃんが協力してあげるから・・・って、美波ちゃんも秀優生徒だし、教えてあげられるよね?」
「それはそうだけど、わたしとユッキー君は今日が初対面だし、慣れるまでは緊張させちゃうと思うからできるだけ春華ちゃんが教えてあげる方が良いと思うよ」
「たしかに、美波ちゃんの言う通りかも?」
わたしが教えてあげるのは構わないけどユッキー君の気持ちを考えて春華ちゃんに見てもらう様に誘導したら、ユッキー君が視線で『あんた良い人だな!』と訴え掛けてきたので微笑み返しておいた。
◆神坂春華 視点◆
美波ちゃんも帰って、楽しかったケーキ作りも終わってしまった。ちなみに、香織ちゃんこと若手声優愛島唄ちゃんお手製のケーキは美波ちゃんも二之宮さんも食べる人が少ないからと断られ、あたしが預からせてもらった。
香織ちゃんへ確認のメッセージを送り『せっかく作ったのだから、本人が家族や友人と食べてもらった方が良いと思う』と書いて切り出したところ、何度かの言葉の応酬の結果、香織ちゃんが今日の仕事帰りに寄って持って帰ることになった。ちなみに、その仕事はWeb動画配信のアニメ作品宣伝のクリスマス特番で、元々出演予定だったキャストが病気で出られなくなったための代打として急遽出演することになったらしく、それが終わってから帰りのタクシーで寄ってくれるというので、タイミングを合わせてマンションの前まで持って行ってあげる約束をした。
ひとりでケーキ作りの後片付けを始めたらユッキーが手伝ってくれて・・・手際が悪くてあまり役には立っていなかったけど、その気持ちが・・・嬉しかったのでお礼を言ったらぶっきら棒な態度で『別に』って返してくるのだけど、直前の片付けとのチグハグさがまたかわいい・・・ユッキーが秀優高校に合格したら3年はそんな感じになるのかと思うと楽しみになってきた。
と言うことで、春華お姉様がしっかり勉強を教えてあげないとダメだね。
片付けが終わって、パパママお姉を呼んだらちょうどみんな家に居てユッキーとあたしも含めた5人で顔を合わせた。
パパから改めて話を聞くと、ユッキーが言っていた様に受験や合格してちゃんとやっていけるかを事前に確認する目的で冬休みの間はずっとうちに居ることになったらしい。そして、その話をあたしが聞いていなかった理由は、パパから声を掛けられていたのにも関わらず、今日のケーキ作りの準備に集中していて気が逸れていたあたしが生返事をしていたからで、パパ達は伝わっていると思っていたらしい・・・それはあたしが悪い。
ユッキーの勉強をあたしが見てあげると言ったらお姉も見てあげると言ってくれたのだけど、流石に自分の大学受験に専念して欲しくてあたしが説得しようと思ってあれこれ考えていたらその間に『やっぱり幸博の事は春華に任せる』と方向転換して『任せといて!』と言ったら満足そうにうなずいて、何がよかったのかお姉は笑みを浮かべていた。
ユッキーがフユがいないことについて疑問を口にしたら、空気が悪くなってしまってみんなで濁したのだけど、明後日にはマンションのすぐ側の家に引っ越してくることがわかっているので、あたしが近日中に会わせると約束してなんとか納得してもらった。
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