195 / 251
第195話
しおりを挟む
◆神坂冬樹 視点◆
土曜日でお互いに予定がなかったので美晴さんと不動産仲介業者の営業所を訪ねていた。
美晴さんにはあまり出歩いて欲しくなかったけど、適度に運動した方が良いし僕が一緒だから『デート気分になれて嬉しい』と言われてしまっては拒むことはできなかった。
そして、不動産取得についての話が終わったところで、不動産会社の提携しているリフォーム業者の営業さんがドタキャンされて空いているからと呼び出してくれた。
「身体が空いてたからお嬢ちゃん達の新婚さんごっこにお付き合いしますけど、学生さんのお小遣いじゃドア1枚交換できませんよ」
挨拶にきて名刺を渡された直後にその様な発言をされた。若い僕らを見て冷やかしだと思った様で、皮肉を言ったつもりなのかもしれない。もしかすると、過去にお金もその意思もないのに学生の冷やかしに付き合わされて徒労に終わったことが何度もあったのかもしれない・・・そういう意味では以前の対応で労力を無駄にさせられた事は気の毒だと思うし、学生だから無駄な時間を過ごさせられるという気持ちを持ってしまったのかもしれないが、僕らは本気だから偏見で軽くあしらわれたのは残念だし、美晴さんをバカにするような態度は不快だ。
「お客様になんて無礼な!
こちらの神坂様は既に売買合わせて5件のお取引をしていただいているお得意様なんだぞ!
しかも、今回のこの新しいお住まいと今お住まいのマンションについても仲介のご依頼をいただく予定でもあるんだ!
どなた様であってもお客様には丁寧に対応するべきだが、こちらの方は特にバカにする様なことを言って良い相手じゃないぞ!
今すぐそこへ手を突いて詫びろ!」
営業担当の高野さんはリフォーム業者氏へ対して恐ろしいほど激しく叱責し、今度は僕達の方へ振り向いて先の発言通り手を床へ突き、頭を床へ叩きつけるような勢いで下げていわゆる土下座と呼ばれる姿勢を取った。
「神坂様、申し訳ございません。弊社に連なる者が不快な思いをさせる事となり申し訳ございませんでした!
この者の会社へは私から責任を持って報告し、その後の対応についても私が責任を持って対応とご報告をさせていただきます!」
「どうか頭を上げてください。学生の僕相手でも、いつも丁寧に対応してくださっていて感謝しているんですから。
それに、こちらの方の様に若さを理由に見下してこられる大人には何度も対してきましたし、慣れていますから」
「いや、でも・・・」
高野さんへ近付き、頭を上げて立つ様に促すために身体を軽く引き上げる様に力を入れたら、その流れで高野さんは立ち上がってくれた。
「それに、高野さんが僕の代わりに怒ってくれたので清々していますから」
その後、騒ぎを聞いて駆け付けてきた他の営業さんが高野さんの様子に驚いていて、聞くと高野さんは僕の印象通り温和で優しい人という認識で、同僚として長年付き合っていても怒ったところを見たことがなかったそうだ。
そんな怒らないと思われていた人が客である僕らがいるのに怒鳴るというのは異例のことで、丁度出先から戻ってきた営業所長も謝罪と合わせて挨拶をしてくれた。
その間、部屋の隅で僕らのやり取りを見ていたリフォーム業者氏は震えていた。
ちょっとしたアクシデントはあったものの概ね問題なく不動産取得についての話を終えられて、帰る前に少し休みましょうと提案して喫茶店へ入った。
二人して注文したホットミルクが給仕されたので飲みながら雑談として先程の高野さん達とのやり取りの事を話していたら、美晴さんのスマホが通話着信した。
「鷺ノ宮那奈さんから、出るね」
美晴さんが那奈さんからの着信であり通話することを告げてきたので、僕が頷いて了承の意を伝えると美晴さんは応答した。
「岸元です。はい、大丈夫です。
・・・ええ?目を覚まされないのですか?
・・・もちろん、それはさせていただきますが、むしろ妹と高梨先生へ那奈さんの連絡先をお伝えしてもよろしいですか?
・・・全然手間ではないですから、はい、冬樹くんにも伝えます。
・・・病院の情報は間違えない様にメッセージアプリで送っていただければと思います。
・・・はい、はい、承知しました。それではお大事になさってください」
美晴さんが通話を終えて、那奈さんからの電話の内容を教えてもらった。
二之宮さんが出先で例の事件で関わっていたサッカー部の高橋先輩の妹に遭遇し、先輩の件で口論になってしまい弾みで激昂した妹から殴られて意識を失い病院へ運ばれたと言うことで、それを美波や高梨先生や僕へ伝えて欲しいという事だった。その流れで那奈さんの連絡先を美波と高梨先生へ教えて良いという了承をもらって、ふたりへそれらの内容のメッセージを送りながら僕へ話をしてくれていた。
「二之宮さんのお見舞いへ行く?」
お見舞いに行くという発想はなかったけど、行くのも良いかもしれない。ただ、今行っても那奈さんの邪魔をするだけになると思う。
「一旦様子を見ましょう。恐らく今行っても、那奈さんの邪魔をするだけだと思います」
「そうだね、たしかに状況が落ち着いてからにするべきだね」
土曜日でお互いに予定がなかったので美晴さんと不動産仲介業者の営業所を訪ねていた。
美晴さんにはあまり出歩いて欲しくなかったけど、適度に運動した方が良いし僕が一緒だから『デート気分になれて嬉しい』と言われてしまっては拒むことはできなかった。
そして、不動産取得についての話が終わったところで、不動産会社の提携しているリフォーム業者の営業さんがドタキャンされて空いているからと呼び出してくれた。
「身体が空いてたからお嬢ちゃん達の新婚さんごっこにお付き合いしますけど、学生さんのお小遣いじゃドア1枚交換できませんよ」
挨拶にきて名刺を渡された直後にその様な発言をされた。若い僕らを見て冷やかしだと思った様で、皮肉を言ったつもりなのかもしれない。もしかすると、過去にお金もその意思もないのに学生の冷やかしに付き合わされて徒労に終わったことが何度もあったのかもしれない・・・そういう意味では以前の対応で労力を無駄にさせられた事は気の毒だと思うし、学生だから無駄な時間を過ごさせられるという気持ちを持ってしまったのかもしれないが、僕らは本気だから偏見で軽くあしらわれたのは残念だし、美晴さんをバカにするような態度は不快だ。
「お客様になんて無礼な!
こちらの神坂様は既に売買合わせて5件のお取引をしていただいているお得意様なんだぞ!
しかも、今回のこの新しいお住まいと今お住まいのマンションについても仲介のご依頼をいただく予定でもあるんだ!
どなた様であってもお客様には丁寧に対応するべきだが、こちらの方は特にバカにする様なことを言って良い相手じゃないぞ!
今すぐそこへ手を突いて詫びろ!」
営業担当の高野さんはリフォーム業者氏へ対して恐ろしいほど激しく叱責し、今度は僕達の方へ振り向いて先の発言通り手を床へ突き、頭を床へ叩きつけるような勢いで下げていわゆる土下座と呼ばれる姿勢を取った。
「神坂様、申し訳ございません。弊社に連なる者が不快な思いをさせる事となり申し訳ございませんでした!
この者の会社へは私から責任を持って報告し、その後の対応についても私が責任を持って対応とご報告をさせていただきます!」
「どうか頭を上げてください。学生の僕相手でも、いつも丁寧に対応してくださっていて感謝しているんですから。
それに、こちらの方の様に若さを理由に見下してこられる大人には何度も対してきましたし、慣れていますから」
「いや、でも・・・」
高野さんへ近付き、頭を上げて立つ様に促すために身体を軽く引き上げる様に力を入れたら、その流れで高野さんは立ち上がってくれた。
「それに、高野さんが僕の代わりに怒ってくれたので清々していますから」
その後、騒ぎを聞いて駆け付けてきた他の営業さんが高野さんの様子に驚いていて、聞くと高野さんは僕の印象通り温和で優しい人という認識で、同僚として長年付き合っていても怒ったところを見たことがなかったそうだ。
そんな怒らないと思われていた人が客である僕らがいるのに怒鳴るというのは異例のことで、丁度出先から戻ってきた営業所長も謝罪と合わせて挨拶をしてくれた。
その間、部屋の隅で僕らのやり取りを見ていたリフォーム業者氏は震えていた。
ちょっとしたアクシデントはあったものの概ね問題なく不動産取得についての話を終えられて、帰る前に少し休みましょうと提案して喫茶店へ入った。
二人して注文したホットミルクが給仕されたので飲みながら雑談として先程の高野さん達とのやり取りの事を話していたら、美晴さんのスマホが通話着信した。
「鷺ノ宮那奈さんから、出るね」
美晴さんが那奈さんからの着信であり通話することを告げてきたので、僕が頷いて了承の意を伝えると美晴さんは応答した。
「岸元です。はい、大丈夫です。
・・・ええ?目を覚まされないのですか?
・・・もちろん、それはさせていただきますが、むしろ妹と高梨先生へ那奈さんの連絡先をお伝えしてもよろしいですか?
・・・全然手間ではないですから、はい、冬樹くんにも伝えます。
・・・病院の情報は間違えない様にメッセージアプリで送っていただければと思います。
・・・はい、はい、承知しました。それではお大事になさってください」
美晴さんが通話を終えて、那奈さんからの電話の内容を教えてもらった。
二之宮さんが出先で例の事件で関わっていたサッカー部の高橋先輩の妹に遭遇し、先輩の件で口論になってしまい弾みで激昂した妹から殴られて意識を失い病院へ運ばれたと言うことで、それを美波や高梨先生や僕へ伝えて欲しいという事だった。その流れで那奈さんの連絡先を美波と高梨先生へ教えて良いという了承をもらって、ふたりへそれらの内容のメッセージを送りながら僕へ話をしてくれていた。
「二之宮さんのお見舞いへ行く?」
お見舞いに行くという発想はなかったけど、行くのも良いかもしれない。ただ、今行っても那奈さんの邪魔をするだけになると思う。
「一旦様子を見ましょう。恐らく今行っても、那奈さんの邪魔をするだけだと思います」
「そうだね、たしかに状況が落ち着いてからにするべきだね」
0
お気に入りに追加
173
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
冤罪で自殺未遂にまで追いやられた俺が、潔白だと皆が気付くまで
一本橋
恋愛
ある日、密かに想いを寄せていた相手が痴漢にあった。
その犯人は俺だったらしい。
見覚えのない疑惑をかけられ、必死に否定するが周りからの反応は冷たいものだった。
罵倒する者、蔑む者、中には憎悪をたぎらせる者さえいた。
噂はすぐに広まり、あろうことかネットにまで晒されてしまった。
その矛先は家族にまで向き、次第にメチャクチャになっていく。
慕ってくれていた妹すらからも拒絶され、人生に絶望した俺は、自ずと歩道橋へ引き寄せられるのだった──
彼女の浮気現場を目撃した日に学園一の美少女にお持ち帰りされたら修羅場と化しました
マキダ・ノリヤ
恋愛
主人公・旭岡新世は、部活帰りに彼女の椎名莉愛が浮気している現場を目撃してしまう。
莉愛に別れを告げた新世は、その足で数合わせの為に急遽合コンに参加する。
合コン会場には、学園一の美少女と名高い、双葉怜奈がいて──?
冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい
一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。
しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。
家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。
そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。
そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。
……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──
どうして隣の家で僕の妻が喘いでいるんですか?
ヘロディア
恋愛
壁が薄いマンションに住んでいる主人公と妻。彼らは新婚で、ヤりたいこともできない状態にあった。
しかし、隣の家から喘ぎ声が聞こえてきて、自分たちが我慢せずともよいのではと思い始め、実行に移そうとする。
しかし、何故か隣の家からは妻の喘ぎ声が聞こえてきて…
お兄ちゃんが私にぐいぐいエッチな事を迫って来て困るんですけど!?
さいとう みさき
恋愛
私は琴吹(ことぶき)、高校生一年生。
私には再婚して血の繋がらない 二つ年上の兄がいる。
見た目は、まあ正直、好みなんだけど……
「好きな人が出来た! すまんが琴吹、練習台になってくれ!!」
そう言ってお兄ちゃんは私に協力を要請するのだけど、何処で仕入れた知識だかエッチな事ばかりしてこようとする。
「お兄ちゃんのばかぁっ! 女の子にいきなりそんな事しちゃダメだってばッ!!」
はぁ、見た目は好みなのにこのバカ兄は目的の為に偏った知識で女の子に接して来ようとする。
こんなんじゃ絶対にフラれる!
仕方ない、この私がお兄ちゃんを教育してやろーじゃないの!
実はお兄ちゃん好きな義妹が奮闘する物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる